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七話『造作もないようで。』


「いやあああぁぁぁ!!」

少女のけたたましい金切り声が聞こえた。叫んでいるのは先程の十代前後の女子高校生。まあ、叫ぶのも無理はないだろう。あの都市伝説の黒バイクが彼女の腕をガシリと掴んだのだから。

「いやアア!」

周りのどよめきと少女の悲鳴しか聞こえない中、静雄と名前は呆然とした顔で話し出す。

「…ありゃセルティ何やってんだ?」
『さあ。とりあえず止めないとやばそうだよね。何か周りざわついてるし』

静雄はそうだなと呟くと、少女とセルティの前へグイッと体を出した。彼の口から出るのは、やはり暴れまくる少女を制する言葉。ひらひらと手を振りながら少女に言った。

「あー落ち着いて下さい。俺達は別に怪しいもんじゃなーー…。…あ?」
『なに、どうしたの静…』

言葉を止める静雄の方を見れば、静雄は顔をしかめながら自身の太腿を見ていた。いや、太腿に刺さっているボールペンをと言ったほうがいいか。続けて二本目をドスッと刺したのは、静雄の背後にいた怖い形相をしたこれまた十代前後の男子高校生。彼の口から出たのもやはり露にした表情通りの言葉。

「ーー彼女を放せ」
[(静雄!? あ!!)]

その隙に逃げ出す少女を見てセルティは慌てた様子で、静雄と遠くなっていく少女の背中を交互に見渡す。静雄はまた平然とした顔で笑いながらセルティに言った。

「大丈夫。だからいいよ、行って。よくわからないけど、追っかけなきゃヤバイんだろ?」
『…』
「一度言ってみたかったんだ。“ここは俺に任せて先に行け”ってよ」
『(うっわー凄い昔の捨てゼリフ)』

静雄の堂々とした言い方にセルティはパン!と手を叩いてお辞儀をすると、駆け足で逃げていった少女を追いかけていった。
残された男子高校生はその後ろを追いかけようとする。すぐに背後にいた男に捕まってしまうのだが。

「あの子君の彼女?」
「そうだ!俺の運命の人だ!!」
『運命の人?』
「彼女、なんであんなんなの?」
「知るか!」
「彼女の名前は?」
「そんなもの知るか!」
「………」


静雄がついに質問しなくなった。それと同時に名前は苦笑いをしながらそっと傍を離れる。

まぁ、当然あれだろうね。

「なんだそりゃああぁぁぁ!!!」

キレるだろうね。

ドォン!!!
静雄の怒号が背後から聞こえた。それとトラックにぶつかった鈍い音も。名前は振り返ることもなく、男子高校生にご愁傷様と呟くとその場から離れていった。

静雄も大変だなぁ。単細胞で。

静雄の直ぐに怒りを露にする単細胞な部分を、名前はヘラヘラと笑いながら軽く貶した。
まあ、池袋に静雄がいないとつまらないけど。臨也も口では静雄のことを貶しているが、池袋に静雄が必要なことを彼が一番痛感している。

にしてもーー。

『(セルティ…あの女の子を追いかけてどうしたんだろ。まぁ大方…臨也に頼まれた仕事だろうけど)

セルティに軽く同情しながら歩いていると、目の前から知り合いがよう。とでも言うように手を振りながら近づいて来ているのに気付いた。あの赤毛で高級眼鏡の男は、赤林しか居ない。

『赤林さん。仕事帰りですか?』
「んー、いやこれから専務ん所に顔出しに行くんだよ。名前ちゃんも来るかい?」
『いいや、またの機会にしておきます。あ、それと今表に出るんだったら標識降ってくるかもしれないんで、気を付けて下さい』
「なんだ。またバーテンさんが暴れてんのかい」
『まぁそんなもんです。じゃあ、赤林さん。お疲れ様です』

お互い暇だったら今度飲みましょう。と軽い約束を交わして、二人は直ぐに別れた。
私が今向かっている場所は、自宅から正反対のとある高級マンション。臨也のマンションではない。昔の同級生の家だ。

『新羅、居るかな』

闇医者だから家に引き篭もってるか。と、くつくつ笑って名前は夜道を歩いた。


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