オトモダチから始めませんか? 2万打フリー奏様
「オレ、お前のこと好き、なのかな?」
「っ…し、知るかよ!!大体、オレを好きなんて趣味悪過ぎんだろ!!」
「なんでだ?」
「何でって…。」
「オレもよく分かんねえんだよ。でも、お前見てたらここがふわふわするんだ。これって好きって事だよな。」
「だ、だからっ」
「だからさ、付き合わねえ?」
オトモダチから始めませんか?
人付き合いは苦手だ。馴れ合ったり群れたりするのは弱い奴のやる事で、オレは絶対そんな風にならないと思っていた。いや、今でも必要以上の付き合いはしたくないと思ってる。と言うのに、つい先日ギルドの奴から告白されてしまった。生まれてこの方敵意や殺意を向けられた事はあっても、好意を向けられた事がなかったオレは酷く取り乱し、相手を殴り飛ばして逃げてしまった。
「はぁ…。」
好きか嫌いかと聞かれれば、嫌いではない。いい奴だと思うし、一緒に戦う時の相性も悪くない。ただ、恋愛対象として見たことは一度もなかった。そもそもあいつもオレも男な訳で、男同士の恋愛も世の中にはあるらしいが、オレは至ってノーマルなはずだ。その証拠に今まで女以外を好きになったことはない。と言うか、あいつはどうなんだ?昔リサーナと結婚する約束したとか聞いたことある。それならオレに言ったことは嘘だったのか?でも、今コンビ組んでるのはルーシィだし、ギルドの奴らもあいつらは怪しいって言っていたし。
「うぉぉおおおおっ!!どうすりゃいいんだよ!!」
これが叫ばずにいられるだろうか。いや、無理だ。両手でガシガシと頭を掻きむしって頭を抱える。昨日から脳内を占めるのはあいつのことばかりなのに、ちっとも考えが纏まらない。普段使わない脳みそがオーバーヒートしてしまいそうだ。
「おい、ガジル。お前どうしたんだ?」
一人で暴走するオレを見兼ねたリリーが、小さな身体で膝の上へよじ登って来た。ふいに掛けられた声に驚きそちらを見れば、怪訝そうな顔でオレを見るリリー。我に返ると非常に恥ずかしいこの状況に顔から火が出るかと思ったが、まずは余計な心配をさせてしまったことを素直に「悪い。」と謝罪した。
「オレは別に構わない。それよりお前だ。何があった?」
首を振って尚オレの事を心配してくれるリリーの優しさに目頭が熱くなる。オレは本当にいい相棒を持った。自分でも整理しきれていない事を相談するのに少し抵抗はあったが、一人で悩んでいても埒が明かないのも事実。オレは意を決してリリーに相談することにした。
「なぁ、リリー。あのよ、例えばだけど……仲間だって思ってた奴から好きだって言われたらどうする?」
内容を省略し過ぎてしまっただろうか。それとも唐突過ぎただろうか。オレが恐る恐ると上げた視線の先でリリーは石のように固まっていた。
「リ、リー?」
目の前で軽く手を振ると、はっと我に返ったリリーがオレを見てそして直ぐに視線を逸らした。やっぱり、相談の内容に引いてしまったんだろうか。リリーなら答えてくれると思っていたオレはズドンと気持ちが重たくなるのを感じた。
「言われたのか?」
「………は?」
だから、次に続いた言葉が最初なんと言われたのか理解するのに暫しの時間を要した。
「だから、好きだと言われたのかと聞いている。」
「ち、違う!!例えばって言ってんだろ!!」
「そうか?」
「そうだ!!」
まるでオレが好きだと言われたような言い方ーーー実際言われたのだがーーーに慌てて否定したけれど、リリーが信じてくれたかは微妙だ。妙なところで鋭いからな。言い切ったことでそれ以上追求はしてこなかったが、納得はしていないようだった。
「あーなんだ。好きと言われたら、だったか?」
「ああ。リリーならどうする?」
気を取り直して返された言葉に素直に頷く。常に冷静で大人なリリーならどう答えるのか興味があった。先程の出来事も忘れてオレはリリーに詰め寄った。
「そうだな。元々気になっていた相手なら付き合ってみればいいんじゃないか。その気がないのなら断ればいい。下手に気を持たせるような態度は逆に相手を傷付けることもあるしな。」
「好きか嫌いか分かんねえ相手なら?」
本に書かれた言葉をそのまま抜き取った、まるで模範回答のような答えに間髪入れずに切り返した。オレが欲しいのは、どちらでもない場合の答えだ。好きか嫌いで割り切れる問題じゃないのだ。特に今回は。
「それなら未来を考えればいいんじゃないか?」
「未来?」
未来に何の関係があるのだろう。首を傾げてリリーを見ると、うんと大仰に頷いた。
「お前の描く未来に相手がいるのなら、お前にとってそいつは必要な人間なんだろう。」
オレの描く未来。リリーに言われるまま目を閉じて想像してみた。一番に浮かんだのは、やはりギルドのことだった。いつもと変わらない騒然としたギルド。想像の中のギルドの面々はみんな笑顔で楽しそうだ。乱闘騒ぎだっていつものこと。だけどそんなギルドが一番フェアリーテイルらしくていい。ふと隣を見れば、オレの横にはあいつが立っていた。ごく自然にオレに笑い掛けてくるその笑顔を見ていると胸が温かくなった。これがオレの望む未来なら、答えはもう出ていた。
「人の関係と言うのは日々変化するもんだ。良くも悪くもな。」
「だよな。」
さっきまで悩んでいたのが嘘のように、オレの頭の中はすっきりしていた。何でこんなことに一晩も費やしてしまったのか、今更ながら不思議でしょうがない。
「悩みは解決したか?」
「おう、ありがとな。」
御礼の意味を込めてリリーの頭を撫でると、擽ったそうに目を閉じた。ツヤツヤの毛並みを思う存分堪能して手を離せば、少々恨みがましい目で睨まれるが笑って誤魔化した。
「そんじゃ、ちょっと出てくる。」
それまで腰を落ち着けていたソファーから立ち上がると玄関へ向かった。もちろん行き先はあいつのところだ。
「あまり遅くなるなよ。」
「おー。」
背後から掛けられた声を適当に返して部屋を後にした。
「お前!!昨日はよくも殴って…。」
「返事しにきた。」
「へっ!?あ、ああ。」
「正直に言わせてもらうと、お前のこと嫌いじゃねえ。でも好きかは分かんねえ。」
「そっか。」
「だから、とりあえずオトモダチからでどうだ?」
「………は?」
「チャンスをくれてやるっつってんだ、バカマンダー。」
End
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