大切なこと 日曜日のその日はマルコさんとラブラブなデートをしていた。 お給料頂いたから日用品を買いたいし、服も買いたい。 マルコさんに車を出してもらい、街にある駐車場に停めてからショッピングを楽しんでいると後ろから肩を叩かれた。 マルコさんとの時間を邪魔するのは誰だ!そう思いながら振り返ると男の人が笑顔で私を見ている。 「えーっと…」 「すみません、アンケートにご協力お願いします」 またこのパターンですか! って言うか、何でこんなにも声かけられるの?そんなに私って声かけやすいの? 「先に言っておきますが、私とマルコさんは夫婦ですからね!」 先手を打って言ってやると、案の定男の人は目を見開いて言葉を詰まらせた。 ムカついたけど関わりたくないから絡めていた腕に力をいれ、早足でその場から立ち去る。 「もー!どっからどう見ても夫婦にしか見えないのに何で解んないんですかね?」 「……夫婦に見えねェだろい」 「え!?」 「いや、何でそこで驚いた」 「こ、こんなにラブラブオーラ出してるのに何で…?」 「…名前らしいな」 「よし、もっといちゃいちゃして「これ以上引っ付いたら夜別々に寝ることになるよい」ひ、酷い!」 別々で寝るなんて寂しすぎる! ショックを受けてマルコさんを見ると「ハハッ」と笑っていた。 ……くう…この顔見たら何も言えなくなるじゃない…!何でこんなに格好いいの? 「あ、マルコさん。あそこ入りましょう!」 歩いているとマルコさんに似合いそうな服を見つけた。 すぐに足を止め、入ろうと催促するけど、マルコさんはあまり乗る気ではなかった。 私の服を買うときは文句を言いながらも一緒に入ってくれるのに、自分の服はあんまりって感じ。 コーディネートしてあげたいのに! 「マルコさーん!」 「解ったからあんま引っ張んな」 腕と服を引っ張り、なんとかお店に入ることに成功。 落ちついた感じが漂う、大人の男性のお店。モノクロ調で、シンプルな服ばかり。 マルコさんはこんな感じの服が似合うと思うんだよね!シンプルな服を着てても色っぽいマルコさん。 「エヘヘヘ…」 手に取った服を見ながらマルコさんが着ているのを妄想して、口元が緩みまくる。 ダメだ、マルコさんは何着ても似合う!格好よすぎ! 「マルコさん。マルコさんはどれがいいですか?」 「何でもいいよい」 「もー…ちょっとは興味持ちましょうよ」 「着ることねェからいらねェよい」 「た、確かに休みの日しか着ませんけど…。でも…」 「……。じゃあ名前が決めてくれ」 「え?」 「好きなんだろい。決めてくれ」 「まっ、任せて下さい!」 元気に返事をして店内を見て回る。 正直この店にある服全部欲しい。どれ着ても似合うと思う! でもそれを言うと絶対に怒るからここは慎重に……。 「こんにちは」 「こ、こんにちは…」 斜め後ろから話かけてきたのはここの店員さん。 ニコニコと笑顔を作って私に近づいてきた。けど、ある程度の距離を保って離れている。 「何かお探しですか?」 「あ、えっと…。服を選んでるんです」 「もしかしてあちらの方への?」 「はい、そうです。何を着ても似合うから悩んでるんです」 「そうですねェ、何着ても似合いそうですね」 「そうなんですよー!だけどお金はそんなにないから…」 「予算はどのぐらいで?」 「そこまでは決めてないんですけど、とりあえず一番似合うやつを…」 「では、」 そう言って店員さんと一緒に店内を見て回ることにした。 さすが店員さんとだけあって、マルコさんにピッタリな服を見つけてくれる。 おお、どれもこれも素敵だ! 「な、悩むなー…!」 「もしよかったら試着を」 「それはいいです。嫌がるんです」 「そうなんですか?サイズとかは?」 「バッチリ把握してます!」 「へー、珍しいですね」 「…珍しい?珍しいですか?」 「お嬢さんがお父様のサイズを覚えてるなんて滅多にありませんよ」 ニッコリ。 ……悪気のない笑顔が一番くる…。 やっぱりお店の人もそう思うんだ…。でも、だからって一日二回もこんなこと言われるなんて…! 「違います…」 「え?」 「マルコさんは私の旦那です…」 「え!?す、すみません…!」 慌てて頭を下げる店員さん。だけど私の心は十分傷ついたよ…。 うん、傷ついたを通り越し、ちょっとムカついてきた…! どっからどう見ても夫婦でしょうが! 「これでも結婚して二年目なんです」 「二年!?」 「私そんな驚くこと言いましたか?」 「あ、いえ、その…」 「名前、どうした?」 静かな店内に響く私の大きな声。 みっともないけど、ちょっと我慢できない。 何だかバカにされてる気がして…。「似合わない」って言われてる気がしてイヤ! そんな私に気づいてマルコさんが近づいて来てくれた。 すぐにマルコさんに抱きついて、今のことを簡単に説明すると、また店員さんが謝った。 「ほら、マルコさんも言って下さい!」 「あー…。すまねェ。ほら名前、行くよい」 「何でマルコさんが謝るんですか!あ、まだ言いたいことが「行くよい」 腕を掴まれ、強引にお店の外へと連れ出された。 マルコさんは勘違いされてイヤな気分にならないの?本当はお嫁さんとしてじゃなく、娘として私を見てるの? 何を言っても喋らないマルコさん。 「もうっ!」 腕を振りほどき、足を止めると、ようやくマルコさんが私を見るが、なんともないといった表情だった。 「マルコさんは間違えられても平気なんですか!?」 だって、あんなこと言われて悔しいじゃないですか! 私はマルコさん大好きで、妻として頑張ってるのに…! そう見れないことが何よりも辛い。マルコさんの横に立てない。不釣り合いだって笑われてそうで怖い。 涙が浮かんでこぼれそうになるのをなんとか耐える。 「何か言って下さいよ!」 それでも喋らないマルコさんを睨みつけると、行き交う人と肩がぶつかって転びそうになった。 だけどマルコさんに背中を支えてもらい、そのまま道の端へと移動する。 そ、そんな優しさ見せたってときめきませんからね!ときめいてないもん! 「名前は人にどう思われることが大事なのかい?」 「え?」 「人にどう思われようと、名前が俺の嫁であるのは事実だろい。妻であることも、名前が頑張って俺に追い付こうとしてるのも、俺だけが知ってれば十分だい」 「……な、んですか…」 「俺だけが名前を知ってればいい」 表情変わることなく、当たり前のことを言うような口調でサラリと嬉しいことを言ってくれた。 少し乱れた髪の毛を整えながら、「な?」と手を握る。 「何なんですか…!」 「名前」 「私がそんなことで喜ぶと思うんですか?」 「…」 「喜びますよ!もうっ、マルコさん大人すぎです!惚れ直しました!好きです、愛してます!」 「そりゃあよかったよい」 握り返して抱きつくと、小さく笑って頬にキスをしてくれた。 私は多分これからもマルコさんに勝てないと思う。 「じゃあ気分を直してマルコさんの服買いに行きましょう!」 「またかよい。もういいから自分の買えよい」 「やだ!マルコさんの服買うんだい!」 「……それは俺の口真似かい?」 「バレました?」 「バレねェと思った名前はバカだな」 「それだけマルコさんが好きだってことです。バレましたか?」 「それは気付かなかったよい」 「えへへ、じゃあこれからもずっとマルコさんに告白し続けますね!」 「まァ頑張れよい」 「はい!」 ( ← | → ) ▽ topへ |