×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

死なれるのが、怖かった。





喉が渇いた。
階段を降りながら、くあ、と欠伸をする。眠い。すげー眠い。部屋になんか適当な飲み物持って行っとけば良かった。

一階の台所に向かう。暗すぎて前が見えないので、廊下の電気を付けた。

台所は、突き当たりの右側にある。深夜だから、みんなが寝てる時間だから、そこには誰もいないと思っていた。電気がついていない、真っ暗な場所を想像していた。なのに。

電気がついている。
部屋に入る。ごぉぉ、と唸る冷蔵庫の起動音の他に、音があった。たくさんの音が。動き回る音。何かを開ける音。
音だけではない。人もいた。音通り、必死に陳列棚の中を漁っていた。後ろ姿しか見えなかったが、服装からして、あの女子高生というのが分かる。昨日一緒に夕飯を食った、あの――。


「おい、何してんでィ。飯漁りか。多分何もねェぞ」


問い掛けに返答はない。ただただ無心で、何かを探しているようだった。
それどころか、俺の存在にさえ気付いていないように見える。


「……あんた、何探してんだ」


問い掛ける。けれど、応答はない。
奇妙な違和感と気味悪さを感じた俺は、彼女の肩に手を当て、此方に振り向かせる。

――正直、寝惚けていただけだと思ってた。


『……』


彼女は、涙を流していた。俺を見たから、涙を流したのではない。ぼろぼろと涙を流している姿より、長い間泣いていることが予測される。

――泣きながら何を探しているんだ。
――いや、そもそも、何で泣いているんだ。

俺の制止を振り切り、彼女はまた一心不乱に何かを探し続ける。嗚咽を漏らしながら何かを。


「…あんた、何探してるんでィ。俺の方がここに長くいるし、物の場所は分かる」
『……』
「なあ、何を」


彼女は何かを手にした。何かを見つけた様だ。
それを、見せつけられる。


「·····それ」


彼女はそれを首にかざす。涙を流しながら。ただ、冷淡にかざしてみせた。いや、違う。もしかしたら、俺のことに気付いていない。怖い。俺を見ていない。やばい。俺を見ろ。俺を見ろ。早く、気付け。俺を。俺に。俺を。


「俺を、見てくれ」


手を掴んだ。思わず、手が出ていた。止めずにはいられなかった。このまま死ぬのを見ていたら、俺さえも死んでしまいたくなる気がした。


「やめてくれ」


からん、と脱力した手の平から、包丁が落ちた。彼女を抱き締める。これもまた、身体が勝手に動いていた。

彼女の身体が、震え始めた。うっう、と嗚咽も漏れ始めた。自然と手が、彼女の頭を優しく撫でる。こいつ、名前はなんて言ったっけな。覚えてねえや。でも、優しい、笑顔に似合った名前だった気がする。


『ごめんなさい』


謝られる。謝られて当然だ。救ってやったんだから。だから、そんなこと二度とするんじゃねえ。命を無駄にするんじゃねえ。人は、二度と生き返れねェんだぞ。分かってんのか。簡単に死のうとすんな。

手が震えた。俺も、つられて泣きそうになった。


「俺の前で、死ぬな」


彼女の頷きを待たず、俯いた。どうしていいか分からなかった。彼女を抱き締め続ければいいのか、離れればいいのか分からなくて、とりあえず彼女が泣き止むのを待つことにした。



top