女兎が啼く | ナノ
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愉快な仲間の総統に会いに。






地球に着いた時にはもう既に日は暮れ、京に着いた時には午後八時を迎えていた。鬼兵隊の船の場所は持っていた地図で見ながら探した 。人通りのない静かな場所まで歩けば、遠くの方に船があるのが確認できる。ああ、あれが鬼兵隊の船か。
私は傘をブラブラと揺らしながら船を目指し歩いていけば、建物の隅で一人の男が無線を通して誰かと話しているのに気付く。声を潜めて話しているのか、会話は聞こえない。

簡単に考えれば、鬼兵隊を恨む者に違いないだろう。それか、真選組。鬼兵隊を潰しに来たのだと考えた方が早い。

静かにその男の背後に回り、傘を大きく男の頭めがけて振り落とした。衝撃と痛みで男は呻き声を漏らし、意識を失ったのかそのまま倒れていく。ただの気絶だと思うが目を覚ませば面倒くさい。念の為こんな時の為に持ってきておいたロープで体を縛る。縛ると、男を古く使われていない錆びれた建物の中へ放置しておく。無線は邪魔なので、壊して海じゃない方へ大きく投げた。海に投げた場合、発信機なのがあったら面倒だしね。

一仕事を終えて船に寄ると、入口から茶色の着物を身に纏った男が出てきた。


「誰だ」

『私、春雨の幹部の名前と申します。高杉殿に会いたいのですが』

「あぁ、貴方ですか。それは失礼致しました。話は伺っております。中へお入りください」


どうも、とニッコリ笑うと、思い出したように声をあげて男に忠告の意を示した。


『敵方の人か知りませんけど、男が船見ながら無線で何か話してましたよ?逃げられないように近くの建物の中へ縛って入れておきましたけど、注意してくださいね』

「あっ…申し訳ありません…有難うございます。それでその無線というのは…?」

『ああ、遠くの方へ投げておきました。大丈夫です、粉々に壊しておきましたから』

「…わ、分かりました。有難うございます」


再度しっかりと男は礼をし、頭を下げた。
船内へ入ると、キョロキョロと顔を動かして中を見る。思ったよりも中は広く、とても綺麗だった。フーンと声を漏らしながら、周りをあちこち見ていると、前から金髪のツンと澄ましている女が近付いてきた。


「アンタが春雨の?」

『あぁはい。名前です』

「晋助様の所へ案内するっス」


そう吐き捨てるように、そそくさと女は歩いて行った。チャラついた風貌をしているが、彼女も鬼兵隊の一員であることに間違いはない。平然とした顔でその後ろを着いていきながら、私は彼女に尋ねた。


『あなた、名前は?』

「…来島また子っス」

『来島さんですね。了解しました』

「…あの」


来島また子と名乗る金髪の彼女は、突然動きを止めて後ろを向いた。キッと皺を寄せる彼女はお局のような顔をしている。そして次に、低く、尖った声でなにやら私を威嚇してきた。


「晋助様に色気使ったらホント許さないッスからね!?マジ殺すッスよ!」

『え?いや...私色気なんて使う気更々ないですよ。それより貴方の方がお腹見せてますし、お色気アピール凄いですよ』

「やっぱりアンタもそう思うっスか!? でも全然晋助様私のこと見てくれないんスけど!」

『あぁやっぱりお色気アピールだったんですね。でもどうしてでしょうね...。』


彼女の色気問題など微塵も興味はなかったが、彼女の機嫌を損ねては面倒臭そうだ。彼女が高杉の妾であれば、の話だが。頬杖を寄せて悩んだ顔をした来島さんの後ろには堅物そうな中年の男が寄ってきていた。誰だ、やつは。私は眉を潜めた。


「やっぱアンタくらいの美貌がなくちゃ駄目なんスかね…」

「そうですよまた子さん!まず可愛くなりたいのなら、とびきりキュートな名前さんが持ち合わしている紀蘭へ生まれ変わりなさい。そして12歳くらいの顔になりなさい」

「何スかそれ!!!ただのロリコンじゃないッスか!」

「ロリコンじゃありませんフェニミストです」


意味が分からない掛け合いを見ていて、ん?と私は首を傾げる。もしや、こいつ等...。


『あの、私が紀蘭って事知ってるんですか?』

「「うん」」

『えっ』

「アンタが夜兎と紀蘭のハーフって事も知ってるッスよ」

『えっ』

「なんせ晋助殿が言ってましたからね」

『えっ』


団長…。
私は真顔で数秒固まり、心の中で魂から叫んだ。


『(…知られてますけどォォォォォ!!!!! もう既に無理なんですけど!大丈夫なの、私の貞操大丈夫なの!?)』


すると頭の中の神威が、私に手を振りながら「貞操も何もそんなのないヨ」と、笑顔で言っているような感じがした。

私の中の団長はどれだけ憎たらしいんだ...。

軽く舌打ちをすると、早く此処から出る為、鬼兵隊の首領の高杉晋助の場所を尋ねることにした。


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