∴ 5 ほかの友達も、アキラが好きなようで彼の肩を組んで絡んでくる。 そりゃそうだ。悪口は言わないし、常に落ち着いて優しい。男子特有の話にも嫌悪感はないようだし、空気も読める。こんな奴、嫌いになるわけ無いだろう。 「んじゃ、橋本チームが勝ったら、三島のエロフォルダ全消しで、三島チームが勝ったら、橋本のエロフォルダ全消しな!」 「え!?俺のフォルダも消されるのかい?それは困るなあ。バックアップしてないんだよ?」 「三島500如きで焦んなよ!マジうける!」 ギャーギャー騒ぎながら、男子たちはボールを蹴った。じゃれ合いのような拙い試合を楽しみ、制服を汚す。 アキラは上手くいいところへパスを回し、ゴールへ導いている。 自分が目立つようなことはしない。彼はあくまでアシストに力を入れている。 そう言えば球技大会でバスケをした時もそうだった。彼は自分がゴールを決めずに、バスケ部の上手い奴に上手くパスを出してゴールさせていた。 そのせいか、一度だけアキラがシュートを決めた時は物凄い歓声が湧いたものだ。同じクラスの泉なんて女のようにキャーキャー騒いでいた。 その時のアキラの、歓声が上がって恥ずかしい。でもシュートが決まって嬉しい。なんて気持ちが出ている笑顔が忘れられない。はにかんだような、少年らしいものだったのだ。 思わず可愛いと思ってしまった。 そして案の定泉が「ぎゃわいいいい!!」なんてオカマのように叫んでいた。 今日も、そんな彼の少年っぽい顔が見れるだろうか。そう期待しながら、橋本は走り出した…のは、いいのだが、ポーンと高く飛んだボールに気を取られ、誰かとぶつかってしまっ たのだ。 「いって!」 「おわ!?」 右肩が大きく弾かれる。骨ばった、硬い何かに吹っ飛ばされ、何も理解できないまま、左側へと倒れた。 「っ!」 「わりぃ!橋本、大丈夫か!?」 飛んだボールを追うように上を向いて走っていたのが悪かった。即座に謝り屈んでくれた友人、持田に突っ込むようにぶつかってしまったようだ。 「俺、骨ばってるから痛かっただろ?ほんと、大丈夫か?」 「おう、悪ぃ。俺が突っ込んだ…いてて、」 被害に遭ったのは持田だろうに、野生児のような元気溢れる彼はピンピンとしていて、尚且つ橋本を心配してくれている。 何だか情けなくて大丈夫大丈夫と笑うが、心配した友人達がぞろぞろと集まってきて、余計情けない。 だから無理に立ち上がり、尻に着いた砂を払って笑ってみせた。 「悪かった!俺平気だからさ、三島のエロフォルダ消すために頑張ろうぜ!」 「持田にぶつかっただけだろ?橋本大丈夫か?怪我は?」 「怪我?それは大丈夫!してない!」 「そっか、怪我してないなら大丈夫かな」 「橋本もー突っ込むなよー!持田だから平気だったんだからなー!」 「分かってるって!悪かったよ!」 しっかし持田よく吹っ飛ばされなかったよなー、ひょろひょろなのにさー。なんて話す友人達を尻目に、橋本は左足のつま先を地面に付け、くるりと足首を回す動きをしてみた。 やはり、微かな痛みがある。 転んだ時に、変なふうに踏ん張ったのかもしれない。 『でもこれなら、中断する程じゃねーな。走れるし。空気壊したくないしなー』 もう一度回してみる。ずきんとした違和感はあるがこれならまあ、問題なく走れるだろう。 『いけるかー』 よし、俺もシュート決めてやろう。なんて意気込んだところで、遠くからアキラに声をかけられた。 「橋本くーん!そういえば、能登先生のところには行ったのかい?呼び出し食らってたよねー!?」 「はぁ?」 能登とは世界史の教師のことだ。 そんな教師からの呼び出しなんてされてはいない。 『はぁ?三島何言ってんだ?』 怪訝そうに彼を見ると、アキラはボールを蹴るのをやめて、こちらに駆けてくる。「俺らは気にしないで、4対4でやっててよ」なんて爽やかに片手を上げながら。 「三島、何言って…」 「足、くじいたんだろ?保健室行きなよ。黙っとくからさ」 「え」 言葉を遮るように耳打ちされ、唖然。 アキラは橋本の体の異変に速攻で気付いたのだ。 「いや、何言ってんだよ。大丈夫だって」 「大丈夫じゃないよ。変に腫れたらどうするんだい?」 「転んだだけなんだから、平気だっつーの」 「嫌だよ。友達が怪我しているのに、無視できない。橋本くんが後々嫌な思いをするのとか、嫌なんだ」 「でもさー」 「心配なんだよ。お願いだからちゃんと保健室で診てもらって」 「うっ…」 |