放たれたセリフに、信じられないと目を瞠るが、鷹臣はそんな反応を無視する。
桜介の言葉なんて、虫が鳴いているようなものなのだろう。

「そんな、でも僕男だし、それに、キスなんてしたことないですっ」
「丁度いいじゃねぇか。ファーストキスは俺としようぜ?」
「あの、んっ!?」

この男はどこまでもマイペースでどこまでも強引だ。長くて太い指で顎を掴まれたかと思うと、桜介のファーストキスは呆気なく奪われたのだ。

『うそ!?なにこれ、なに…!?』

初めてのことで、目を見開いて硬直することしか出来ない。
目の前には鷹臣の濃くて長いまつ毛が伏せられた状態でいる。キメの細かい肌や、眉毛の生え際までくっきりと見える距離だ。
唇には瑞々しくて柔らかい感触と、鼻の横の頬には邪魔そうに突き刺さる彼の高すぎる鼻先が当たっている。
桜介の薄い唇を彼のセクシーで厚い唇が包み、それがパカリと開いたかと思うと、密着していた自分の唇も上と下が離れ、その隙間に彼の舌が入り込んできた。

「ん!んんー!」

にゅるりと柔らかいそれは、容赦なく歯列を割って口の中へと侵入する。
逃げるように舌を引っ込めるが、呆気なく鷹臣の舌は奥の方まできて、下から掬いあげるように絡められてしまった。

『やだ!舐められてる…!口の中…そんなっ』

口の中で逃げても逃げても、鷹臣の舌でいっぱいになるからすぐに捕まってしまい、いやらしく舐められる。
イタズラに吸われたり噛まれたりして、その度に桜介は肩をビクつかせて、涙目になった。

「ふっ、ううっ!んっ、んんんっ!」
「ん、ぢゅっ…」

何となく、大人のキスは舌を絡め合うものだと認識してはいたが、こんなに早く自分が経験するものだとは思ってもいなかったし、ましてや男相手にするものだとも思っていなかった。
それに、キスとはこういうものなのだろうか?だって、気持ち良くない。一方的に掻き回されて苦しいし、呼吸がちゃんと出来ない。ドラマで見たような気持ち良さそうな感じがしないのだ。

「うぁ、んんっ、ふ、んっ」

くちゅくちゅと音が頭の中に響いて、いいように蹂躙されているのが解る。大量の唾液がそそがれ、含みきれずに口端から溢れ落ちるのが不快だし、気持ち悪い。
そもそも好きな人とのキスではないのだ。気持ち悪いに決まっている。
それなのに何故だろうか、緊張で強ばり、冷たくなっていた躰が、徐々に熱くなって汗をかきはじめている。

『なんで?熱い…』

うっすらと肌が湿ったのが分かり、どうしてだろうと困惑していると、顎を固定していた手が外れて、今度は桜介の平べったい躰へと。

『え、なに…?』

大きな手のひらがまさぐるようにネグリジェの上から桜介の胸を撫でる。肌の色と殆ど変わらず、立ち上がることのない幼い乳首を布の上から掠めては引っ掻いたりと弄られ、くすぐったくて逃げるように身を捩った。
すると、やっと唇が離れて苦しかった口の中が一気に酸素を取り込んだ。

「はあ、はあはあ、は…」
「やっぱ雅とは違ぇな」
「はあはあ、え…?」

鷹臣が呟いた言葉が聞き取れず、力なく聞き返すが無視をされてしまった。代わりに、胸をまさぐっていた手は下へとおりていく。

「お前さ、精通してんの?」
「…せいつ?」
「チンコから精子出たのかって訊いてんだよ」
「精…!?えっ、えっと、きょ、去年、初めて…」
「どうやって出した?」
「!?……その、寝てたら、出て…」
「あ?夢精?自分でいじって出したか?」
「自分で!?…やったことありません!」
「マジ?…まあいっか。いいぜ、精通してんならまだましだな」
「先輩、それはどういう意味で…うわ!?」

意味の分からない恥ずかしい質問をされたかと思うと、突然彼の大きな手が股間を包んできた。
スベスベとした布越しにきゅっと握られ、思わず足と肩を跳ねさせて鷹臣の太い手首を掴む。

「なん、ですか、先輩…なに、なにさわってるんですか…」
「は?恋人同士になんだから、ヤることヤんだよ」
「え、えっ、ヤるってなに…なにするんですか…」
「いいから。ここ、イジると気持ちーだろ?チンコ勃って、こっからザーメン出すんだって」
「いや、なんでそんな、ことするんですか…」

そんな場所、他人に触られたことなんて一度もない。鷹臣の言う「ヤる」って何だ。何をするというのか。
恥ずかしいし、怖いのに絶対に逃げ出せない状況に追い込まれ、桜介は目に涙をこれでもかと溜めて震えた。
そんな所を手で触って精子を出したことなんて一度もない。夢精で出してそれっきりだ。