恋に落ちる音 2万打フリー奏様



*未だ謎の多いローグを妄想と想像120%で書いてます。そしてガジルが乙女です。大丈夫な方は↓へどうぞ。







恋に落ちる音


目の前にいる男の心臓を貫く様な視線に一瞬にして引き込まれた。
事の起こりは数十分前。大会の開始まで時間があると言うことで一時解散し、お祭り騒ぎの街中を一人ふらりとガジルが歩いていた時のこと。いつも行動を共にするリリーは用事があると先程別れたばかりだ。一人で行くことに一抹の寂しさを感じたが、お互い迷子になる可能性を心配するほど子供でも方向音痴でもなかったので引き留める理由がなかったのだ。大通りの両側を隙間なく埋める屋台を冷やかしながら、あてもなく彷徨う。ただの暇潰しだ。
その時、肌を刺すような強烈な気配にガジルはバッと辺りを見回し警戒した。明らかに自分に向けられた視線に神経が尖る。そもそも自分がここにいる理由は闘いの為。本来ギルド同士の争いは禁止されているが、大会の場ではそれが認められる。つまり、普段から気に入らない奴を堂々としかも公衆の面前で伸すことが出来るのだ。更に優勝すればギルドの名は上がり、名声を欲しいままにすることが出来る。少々狡賢い奴ならば、大会開始前にライバルの何人かを闇討ちすることを考えるだろう。ただ、本当の実力者ならそんな馬鹿な真似はしないだろうが。
大会の場以外での揉め事は面倒だ。やり過ぎれば、大会自体に参加出来なくなる可能性もある。人混みに紛れて撒こうかと考えるが、相手を特定してからでも遅くはない。ガジルは自ら人気の無い路地裏を選ぶと、相手を誘うように歩き出した。ガジルが移動するのと同時に位置を変える気配。どうやら誘いに乗ってくれるらしい。さてどうしてくれようか、ガジルはグッと拳を固めた。
路地裏に入り背後に警戒しながら歩くガジル。しかし、いくらも歩かぬ内にふいに強い力で服を引かれ、直ぐ横の壁にドンと突き飛ばされた。背中と後頭部に鈍い痛みが走る。思わず瞑ってしまった目を開けると、目の前、1,2メートルの距離を取って見覚えのない男が立っていた。長身のガジルに並ぶ程の背丈に、マントの左肩には見たことのない紋章が縫い付けてあり、黒いざんばら髪の隙間から見える目は鋭い視線を放ちながらも冷静にガジルを見ていた。突然現れた男に、普段であれば文句の一つも言うところなのだが、心臓を貫くような視線にガジルは一瞬にして引き込まれた。

「お前、ガジル・レッドフォックスだな。」

「っ!!だったらなんだ。」

低い抑揚の無い声がガジルの名を紡ぐ。自分の名を知っている男を意外に思い乍ら、ガジルは肯定する。

「やはりそうか。」

それまで警戒していたのだろう。距離を取っていた男が一気に間合いを詰めてきた。咄嗟に拳を突き出し先手を取ろうとしたが、その手はあっさりと捕われ壁に縫い留められる。

「クソっ!!」

ならば蹴り飛ばそうと脚を横に一閃するが、男の側頭部を狙った一撃は届く瞬間に無表情のまま、しかも手の平であっさり弾かれ軌道を逸らされてしまった。空振った足にバランスを崩し、倒れるのを防ごうと伸ばした未だ自由だった手を今度は捕われ、縫い留められた手とは逆側の壁に押さえ付けられてしまう。気が付けば両腕の自由は男によって奪われていた。

「この七年、一体何処にいた。」

突然降ってきた声に、ガジルは男の方へと視線を投げた。

「何故歳をとっていない。」

「他の奴らはどうした。」

「何故あの爆発の中で無事だったんだ。」
畳み掛けるように投げ掛けられる問いに、何故この男がそんな事を聞くのかガジルには理解出来なかった。ただひらすらに腕を振り解こうと力を込めるが手首を押さえた相手の拘束は緩むどころか益々締まり痛みを訴える。力には自信があるガジルをいとも簡単にやり込める実力。この時初めて、ガジルは目の前の得体の知れない男に恐怖を覚えた。

「てめぇ、一体何者だ!!」

「あまり騒ぐな。気付かれるぞ。」

「うるせぇ!離しやがれ!!」

ガジルが吼えるも男の無表情は一向に崩れない。まるで自分ばかりが熱くなっているような虚しさに言葉が勢いを失くしていく。一体誰なのか、何が目的なのか、自分をどうしたいのか。聞いたところで目の前の男が素直に答えてくれるとは到底思えなかった。

「!?」

その時だった。両腕の拘束が外れたかと思うと、背中に腕が回り抵抗する間も無く男に抱き締められていた。

「お、おい。何なんだよ、本当に。」

さっき初めてあったばかりの男に路上で抱き締められるなんて状況、一体誰が想像出来ただろう。ガジルは男の腕の中で盛大に戸惑っていた。男の必死な様子に無闇に振り払うことも出来ないまま時間だけが過ぎていく。

「すまない。二度と会えないと思っていたんだ。」

囁くような絞り出すような声が耳に届いた。ガジルの肩に埋めていた顔を上げ、男は済まなそうに謝罪を口にする。さっきとまでとは180度違う態度に多少戸惑いながら、何と声を掛けるべきか迷った。顔を俯かせたガジルの顎を男の手が取り、顔を上げさせられる。その先には真っ直ぐに自分を見つめる紅い瞳があった。

「俺は七年前に誓った。もし、あんたが生きていたなら絶対にあんたを手に入れる。今度は俺の知らないところで死なせはしない、と。」

顎を取っていた手を頬に滑らせ、男は逆の頬に軽く口付けた。まるで誓いと立てるような仕草に、ガジルの頬が熱くなる。それと同時に、男のその行動がとても神聖なものに見えた。

「ローグ・チェーニだ。覚えておいてくれ。」

頬から顔を離し男は自分の名を告げた。低く心地良い声音がするりと耳に入り、名前を脳に刻み付ける。恐らく初めて会っただろう男にプロポーズめいたことを告げられたと言うのに、ガジルの心境は酷く穏やかで、男が去ってしまうまで一言も発する事が出来なかったのだった。
それはまるで、初恋を知らなかった少女が初めて恋を知った時のような初々しさを醸し出しながらガジルの頬を鮮やかに彩った。

恋に落ちる音がしたーーー



End





言い訳
ローグとガジルが偽者過ぎてすいません!!収拾がつかずぶった切った感満載の小説ですが、途中まではとても楽しんで書けました。ただ、まだまだ謎だらけなローグですので、今後の展開によってはただのそっくりさん状態にもなるかと思いますが、そんなもんだと受け流して下されば幸い。


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