好きは君だけ ザンメル フリリク火流羅様



小さな手に大きな手が重なり、読んでいた魔道書が柔らかなカーペットに投げ捨てられる。
それ、ウルティアから借りた本。
そう文句を言おうと口を開きかけるも、力ずくで身体を引っ張られ、出てこなかった。
落ち着いたのは、あぐらをかくザンクロウの腕の中。
すっぽり、と言う表現がそのまま合うように、メルディの体は収まった。

「さっきの、ウルティアに借りた本なのに…」
「暇。メルディ、かまって」
「聞いてない。ちょ、っ重い」

背を丸め、腕の中にいるメルディを抱きしめる。
抵抗しようにも、体格も腕力も違いすぎて、抵抗にならない。
太い腕に戒められて動けない中、癖のあるザンクロウの髪が頬をかすめ、くすぐったさに身じろいだ。
そして、いつの間にか間近にあったザンクロウの顔がさらに近付き、額、目尻、頬、唇、とそれぞれ啄むようなキスが降り注ぐ。

「ざん、くろ…ん…」
「うはっ…可愛い声」

男特有の艶のある声が鼓膜を直に刺激し、逃げるように俯いた。
俯いても、頭を固定されてすぐに戻されるのだけど。
ペロリと唇を舐められ、ひっと引き攣った声を上げれば、やっと腕の中から解放してもらえた。
くしゃくしゃに乱れた髪を手櫛で直し、脚の間に向かい合わせでメルディを座らせる。
頬を赤く染めたメルディの視界には、犬歯を見せて笑うザンクロウ。
その余裕の表情に眉間に皺が寄る。

「いきなり、何するの」
「かまってって言ったんだけど。オレが部屋に来てんのに、本ばっか読んで楽しくねーもん」
「む…だって、ウルティアに借りた本だから…」

またソレだ。
ザンクロウもまた眉間に皺を寄せ、拗ねたように口を開く。

「メルディは、ウルティアさんとオレ、どっちが大切なわけ?」

傍らに投げ出されていた本を取り、ぺらぺらと捲りながら、答えを待つ。
メルディはと言えば、丸い瞳をパチリと瞬かせ、問われた質問の意味の理解に苦しんでいた。
ギルドのメンバーは全員大事だ。
なのに、なぜ二人に限定するのだろう。
悲しいかな、ザンクロウの質問の真意は、届いていない。

「何で、そんな事聞くの?」
「メルディはさ、何かしらあるとすぐにウルティアさんを頼るじゃん?それって、どうよって事」
「……よくわかんない」
「…じゃあ、ウルティアさんとオレ、どっちが好き?」
「ザンクロウ」

これで自分の名前を言わなかったら、強硬策に出るしかない。
そう思っていたのに、間髪入れずに答えられ、今度はザンクロウが瞳を瞬いた。
当然、とでも言っているように、メルディはザンクロウをまっすぐ見つめる。
元より人の目を見て会話をするメルディの癖だ。

「ザンクロウ?」
「あ、うん、そりゃそうだよな」
「うん、私が好きなのは、ザンクロウ」

改めて肯定の言葉を紡ぎ、ザンクロウの手から本を取る。
しかし、栞を挿む前に閉じられてしまったので、どこまで読んだかわからない。
そして、ぱたん、と本を閉じて再びザンクロウを見上げた。

「かまうって、何をすればいい?」
「は?」
「ザンクロウ、かまってって言ってたでしょ?本はまた明日にする」
「…一緒に昼寝したい」
「それって、かまってる?」
「うん、そりゃもう」

変なの、と呟きつつ、再び腕を引かれて体勢を崩す。
今度はやんわりと抱きとめられ、そのまま柔らかなカーペット。
乱れた前髪を優しく退けられ、メルディは淡い笑みを浮かべた。
同じようにザンクロウの髪を撫でれば、厚い胸板に押し当てるように抱きしめられ、頬を摺り寄せる。

「ザンクロウ、甘えん坊だね」
「メルディだけだっての」
「うん」

嫉妬するだけ無駄。
おやすみザンクロウ、と身体を丸めるメルディの柔らかな髪を撫でながら、ザンクロウも瞳を閉じた。



E N D



ザンクロウの口調がわかりません!!(スライディング土下座)
素敵なリクエスト「ザンメルでラブラブ」だったのですが、いかがでしたでしょうか…。
私の中でメルディはまだ「女の子」と言うカテゴリでして、色気とか異性に対する欲がないと言うか…
そんなメルディにやきもきする思春期ザンクロウが好きです(あれ?)
火流羅様、素敵なリクエストありがとうございました!!
本作は火流羅様のみお持ち帰りとさせていただきます。

飛鳥


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