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すると、仁が映像を一時停止させる。

「この、観葉植物の上に見える頭、分かりますか?」
「…?」

丁度廊下を突き当たりまできて、左へカーブしたところの映像だ。背の高い観葉植物が画面の左端にあり、その観葉植物の上には、人の頭が小さくだが見える。頭から下は観葉植物の影になっていてどうなっているのかは解らない。おそらく20〜30メートル先にいる人間だろう。
廊下に寄りかかっているようで、下を向いている。誰なのかは解らないが、何人か目星はつく。

「再生しますから、よく見てください」

その人物を確認させると、仁は再生ボタンを押した。

「ん?」

その瞬間、観葉植物の向こう側にいた人間が消えたのだ。
サーッと廊下を真っ直ぐに飛ぶワシミミズクの映像には、人が誰も映っていない。観葉植物の向こう側で廊下に寄りかかっていた人間が消えている。そのまま無人の廊下を、再び突き当たりまで進みワシミミズクは上階へと進んだ。

「戻してくれ」
「はい」

人の頭が映っているシーンまで戻し、慎重に画面を見るが、どうしても人の頭以外には見えないし、これは

「皇か…」

咲弥にしか見えない。

「皇だとしたら、何で次の瞬間には姿を消しているのか分かりません。だって、部屋に戻ったとか移動したとかそんな事ではないですよね。そんな時間はなく、忽然と消えています…」
「お前もこいつが皇に見えるか?」
「見えます…だから、ちょっと嫌なんですよ」
「皇と仲良いからな。…しかしこれは小さいし映っているのは一瞬だ。専門家に回そう」
「先輩、皇が関係していると思いますか。大和デパートのアレと、そしてコレ…」
「……調べてみないと解らない」

ヒューゴの頭の中には、咲弥の不安そうな顔が浮かび上がった。
「先生は八属性以外に魔法があったらどうしますか?」
「なんと言うか…先生は魔法のことをどう思ってますか?」
「では、先生はもし悪魔がいたとしても不思議には思いませんか?」
咲弥が授業をサボタージュし、自分の所へ来た日の彼の言葉に、何かメッセージがあるのかもしれない。不安そうな、何かを隠しているような、そんな咲弥の様子がぐるぐると脳内を動き回る。

『何があるんだ』

その日も、四日前だった。咲弥は何かを知っているのだ。
ヒューゴの大きく広い背中に汗が浮かび上がり流れ落ちる。ゆっくりと喉仏を上下し、深く鼻から息を吐くと、仁の肩に手を置いた。

「一先ず、映像データを洗いざらいチェックだ。そして専門家に回す」
「分かりました」

***

咲弥は目を覚ますと、隣に万里が眠っていた。お互い裸のままで、抱き合っている。
目の前にある逞しい胸に擦りをすると、心臓の音が聞こえた。人間みたいだ。

『甘い匂いがする…』

チョコレートの甘い香りがして、悪魔はチョコレートが好物なのかな、とぼんやり考えた。
セックス中の万里は少しイジワルだったけれど、普段より優しかった。なんというか、自分を馬鹿にしている雰囲気がなかったのだ。
いつもは小馬鹿にした態度でいいようにセクハラをしてきた彼だったが、今回は違った。ぐずぐずに蕩かされ、どろどろに甘やかされた。好きだと言ったからそうしてくれたのだろうか?

『好きなのかな?』

本当に自分は彼が好きなのか判らない。でもそれでいい。好きだと思い込んだ方が楽なのだから。

『眠い…』

なんでもいいや。そんな気持ちが蔓延して、咲弥を堕落させていく。結局は力のある者に従うのが賢明なのだ。嘘か本当か、天使か悪魔か人間かなんてどうでもいい。力がある者が全てだ。

広く分厚い背中に手を回すと、寝惚けた万里にぎゅっと抱き締められる。その力強さが心地よくて、咲弥は再び目を瞑った。
何が起きているのか、真実は何なのか。そんな事は何一つ知らずに、彼は万里のものとなったのだ。






終わり






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