魔法の手 ヒビレン 空斗様



「グッモーニン、マイスウィートハニー」

寝室からリビングへの扉を開けた瞬間、すぐさま閉じた。
おかしいな…俺、疲れてるのか?いるはずのないバカが見えた。
パジャマ姿のまま数秒固まる。
フリフリエプロンを着たヒビキが、気持ち悪いくらい発音よく、わけのわからない事を言っていた。
昨日の仕事で疲れて、それで幻が見えたに違いない。
べ、別に、朝起きた時にヒビキがいたら良いなんて思ったわけじゃないからな!!
一人で漫才を繰り返し、再び扉を開ける。
しかし、やはりそこは変わりなく、フリフリエプロンを着たヒビキが、お玉を持って立っていた。

「お前…なんで…!」
「昨日は仕事が大変だっただろう?だから僕が君の朝食を作りに来たってわけさ」
「ヒビキ…はっ!べ、別に嬉しいなんて思ってねぇからな!?つーか玄関の鍵は…!!」
「あはは、甘いよレン。アーカイブを駆使する僕の手にかかれば、レンを朝食代わりに頂いちゃうくらい簡単さ」
「よし、とりあえず帰れ」

ウインクを飛ばしてくるヒビキに、レンは満面の笑顔で傍らの窓を開けたのだった。








「まぁ冗談はさておき、昨日は大変だっただろ?今日はゆっくり休むと良いよ」

テーブルについたレンの前に、次々と朝食が並ぶ。
焦げ目もなくフワフワに焼かれたオムレツ、体の芯から温まりそうなコンソメスープ、緑が鮮やかなサラダ、そしてほんのり焦げ目のついたトースト。
ヒビキが好んで飲むコーヒーの香りが鼻を掠め、とりあえずコンソメスープを口に運んだ。
体の中から、ジワリと温まるのがわかる。

「美味しい?」
「ん…美味しい」

それは良かった。
レンと自分の分のコーヒーを持ったヒビキが、微笑みながら向かい側に座る。
鍵を勝手に開けられたのは許しがたいが、ヒビキの料理はケチのつけどころがない。
これも女性をもてなすたしなみの一つさ、と言っていたっけ、とコーヒーに角砂糖を一つ入れて思い返す。

「そう言えば、冷蔵庫空じゃなかったか?」
「あぁ、それなら心配いらないよ。朝市で新鮮な食材を買い揃えておいたから」
「…魔導士よりも料理人みたいだな」
「これもレンへの愛あってこそだよ」
「あーはいはい」

然り気無く握られた手を振りほどき、いよいよオムレツにフォークを入れた。
どうやったらこんなに綺麗に焼けるのだろうか。
家事全般が苦手なレンには、ヒビキのやる事全てが魔法に見えて仕方がない。
半熟のオムレツを一口頬張れば、まるで一流料理人が作ったような、そんな幸せな味がした。
優雅にコーヒーを口に運んだヒビキに、口を開く。

「うまい。やっぱりスゲーな、ヒビキは」
「ん?どんなところが?」
「どんなところって…仕事だって出来るだろ?あと料理、女の接待の仕方や………べ、別に羨ましいなんて思ってねぇからな」
「惜しいなぁ、もう少し聞いていたかったのに」

綺麗な顔立ちで微笑むヒビキに、顔が熱くなるのがわかる。
確信犯の当事者は微笑んだまま。
そして、反対側にいるレンの手からフォークを取り、フワフワなオムレツを一口分、レンに差し出した。

「早く食べないと冷めちゃうよ?」
「っわかってる」

パクリ、ヒビキを睨みながら食べるも、やはり微笑んだまま。
負けたような気はするが、朝食のおかげで、それほど悪くはないと思ってしまう自分がいた。



E N D



初ヒビレンでございます!!
甘々イチャイチャを意識したつもり…ですが、いかがでしょうか…
気を抜くと、ヒビキが変態になります(殴)
最初は全裸でベッドに潜り込む予定だったのですが、甘くなりませんでした。バイオレンスでしたorz
こんな作品でよければ、お嫁にもらってくださいませ…!!

空斗様、リクエストありがとうございました!!




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