忍足侑士
「お湯は微温めに……と」
それにしても頭がクラクラする……おかしいな……なんだか気持ち悪いみたい。
「なあ、もう入ってもええんか?」
待合室からおっとりした関西弁が投げ掛けられる。準備に少し時間かかりそうなこと伝えなきゃ。
「ぁ……」
立ち上がろうとした直後、目の前が真っ暗になり僕の意識はそこで途絶えた。
「もう大丈夫みたいやな」
気がつくと氷帝学園3年の忍足侑士くんのドアップがあった。今日は眼鏡外してるんだ。ドキドキ。
「えっと……」
「まだ、横になっとき。一時的な貧血と軽い脱水症状を起こしとったんやから」
僕はエアマット(というらしい)に仰向けに寝かされ、頭は心臓よりも低い位置に、身体にはバスタオルと足には冷たいタオルが置いてあった。
「お風呂に長う浸かっとるとな、身体中の血管が拡張して血の巡りがようなり過ぎよって、脳は貧血になってしまうんや」
「詳しいんだね」
「まあ一応……医者の卵やしな」
彼は柔らかく微笑むと僕の手を取り脈を確認する。
「ありがとう」
「どーいたしまして、エエ目と手の保養にもなったし役得や」
そう言われて改めて自分が素っ裸で倒れてしまったことに恥ずかしさが込み上げてきた。
「不二は足もキレイやし、その上の方も……どこもかしこも可愛いかったで」
身体を抱き起こされながら耳元に甘い低音ボイスが響く。
「卵の内から酷いドクハラだね。……でも」
「でも? ん、顔色も戻ったみたいやな。ほら、水分補給しとき」
頬に天然水のペットボトルを押し付けられる。
「ふふっ、でも……忍足くんは凄く素敵なお医者さんになれそうだね」
安心できる優しい手。
「ありがとう。キミが将来のお医者さんでよかった」
心からそう思うんだ。
「はぁ……ホンマ、不二には敵わんなあ。相談する前に悩み解決してもうたわ」
「自己解決?」
「いや、不二のおかげや。進路のことで迷っとったんやけど。本気で医者を目指すんも悪うないな、て……おおきに」
なんだかよく分からないけど、彼の悩みが解消したのならよかった。のかな。
でも介抱までしてもらってこのままじゃ心苦しい気も。
「他に悩み?……せやなあ」
「何でもいいんだよ。恋愛相談でも」
っても不自由なさそう。モテすぎて困ることはありそうだけど。
「じゃあ、単刀直入に言うけど」
「うん?」
「俺な実は……ごっつ遅漏やねん」
遅漏というと、早漏の逆の。セックスの時なかなかイケないという射精困難!?
「挿入から1時間はザラやな。あんまり長いと相手のコも可哀相やし……こっちも萎えるしなあ」
うーん。早漏は訓練でどうにかなるけど、遅漏はメンタルの問題が大きいっていうよね。
「無理してエッチしなくても……」
「俺もそうしたいんやけど、女の子が迫ってきとるのに手ェ出さんかったら恥かかせることになるしな……まあ自業自得や」
そうやって、彼は本当は気分がのらないのに無理矢理やり続けたのが原因だと自嘲気味に話してくれた。
だからって、ほっといたら症状が酷くなる一方だよね。それに相手のコだって……。
「ねぇ、忍足くん……やっぱりエッチはしなくても大丈夫だよ」
僕は彼に正面から抱き着いた。
「不二……?」
「女の子が迫るのはエッチしたいからじゃなくて、キミと離れたくないからだと思うよ」
温もりを感じていたいだけ。だから……、
「そうやな……こうしとるだけで、なんや気持ちが満たされるわ」
彼も僕をぎゅっと抱きしめ返す。
ああ、やっぱり安心感のある優しい手だ。
「これからは本当にエッチしたい時だけにしてね?」
「了解や」
約束の代わりに僕らは互いの手に力を込めた。
「ところでな不二」
「うん」
「今がその時なんやけど……」
彼の端正な顔が近づいてきて僕の唇を貪る。
頭がクラクラする……おかしいな……なんだか気持ちいいみたい……。
「挿れるで……不二」
「……んッ」
「やっぱ……好きなコとするんが、最高……やな」
「忍足く、ぅン……、激し……ぃ、イッちゃ……ぅ!」
「一緒にいこうな、不二っ」
彼の抜き差しが速くなり、そして僕らは同時に達した──…
「不二のおかげや、ありがとうな」
僕の身体をキレイに洗ってくれた後、彼はすがすがしい笑顔で帰っていった。遅漏も治ったって。
なんだかよく分からないけど、彼の悩みが解消したのならよかった。
END
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