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そんな所を見て何が楽しいのか解らないし恥ずかしい。男なのに女を見るような性的な目で見られ、そういう対象にされ…こんな事をされるためにこの学校に来たわけじゃないのに…

「うっわー、ちょーキレイじゃん。画像さ、エロサイトとかに高く売れるんじゃねえの?」
「おっ、いいなそれ。女のエロ写メより美少年の方が高いみたいだぜ?」

カシャカシャと機械的な音がする。それは携帯のシャッター音で、桜介の体の色んな所を撮影しているのだ。泣き顔や薄い色の乳首は勿論、寒さと恐怖で縮こまっている陰茎や慎ましく閉じているアナルまで、隅々撮影されていく。

『やだ、撮らないでよ。何で、そんなところ…』

撮られた画像が何に使われるのかなんて、下世話なことに疎い桜介だって嫌でも理解出来た。撮影するだけして満足、もうおしまい。なんてならない事だってちゃんと解る。
きっと、昨夜のような…もしかしたらもっと恐ろしい事をこれからされるのだろう。鷹臣は自分を好きだと言っていたからまだ優しくはしてくれたれけど、この三人はそうではない。桜介を恨んでいる。
だから、きっと、とても暴力的なことを…

「ふっ、うう、おねが、します…やめてくださ…僕はこの学校から、出ていきますので…っ」
「出て行くんだったら、その前に楽しいことしようぜ?思い出残してから退学しろよ?な?」
「へー、泣き顔もカワイイじゃん。はい、チーズ」
「顔もちゃんと撮っとけよ。そこが一番キモなんだからよ」
「やだっ、やだやだ…恐いよぉ…」

一人の男の指が、桜介の恐怖なんて無視をして陰茎へと伸びる。遠慮なくギュッと掴まれて悲鳴を上げた。

『うそ…!!』

ガサガサとした分厚い手で乾いたそこを握られ、痛みに腰が引けるのにそれを許して貰えず、抑えている手に力が入り、体が軋む。

「やめて!やだ!触らないで!!いやぁ!」
「おいおい暴れんなよ。腕折れても知らねえぜ?」
「ひ!?やだ、やだぁ!!!」

腕も腰もあそこも痛い。
何で、こんな事になってしまったのか。何もしていないのに…普通に、平穏に過ごしてきただけなのに。

『助けて、お母さん!お母さん…!』

思い浮かぶのは桜介の唯一の家族である、母の顔だ。
昨日と同じだ。昨日も心の中で母を呼び、助けてと泣き叫んだ。
でも、誰も助けてくれない。この学校では、もう桜介の味方なんて居なくなってしまったのだから…

『お母さんのところに帰りたい…もう、やだよぉ!』

涙でぼやける視界で、もう一本の指が伸びるのが見える。それが陰茎の更に向こう、後孔の方へ触れてきたと分かり、桜介はもうダメだと目を閉じた。

その時、

「テメーら!何してんだ!!」

ドアが破壊される、爆発音のようなドン!という衝撃音と共に響く、鷹臣の怒鳴り声が耳に飛び込んできた。
それに驚き、男達が動きを止めたその一瞬で、彼はこの部屋に飛び込んできて、鬼のような形相で状況を把握する。

「恵!!」


それからは、よく分からない。

鷹臣のすぐ後から来た先輩が、自身の学ランを脱いで桜介に着せたあと、担いで部屋から連れ出してくれたからだ。
あまり見ないようにと目元を隠されたからはっきりとは判断出来ないけれど、鷹臣はあの巨体三人組の先輩に怯むことなく、K−1選手のように殴りかかっていた。
人が殴られる重たい音や、何かが倒れたり壊れたりする音に、苦しそうに呻く声と咳き込む音。そして言い訳っぽく何か言葉を発するが、ゴン、という深く固い音を立てて倒れ込む音も聞こえた。
見えなかったし、恐くて見たいとも思えなかったから、音だけで鷹臣が優勢であることは分かった。

そのまま担がれた状態で鷹臣の部屋に戻され、ちゃんと服を着せてもらった。

「ごめんね恵くん。君の護衛のこと、ちゃんと考えておけば良かった。オレのミスだよ、マジごめん!」
「あ、いえ…」

誰だかは分からないが、この先輩は普通の人っぽくて少しだけ安心する。それでも、昨日から続くストレスは和らぐ事は無いし、桜介の体は凍えたように震えっぱなしだ。

「あのクソな先輩の処分はオレらがちゃんとするから、もう安心して。何か欲しいもんとかある?」
「いえ、無いです、」
「もしアレだったら、親御さんにも連絡するからさ、」
「!?それってお母さんがここに来るってことですか!?それだけはやめてください!!」
「え?…う、うんっ。そうだよね、こんなこと、親に言いにくいよな。ご、ごめん」

人の良さそうな先輩は狼狽えながらごめんと繰り返し、気まずそうににへらと笑った。
そして、「じゃ、鷹臣のとこ行くから」と部屋を出て行く。

一人になった桜介は、部屋の鍵をかけてシーツを被って部屋の隅へと行き、隠れるように膝を抱いた。震えは止まらない。ここから出て行く気力もない。
何もしたくない。誰も、話しかけないで。

***

「高等部の奴らは俺が半殺しにして処分した。画像もスマホに撮られただけでネットに上がってねえから安心しろ。勿論、誰にも送られる前に削除したぜ。アイツらはすぐに大和から出てくから、もうお前に会うこともねえぞ」
「………」

戻ってきた鷹臣は、桜介の様子を見て触れることはせずに部屋の入口でそう説明をする。隅に蹲る桜介はそれを聞き流し、膝に顔を埋めるばかりだ。

「悪かった。俺が雅に関わる奴らのことまで考えなかったのが悪い。雅自身はまあ、どうにかなったんだけど、その周りがまだクソうるせーんだよ…もう、こういうことさせねぇから。俺が守る」
「………」

守るとは何だろう。何から守るのか。

「それに恵んとこの家まで調べようとしてる奴も居るみてーだしな。こっちはダミーの資料用意させた。お前ン家の事情は親父が揉み消すし、平気だとは思うぜ」
『家…?』

この時、桜介は重要なことを見落としていたことに気付いた。
鷹臣が大和の人間だということは、勿論、桜介の特殊な家庭事情を知っており、それは桜介にとっては脅威だということも知っているということだ。

「せ、先輩…」
「何だよ」
「その、僕の家のことを知ってるのは、理事長と、先輩だけですか?」
「あー、そうだな。後々、生徒会長のリーチには知られるだろうけど、今のところは俺と親父だけだぜ」
「………」

背筋が寒くなり、胃液が込み上げてきたせいで、桜介はそれ以上何も言えなかった。
鷹臣が知っている…自分を好きだと言うこの男が、桜介の秘密を…

『逃げることすら出来ないんだ』


桜介はこれからずっと、鷹臣に縛られることとなる。ずっと……


終わり






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