赤ずきんに恋した狼 ザンメル・学パロ
「ザンクロウ、君タバコを吸ってはいなかったかい?」 「んあ?」
青空に一番近い校舎の屋上、数人の人影が給水塔にあった。 ゲームを手慣れたように操りながら、ザンクロウは顔を上げる。 無造作に伸びた金髪の向こうにある燃えるような赤い瞳は、ラスティローズを映す。 口の中に広がるのはヤニ臭さではなく、甘い棒付きキャンディーの味。 今日はプリン味。 以外といけるので今日から買い込んでおこうと思う。 ではなくて
「タバコやめた」 「驚いたな…あんなに甘美で中毒になってしまう、そう、まるで麻薬のようなものを君が…」 「マジでその喋り方ウゼェんだけど。俺っちが何しようと関係ねーだろっての」
口の中で転がった甘い塊。 まだウダウダ言っているラスティローズを無視してゲームに視線を戻すと、制服のポケットの中で携帯が揺れた。 今バトル中なのに誰だよゴラ。 どうでもいい奴だったら無視しよう手携帯をみるが、ザンクロウは光の速さで通話ボタンを押す。
「おう、どうしたんだよ!」
会話の邪魔になる飴を取って嬉々として携帯に耳を当てる姿にラスティローズの頬がひきつる。 さっきまで熱中していたゲームだって乱暴にカバンの中に突っ込まれていた。 画面に現れるゲームオーバーの文字。 電話相手はそれ以上の価値があると見た。
「あ、今?屋上で昼飯。……え、マジ?わかった、待ってるってば!!」
あぁそうか、さっき鳴ったチャイムは昼休みを知らせる物か。 だから腹も減るわけだ。 と自己解決するラスティローズの横で、ザンクロウが携帯から耳を離す。 同時に話しかけられた。
「お前教室帰れってば。つーか帰るよな?」 「女性でもこっちに来るのかい?」 「うっせぇ!さっさとしろっての!!」
白い頬が赤らむ。 彼にもこんな表情ができるのかと驚きながらわざとらしく肩を竦めた。
「仕方がない…君の可愛い天使とのご対面はまた今度にしよう」 「会わせるつもりねぇから安心しろっての」
ガリッ、ザンクロウの鋭い犬歯が飴を砕く。 面白い非常に面白い。 意地でもここにいてやってもいいが、今から来る彼女が気まずくなるだろう。 ザンクロウをからかう事はいつでもできる。 今日のところは大人しく身を引く事にした。
「じゃ、君の天使によろしく」 「ウゼェからさっさと消えろ!!」
ひらひらと手を振って去っていくラスティローズに青筋を立てつつ、今から来る愛しい人に、頬が緩む。 上機嫌で飴を噛み砕いていると、屋上のドアが再び開いた。 顔を上げれば、ひょこりと顔を覗かせる、鮮やかなピンク色。 丸いエメラルドがザンクロウを捉えて微笑んだ。
「メルディ、おいで」 「うん!」
短いプリーツスカートを靡かせて、駆け寄ってくる小柄な少女。 胡座をかいた太ももをポンポンと叩けば素直に座る。 その体を抱き締めて柔らかい髪に頬擦りをするのが好きだ。 腕の中で少女は、メルディは擽ったそうに体を捩らせ、持ってきたバックから大きめの弁当を出した。
「お昼食べよ、ザンクロウ」 「俺っちメルディが食べたい」 「ハンニバル…」 「意味が違うわー…」
まぁ、本当に食べてしまいたいほど好きだけど。
「ザンクロウの好きな唐揚げもあるよー」 「よっしゃ、先に食う!!」 「はーい」
タバコを止めたのは、彼女の弁当を美味しく食べる為。 それから、多分まだまだ先だけど、キスをする時の為にも。 彩りのある弁当を開けるメルディの髪に優しく口付け、ザンクロウは笑みを深めた。
E N D
「あ、そう言えば、さっきザンクロウの友達に会ったよ」 「は?」
「君があの狼の天使か、って。面白い友達だね」
「ラスティか!!な、なんであいつわかったんだよ!」
「?屋上の階段ひとつだし」
「そうだったああぁ…!」
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