40万打部屋 | ナノ

餌付けされるな!

「はい、これ」
「ありがとー!」


今日はホワイトデー当日!
バレンタインデーの日に部署の皆と、お世話になっている人にチョコを渡した私はそのお返しを朝から貰っていた。
渡してない人からも貰ったけど、好意を無駄にできないので全部受け取ったけど…。


「お前すげェな…」
「……どうしよう」


デスクの上にこんもり乗ったお菓子たち。
嬉しいことは嬉しい。だけど置く場所がない!
仕方なく紙袋に入れ、足元に置いておくことにした。


「おはよう」
「あ、おはようサボくん」
「うーす」
「ははっ、凄いな名前。モテモテじゃん」


珍しくゆっくり出勤したサボくんに挨拶をすると、足元の荷物を見て爽やかに笑った。
…何だかいやにスッキリした感じだなー。昨日いいことあったのかな?


「エースくんとサボくんほどじゃないよ」
「それでもお返しでそれだけ貰うのは凄いだろ」
「名前、ちょっと食っていいか?」
「ダメだよ!せっかく私にってくれたんだから」
「ケチー」
「嫁に「旦那からたくさんチョコもらったの。よかったら食べて」って知らない男に言われたら嬉しいか?」
「さーて、今日も頑張るかー!」


身体を伸ばしながら背中を向け、自分のデスクに戻るエースくん。
そろそろ朝礼が始まる時間。
サボくんと一緒に掃除をして、仕事をする準備を整える。
さて、今日もオヤジさんの為に頑張ろう!


「名前、それどうにかしてくれ」
「え?」


朝会も終わり、デスクで仕事をしていたらエースくんがお腹を抑えながら私に話しかけてきて。
「それ」というのは、私の足元にあるお菓子のこと。
大量にあるせいで、甘い匂いがエースくんの鼻を刺激し、お腹をグーグーと鳴らしている。


「ごめんね」
「いや、いいんだけどな…。でも腹減った…」
「お前はいっつも腹空かせてんだろうが。あ、名前。これコピーしといてくれる?」
「はーい。エースくん、ちょっと待ってね」


サボくんから書類を受け取り、コピーを言われた部数だけ刷って手渡す。
この会社は、基本的に仕事さえちゃんとすればある程度自由がある。
携帯触るのもいいし、少しならお菓子も食べていいが、個々の自主性が問われる。


「えーっと、これならいいかな」
「チョコか!しかも高級チョコじゃねェか!」
「そうなの?隣の部署の人から貰ったからバレないと思う。よかったらどうぞ」
「おい名前。あんまエース甘やかすなよ。それじゃなくとも嫁がだだ甘なんだから」
「でもお腹の音が生き物みたいに鳴いてるんだもん…」
「悪いな名前!ありがと!」


包装紙を破き、中に詰めてあったチョコを一気に口に入れる。
人間なのに何で頬袋があるんだろね…。


「うめェ!」
「私もいい?」
「あったり前だろ!ほら」


エースくんと一緒になってチョコを食べ、すぐに仕事に戻る。
すると物の数分も経たないうちにまた盛大にお腹を鳴らすエースくん…。


「お前なァ…」
「しょうがねェだろ!」
「ま、まぁたくさんあっても持って帰れないし…」
「でも名前がやってることは、あげた相手に対して失礼なことじゃねェのか?」
「うっ…」


た、確かに…。サボくんの言う通りだ…。
エースくんが私の代わりに何か言っていたけど、口でサボくんに勝てるわけがない。
あっという間に負けたエースくんは口を尖らせて黙って仕事に戻る。


「全部食べれないにしろ、持って帰ってあげなよ。な?」
「うん…。ごめん、ありがとう!」


ニコッと笑って、サボくんは書類を持って部長のところへ向かう。
私は足元にある荷物に目を向け、小さく溜息をつく。
適当にとったお菓子を開封し、中に入っていた飴を口に含む。
うん、美味しい。
義理とは言え、私にくれたんだ。ちゃんと私が食べないと失礼だよね!
エースくんに物欲しそうな目で見られながら、お昼までに貰ったお菓子の半分を食べきった。……お昼いらない…。


「…確かに朝ああ言ったけどさ。無理しろとは言ってないよ」
「ごめん、ついつい。ほら、女の子には別腹があるから」
「それでご飯が食べれなかったら意味ないよ」


昼休憩。
ご飯を少しだけ食べ、すぐに箸を置いた私にサボくんはそう言った。
お嫁さんに作ってもらったであろう大きなお弁当を広げ、呆れた顔で私を見るサボくん。
エースくんは大好きな営業に向かったため静かなお昼を過ごしている。
だけどね、サボくん……。


「食べた以上に返ってきちゃった…」
「俺らよりすげェじゃん」


途中の休憩や、お昼時間の間にまたたくさんのお返しと、義理チョコ(飴とかクッキーとか色々)を貰ってしまい、足元は朝より山盛りになってしまった。
私そんなに配ったっけ…?ここと、お世話になってる人と…。あれ、そんなにあげてなくない?


「名前、逆チョコって知ってる?」
「……まさか?」
「モテ期到来ってやつかもな」


これがモテ期ってやつか!嬉しいけど照れちゃう!


「って、喜べないから。私には愛する旦那様がいるんです」
「ああ、知ってるよ。だから説明しなくていいよ」
「そんなに聞きたいの?しょうがないなぁ…」
「いいって」


そんな感じで昼休憩を過ごし、定時まで時々お菓子を食べながら仕事を終わらせた。
ちょっと気分悪くなったけど、紙袋が二つまでに減らすことができた。


「じゃあ私あがるね。お疲れ様です」
「お疲れ」
「じゃーなー!」


営業から帰ってきたエースくんとサボくんに挨拶をし、部長にも挨拶して会社を出る。
マルコさん今日は遅くなるって言ってたから夕食は一人…。
一人で食べる夕食なんて寂しすぎるっ…!
でも食べなかったら怒られるしなー…。あ、お昼のお弁当食べよう。夏じゃないし大丈夫でしょ。
帰宅した私はスーツを脱いで、貰ったものを冷蔵庫にいれた。
マルコさんの夕食を準備して、洗濯や簡単な掃除も終わらせて、ようやく一息つく。
テレビではホワイトデー特集か何かをしていて、リポーターがカップルにインタビューしていた。


「……マルコさんくれるかなァ…」


バレンタインは愛をとびっきりこめたシンプルなビターチョコをあげた。
小言は言ってた(「焦げてる」「形が歪」など)けど、喜んでくれてた。
あのときの笑顔だけで私の努力が報われ、天にも昇る気持ちだったのを今でも覚えている。
ああ、胸がキューン!ってなってきた!
だからと言って別にお返しを期待しているわけじゃない。
マルコさんがいてくれるだけで私は幸せなんだもん!


「あーあ、早く帰って来ないかなー…」


クッキーや飴、チョコも食べていい加減気持ち悪い。
だけど早目に食べてしまいたいから、食べ続ける。
……そう言えば、なんかチョコと一緒に手紙が挟まれていたりしたっけ。
いつの間にかなくなってたけど、どこいったんだろう。
あー…悪いことしちゃった。今度会ったら謝っとこう。


「ただいま」
「マルコさんだ!」


愛しい愛しいマルコさんの声に、ソファから玄関へ走って向かう。
考え事してたせいで気がつかなかったよ!


「お帰りなさい、マルコさん!お疲れ様ですっ」
「ああ、お疲れ――おい、あんま寄るな」
「え?」


犬に「マテ」とかけるよう、手のひらを私に向け眉間に眉を寄せた。
混乱しながらも素直に従い、


「私、何かしました?」


と聞くと、反対の手で鼻を隠すような態度をとって視線を反らす。


「甘い…」
「甘い?…ああ、チョコとかの匂いですか?」
「チョコ食ってたのかい」
「ホワイトデーのお返しでたくさん貰ったんです。全部食べきれないからエースくんにあげたんですけど、サボくんに「失礼だ」って怒られたんで…」
「それでかい」


靴を脱ぎ、居間へと向かうマルコさんについて行く。
ソファのテーブルには散らかったお菓子のゴミや包装紙。
「やばい」と思ってマルコさんの顔を覗き見ると、やっぱり嫌そうな顔をしていた。(勿論格好いいけどね!)


「あれだけかい?」
「あと冷蔵庫にも入ってます」


正確に言うなら、チョコは冷蔵庫へ、クッキーや飴はキッチンへ。
他にも色んな物が入ってて、それらも一旦キッチンへ避難させている。
あとから仕分けしようと思ってたんです…。


「……」


それを説明すると、マルコさんは無言で冷蔵庫を開き、足元にあった荷物も見る。


「さすがにそれだけのものを食べるのは苦しくて…。でも失礼だから食べ、ああああ!」
「何すんだい」
「それはこっちの台詞ですよ!何で全部捨ててるんですか!」


貰ったものを全部ゴミ袋へと詰め込んでいくマルコさん!
ちょ、なんて失礼なことを!
文句を言いながらマルコさんの腕に抱きつくと、凄い形相で睨まれて固まってしまった…。


「甘すぎる。見るだけで胸焼けするよい」
「それはそうですけど…」
「風呂入ってこい」
「え?」
「お前の身体から甘ったるい匂いがすんだよい」


腕を振りほどき、お菓子をゴミ袋に詰める作業に戻るマルコさん。
たくまくして、広い背中。抱きつきたいけど、そんな雰囲気ではない…。
なので言われた通りお風呂に入り、すぐにあがった。
まだ開けてもないチョコが入ったゴミ袋は玄関に置かれ、居間も綺麗になっていた。
マルコさんはラフな恰好に着替え、窓を開けて換気中。…まだこの時期は寒いよ。どれだけ甘いの嫌いなんだろう…。


「あがりました」
「おう。じゃあこっち来い」


来いと言われたので、ソファに向かうマルコさんのあとをついて行く。
一緒に座ったのはいいが…。何だろう?
喋らないマルコさんに疑問を抱きつつ、まあこの雰囲気も嫌いじゃないので先に私が喋ろうとしたらマルコさんが髪の毛を触ってきて驚いた。


「マルコさん?」
「消えたな」
「何がですか?」
「いや」


少し湿っている髪の毛をかいで、聞き取り辛い声で呟く。


「あのー…」
「自分で思ってる以上に俺は重症みたいだよい」
「……何が?」
「名前」
「はい」


一旦離れ、私の腰を掴んでマルコさんの膝の上に乗せられた。
いきなりのことだったので訳が解らなかったけど、向い合った体勢と優しい笑顔に顔が熱くなる。
な、なんだこれっ…!マルコさんがこんなっ…!どうしたらいいの!?


「さて。今日はホワイトデーだよい」
「そうですね。え、お返しくれるんですか?」
「ああ、今週の日曜何もいれんじゃねェよい」
「日曜はマルコさんとラブラブする時間なので大丈夫です!」
「でもホワイトデーは今日だろい?」
「……あの、マルコさん。腰をホールドするの止めてくれませんか?」
「今日はお前の言うこと何でも聞いてやるよい」
「凄く上から目線な言い方ですね…。じゃあ腰を離して下さい」
「それはできねェな」
「言うこと聞くって言ったじゃないですか!」
「俺が聞きたくないと思ったらそれは無効だい」
「何ですかそれ!……だからお風呂入ってこいって言ったんですか!?うわーん、頭脳犯だー!」
「嫌いかい?」
「大好きですよバカーッ!」


勿論それだけの理由で「お風呂に入ってこい」って言ったわけではないが、本心を見せないマルコさんに私はいつまでも本音に気づかなかった。





佳子さんへ。




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