狐のお兄ちゃん | ナノ

兄、現れる

「で、それからずっと行方不明なのか」
「そういうこった」


古びれた本を開き、隣に座っているサッチに顔を向けていたエースは少しだけ笑う。
サッチが眉をしかめて「どうした?」と聞くと、本に挟んでいた写真を手に取った。
目の前に座っているマルコも不思議そうな顔でその様子を見ている。


「兄貴がいたのも驚いたけど」
「ん?」
「三人がブラコンなことに一番驚いた」
「「ハァ!?」」
「だって、二人とも楽しそうに話してたぜ?」


マルコの部屋で仕事を教えてもらっていたエースは、本棚から一つだけ古い本を見つけた。
本を開くと、マルコ、サッチ、イゾウが少年のころの写真が床に落ちる。
少年時代の三人に最初は笑っていたのだが、隣に写っている青年に覚えがなかった。
二人に聞くと、二人は少し苦笑して昔のことを時間をかけて話してくれた。
兄であり、元一番隊長を務めていた名前の話を全て聞いたエースは、本を閉じて本棚に戻す。


「しかもマルコが人を褒めるなんて珍しいしよ」
「褒めてねェよい」
「自慢も凄かったし」
「自慢してたか?」
「自覚ねェのかよ」


口元で笑い、食堂へ行こうと二人を誘ってマルコの部屋を出る。
肩を並べて廊下を進み、食堂へ入るといつものように仲間達が騒いでいた。
適当に空いてる席に座り、適当に食事をとる。
話はまだ元一番隊長のこと。ブラコンでもないし、自慢もしてないとうるさい二人に、エースは少々うんざり気味。
自覚なしの自慢話ほど厄介なものはない。


「もう何年帰ってきてねェんだ?」
「二十年ぐらいだっけか?」
「大体そのぐらいだよい」
「死んでるってことはねェよな?」
「あるわけねェだろ!」
「あるわけねェよい」


エースの疑問に、噛みつくように言い返す二人に、やっぱり眉をしかめて「厄介だ」と呟く。
大量に運ばれてきたお肉やパンなどを口に放り込みながら、ギャーギャーとうるさい二人に適当に相槌を返した。


「名前が死ぬわけねェよ!あいつマジで強いんだぜ!?なァマルコ?!」
「ああ、あいつが死ぬなんて考えられねェよい」
「じゃあ何で帰ってこねェんだよ。あ、これうめェ」
「きっとどっかで寝てんだい。三度の飯より昼寝が好きだからな」
「え、ご飯も好きだよ」
「おお、お前も好きなのか?」
「やっぱここのコックが作るご飯が一番おいしいよね」
「だよなー!」


エースの隣に座って一緒にパンを頬張っているのは一人の青年。
海賊船には不釣り合いな服装で、黙ってご飯を食べ続ける。
エースの前に座っていたマルコとサッチはその青年を見て、目と口を開けた。


「「名前!?」」
「…………………やあ」


口に含んでいた食べ物を胃に届けてから、片手をあげて挨拶をするかつての一番隊隊長、名前。
席を立ち上がって驚く二人を見て、エースもようやく気がついて食べるのを止めた。
服装から顔まで昔と何一つ変わらない名前は「まァまァ」と落ちつくよう声をかけた。


「な、何でお前…!」
「本当に名前なのかい!?」
「マルコくん、お兄ちゃんの顔忘れちゃったの?」
「………でも…昔と変わってねェよい…」
「あれ、言ってなかったっけ。俺、不老なんだよ」
「「ハァ!?」」


妖狐の力なのか、名前が能力者になったとき成長が止まった。
心臓を刺されれば死ぬが、年を取って死ぬことは決してない。
初めて聞かされた兄の告白に、二人は絶句。ビックリ続きで、脳みそがついてきてくれない。


「ところでお前さんは誰だい?」


言葉を失って固まっている二人を放置し、エースの顔を見る。
エースも驚いてはいるが、二人ほどではなかった。


「あ、ああ…。俺はエース。最近ここに入ったもんだ」
「そう。宜しくね、エース」
「宜しくな!えっと、名前だよな?」
「うん。お兄ちゃんって呼んでもいいよ?」
「呼ぶわけねェだろ!」


名前の言葉にほんのり照れながら名前から離れると、名前はエースの頭を撫でた。
照れる弟が可愛かったらしく、「エースは可愛い」とずっと撫で続けている。
エースは、名前が凄い人物なのを聞いているからどこまで言っていいか解らない。解らないから強い抵抗ができなかった。


「それに比べて二人は年取っちゃったね」


エースを愛でながら静かな二人に目を向けると、ようやく意識を取り戻した。


「昔はあんなに可愛かったのに」
「あれから何十年経ったと思ってんだよ!」
「昔も今も可愛いなんて言われたくねェよい」
「うん、格好よくなった」
「「……」」


さらりと褒めると、二人はまた黙りこみ、静かにイスに腰を下ろす。
そんな二人を見てエースは、「やっぱブラコンかよ」とツッコミを入れるのだった。




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