∴ 6 どうしよう。これは、かなりやられてしまった。 別にタイプでもなんでもないのに惚れてしまいそうだ。 心配そうに俯き、悲しそうな顔をするアキラを見て、橋本は胸をキュンとさせた。イケメンでスマートで大人っぽいと思っているアキラの、こんな表情を見てしまっては、無下になんて出来ない。 「持田くん達に心配させたくないから、橋本くんは隠しているんだろ?みんなには言わないから、保健室に言ってくれよ」 「わ、わかった…」 頷くと、安心したように眉間のしわを伸ばす。 やばい。これはやばいぞ。恰好いい上にこんな可愛い姿を見てしまっては、余計に彼に憧れてしまうではないか。 『やべぇ、三島、いい奴すぎる!』 気にかけてもらえた事が嬉しくて、怪我をしたというのに、にやけてしまいそうだ。橋本は能登のところに行くと断りを入れ、足の痛みがバレないように、グラウンドを後にした。 『俺も、三島みたいな奴になりてーなー』 そんな事を考えながら。 そして勿論、秘蔵フォルダは罰ゲームとして消されたのである。 *** 泉悠人はクラスメイトの加藤という友人と教室の窓際の席で談笑している。 この加藤という男は見た目がとてもガラが悪い。 よく分からない模様になっている剃り込みがある坊主頭だし、耳はピアスだらけだ。鼻にだってピアスがあいてるし、色も黒いし眉も細い。体も大きくてごつかったりする。どちらかというとゲイ受けがいいタイプだろう。 好きなアーティストはエグザイルだろうか?と思うくらい強面なのだが、結構常識人で、いいツッコミ役だ。 泉はいつもは自分と同じように可愛い系の友達や後輩とつるんだりするのだが、そんなキャラばかりが周りにいると疲れることもあったりするのだ。 たまにはこういう人間といないとリフレッシュにならない。 「ねーねーカトゥー、僕、ガチで三島くんと付き合いたいんだけどどうしたらいいと思うー?きゃわいくしてたらいける?」 「はー?三島ってノンケだろ?どうもこーもねーよ。無理じゃん」 カトゥーと呼ばれた加藤は、泉の話をまともに聞く気が無いらしい。スマートフォンでソーシャルゲームを楽しんでいて視線をそこから外さない。 「つーかお前、浅田先輩はどうしたんだよ。ちょー王子様!って叫んでただろ。いつから三島に移った?」 「三島くんを見た日からに決まってんでしょー!浅田先輩は、王子様じゃなくて、貴族なの!でも、三島くんは白馬に乗った王子様なの〜!僕の理想の王子様が、三島くんなの!」 「でもあいつノンケじゃん」 「もー!だから、どうやったらつきあえると思う?って聞いてんでしょ!?」 頬を膨らませる泉を加藤はやっと見て、一つ息をついた。泉はそんな加藤の態度は気にならない。まあ、こんなやりとりはいつものことなのだ。 「何でそれを俺に訊くんだよ」 「カトゥーだってノンケだからだもん」 「じゃあそんなノンケな俺からのアドバイスな。ノンケは同性を好きになんねーよ。以上」 「っえー!!!」 訊く意味ないよー!と叫ぶが、加藤は冷たい視線を送ってくるだけ。 正直、この冷めた感じ、嫌いじゃない。可愛い系男子ばかりでキャーキャー嘆くより、気楽だと今は思える。 すると、視界の端に男子の集団が入ってきた。 それはグラウンドへと出てきた同じ学年の男子たちで、中には… 「三島きゅんだ!!!」 「きゅん…?」 泉の王子様、三島アキラも混ざっていた。 「えー!?なになに!?なにすんの!?サッカー!?サッカーするの!?」 十名程の男子がふざけながらサッカーボールを手に持ち談笑しながら歩いているのを見て、泉はこれでもかと騒いだ。 だって、アキラがサッカーをするなんて絶対カッコイイに決まっている。 「サッカーじゃねーな。あれはフットサル」 「フットサルってなに?サッカーじゃないの?」 「人数少ないサッカー」 「なんだ、結局サッカーなのね。えー!僕も混ざりたいー!」 「え、お前フットサルできんの?」 「出来るわけないっじゃーん!」 出来なくたっていいんだもーん。アキラと一緒ならそれでいい。 アキラは本当に王子様だ。 頭がいいしカッコイイし上品だし、みんなに優しい。オタクで暗い戸塚にだって優しいし、空気が読めずに空回りして煙たがられる落合にも優しい。可愛いけれど今一番の厄介者、恵桜介にだってそうだ。 やめとけばいいのにと思うが、そんな平等性が彼の魅力であり、惹かれるところだったりする。 『民には優しく平等に…王子様そのまんまだよ…』 その爽やかで優しく、でも優等生過ぎないゆるさもあるアキラに、もう泉はゾッコンだ。 |