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- ナノ -

ゴリラさん。



出会ってみたら、まあ確かにゴリラだった。


『……こ、こんにちは』
「こんにちは。わざわざ遠い所から来てくれて有難う! お腹空いてるかい? あ、お菓子あるけど食べる?」
「おっさんのポッケから出てきたバキボキの菓子なんて誰が食うかよ。貰わなくていいからな、四井」
『え、いや…』
「何言ってんだトシ! バキボキじゃねーよ。これは朝、俺が食べようと思って持ってたミニチョコパイだ!バキボキにはなってねーよ!」
「そうだなバキボキじゃねェな。ベチャベチャだな、ミニチョコパイもあんたの頭も」
「なんだ、相変わらず辛辣だなぁトシ。お客さんの前なんだからカッコつけさせてくれよ」
「いやあんた……もういいツッコミ疲れた。とりあえず客間にでも案内してくれ、近藤さん」
「ああ、そうだな悪い。お茶でも出すよ、上がってくれ二人とも」


私たちを出迎えてくれたこの方が、土方さんが私に会わせたかった方、ゴリラさんである。嘘です。近藤さんという名前の方だ。背が高くて、なんというかゴツい。でも優しそうに笑ってくれる人で、少し安心した。


茶色いぴかぴかな廊下を近藤さんの後ろで、土方さんと共に歩く。とても広い廊下だった。というか、建物自体も広くて、大きい。小さい小学校のようだ。広い庭もあるし、たくさん遊具もあるし……うん、多分、ここは――。


「どうぞ。自分の家のように寛いでくれ」
『あ、ありがとうございます…!』
「お客さん、飲み物は何がいい?珈琲?紅茶?あ、オレンジとか烏龍茶もあった気がする」
『あ…じゃ、じゃあオレンジでお願いします…』
「了解。トシは?珈琲でいいか?」
「ああ」
「砂糖は?」
「いらねェ」
「ん。ちょっと待っててくれ」
「ああ、悪ぃ」


私たちに飲み物を持ってきてくれるため、近藤さんが客間から姿を消した。四つばかりある座布団を、私と土方さんは使った。緊張して正座で座っている私に対し、胡座をかいている土方さんは、私に「緊張してんのか」と聞いた。そりゃそうだよ。


「あの人には緊張する必要はねえよ。だからと言って無礼な態度を取っていい人でもねえ。…まあ、ただの優しいおっさんだから、肩の力抜けよ」
『優しいおじさん…。…でも、分かります。優しそうな人ですね』
「ああ」
『…私に会わせたかった方ですよね?』
「そうだ。ゴリラだったろ」
『まあ分からないこともないですけど……ゴリラ寄りのかっこいいおじさんって感じです』
「あ?…あれがかっこいい?」


土方さんが眉間に皺を寄せる。かなり納得がいっていない顔だ。すると同時に、がらがらと戸が開き、「そうだ、俺はかっこいいおじさんだ」と、そう口にするドヤ顔な近藤さんが現れた。
左手に持っているお盆の上には、氷が中で跳ねているオレンジジュースとアイスコーヒーが乗っていた。


「女子高生にかっこいいって言われて調子こくのだけは止めてくれよ近藤さん」
「大丈夫だトシ。なぜなら俺は常に調子こいている」
「まさかの自覚済みかよ」


焦げ茶の大きなローテーブルの上に、アイスコーヒーとオレンジジュースが置かれた。どうもありがとうございますとお辞儀をし、珈琲を土方さんに、オレンジを私の方へ寄せた。
お菓子がびっくりするほど無かったんだ、悪いな、と苦笑する近藤さんに大きく横に首を振った。


『大丈夫です。いろいろ、ありがとうございます』
「いえいえ。トシの大事なお客さんだからな。ああ、しっかりと名乗ってなかった。俺は近藤勲。トシの昔馴染みみたいなもんで、家に入って分かったかもしれないが、児童養護施設の施設長?みたいなものをやっている。そんな大層なものではないが…」


やっぱり。児童養護施設だった。


「君の名前を教えてくれるかい?」
『…あ、えっと、名字名前です。高校…えっと…十八歳です。土方さんに色々助けていただいて、本当に助かっています。土方さんにはとてもお世話になっております…』
「…あー…どうも」
「うんうん。名前ちゃん、本当に今日は遠い所から有難う。トシから色々話を聞いてな。信頼関係も出来ていないのにこんなこと訊くのはまだ早いとは思うんだが……」


名前ちゃん、ここで一緒に暮らさないか。


近藤さんが、じっと私の目を見て言った。


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