熱の条件 | ナノ






ほかの友達も、アキラが好きなようで彼の肩を組んで絡んでくる。
そりゃそうだ。悪口は言わないし、常に落ち着いて優しい。男子特有の話にも嫌悪感はないようだし、空気も読める。こんな奴、嫌いになるわけ無いだろう。

「んじゃ、橋本チームが勝ったら、三島のエロフォルダ全消しで、三島チームが勝ったら、橋本のエロフォルダ全消しな!」
「え!?俺のフォルダも消されるのかい?それは困るなあ。バックアップしてないんだよ?」
「三島500如きで焦んなよ!マジうける!」

ギャーギャー騒ぎながら、男子たちはボールを蹴った。じゃれ合いのような拙い試合を楽しみ、制服を汚す。
アキラは上手くいいところへパスを回し、ゴールへ導いている。
自分が目立つようなことはしない。彼はあくまでアシストに力を入れている。
そう言えば球技大会でバスケをした時もそうだった。彼は自分がゴールを決めずに、バスケ部の上手い奴に上手くパスを出してゴールさせていた。
そのせいか、一度だけアキラがシュートを決めた時は物凄い歓声が湧いたものだ。同じクラスの泉なんて女のようにキャーキャー騒いでいた。
その時のアキラの、歓声が上がって恥ずかしい。でもシュートが決まって嬉しい。なんて気持ちが出ている笑顔が忘れられない。はにかんだような、少年らしいものだったのだ。
思わず可愛いと思ってしまった。
そして案の定泉が「ぎゃわいいいい!!」なんてオカマのように叫んでいた。

今日も、そんな彼の少年っぽい顔が見れるだろうか。そう期待しながら、橋本は走り出した…のは、いいのだが、ポーンと高く飛んだボールに気を取られ、誰かとぶつかってしまっ たのだ。

「いって!」
「おわ!?」

右肩が大きく弾かれる。骨ばった、硬い何かに吹っ飛ばされ、何も理解できないまま、左側へと倒れた。

「っ!」
「わりぃ!橋本、大丈夫か!?」

飛んだボールを追うように上を向いて走っていたのが悪かった。即座に謝り屈んでくれた友人、持田に突っ込むようにぶつかってしまったようだ。

「俺、骨ばってるから痛かっただろ?ほんと、大丈夫か?」
「おう、悪ぃ。俺が突っ込んだ…いてて、」

被害に遭ったのは持田だろうに、野生児のような元気溢れる彼はピンピンとしていて、尚且つ橋本を心配してくれている。
何だか情けなくて大丈夫大丈夫と笑うが、心配した友人達がぞろぞろと集まってきて、余計情けない。
だから無理に立ち上がり、尻に着いた砂を払って笑ってみせた。

「悪かった!俺平気だからさ、三島のエロフォルダ消すために頑張ろうぜ!」
「持田にぶつかっただけだろ?橋本大丈夫か?怪我は?」
「怪我?それは大丈夫!してない!」
「そっか、怪我してないなら大丈夫かな」
「橋本もー突っ込むなよー!持田だから平気だったんだからなー!」
「分かってるって!悪かったよ!」

しっかし持田よく吹っ飛ばされなかったよなー、ひょろひょろなのにさー。なんて話す友人達を尻目に、橋本は左足のつま先を地面に付け、くるりと足首を回す動きをしてみた。
やはり、微かな痛みがある。
転んだ時に、変なふうに踏ん張ったのかもしれない。

『でもこれなら、中断する程じゃねーな。走れるし。空気壊したくないしなー』

もう一度回してみる。ずきんとした違和感はあるがこれならまあ、問題なく走れるだろう。

『いけるかー』

よし、俺もシュート決めてやろう。なんて意気込んだところで、遠くからアキラに声をかけられた。

「橋本くーん!そういえば、能登先生のところには行ったのかい?呼び出し食らってたよねー!?」
「はぁ?」

能登とは世界史の教師のことだ。
そんな教師からの呼び出しなんてされてはいない。

『はぁ?三島何言ってんだ?』

怪訝そうに彼を見ると、アキラはボールを蹴るのをやめて、こちらに駆けてくる。「俺らは気にしないで、4対4でやっててよ」なんて爽やかに片手を上げながら。

「三島、何言って…」
「足、くじいたんだろ?保健室行きなよ。黙っとくからさ」
「え」

言葉を遮るように耳打ちされ、唖然。
アキラは橋本の体の異変に速攻で気付いたのだ。

「いや、何言ってんだよ。大丈夫だって」
「大丈夫じゃないよ。変に腫れたらどうするんだい?」
「転んだだけなんだから、平気だっつーの」
「嫌だよ。友達が怪我しているのに、無視できない。橋本くんが後々嫌な思いをするのとか、嫌なんだ」
「でもさー」
「心配なんだよ。お願いだからちゃんと保健室で診てもらって」
「うっ…」