熱の条件 | ナノ






眼鏡を外した姿を見て、普段とのギャップに緊張が走る。
アキラがシャワーから出てきて入れ違いにそそくさと入ったから気付かなかった。
躰を洗い終え、寝室へ行くと上半身裸のまま眼鏡を外して前髪を掻きあげるアキラがそこに居た。
ベッドに腰掛け、真剣な顔で俯く姿が、いつもと違っていてより男の色香を放っている。眼鏡を外し、若干幼くなったように見えたが、彼の出す空気はセクシーそのものだった。普段の彼からは絶対に見れないその姿に、緊張が走る。

「あの……」
「ん、おいで」

小さな声で呼ぶと、笑みを浮かべて手招きされる。カクカクと奮え、おぼつかない足取りでベッドまで行き、アキラの横に倒れ込むように座った。
出された着替えはアキラの部屋着。大きなTシャツとダボダボなジャージだ。アキラの香りに包まれて頭がクラクラする程興奮してしまっているのに、この寝室は、よりその香りが強い。いつも付けているスパイシーなフレグランスの香りに満たされていて、まるで全身を触られているみたいだ。

『まだ、何もしてないのに、こんなに…』

だからだろうか、まだ触れてもいない陰茎は痛いくらいに張り詰めて、しっとりとボクサーパンツを濡らしている。
それが恥ずかしくて、隠すように足を閉じ、躰を縮こませた。

その仕草がいけなかったのか、アキラの声が曇る。

「桜、怖い?シたくない…?」
「…え」

不安そうに降ってきた言葉。
見上げると。困ったように笑うアキラがいる。

「俺が同性とするのが初めてだから、やっぱり不安だよね。それに、付き合ってまだ間もないのに…怖くなって当然だよね。ごめんね」
「ぁ、ち、違うんです!」

慰めるように頭を撫でてきた手を握り、勢い良く首を横に振って否定した。
怖いわけが無い。アキラが怖い事をするわけがないのは知っている。
ただ、恥ずかしいだけなんだ。

「ぼく、好きな人とするのが、は、初めてで…だから、緊張してて……あと、ぼくの体、変で…」
「変?」

何処か悪いところでもあるのかい?そう優しく訊かれてしまったが、そういう意味ではない。何て答えたらいいのか分からず、パクパクと口を開いて目を逸らした。
その間も、アキラは心配そうに見つめている。見られていると思うと、躰がさらに熱くなってしまう。

「違うんです。その、はしたないんです、ぼく…」
「はしたない?」
「はい。…だ、だって、まだ何もしてないのに、からだが、あつくて……も、もう
興奮していて…っ、こんな、みっともないし格好悪い…ン、」

やっとの思いで告げたはいいが、口にした瞬間、鈴口からピュっと先走りの液が溢れ出て、言葉が詰まる。
そんな、ただ言っただけなのに…と、自分を恥じた。こんな状態では、アキラに淫乱な人間だと思われても仕方がない。
嫌われるかもしれない。
不安が躰中をかけめぐり、緊張を走らせたが、アキラは掠れた声で大丈夫と言ってくれた。

「アキラくん…」

そのまま抱きしめられ、ゆっくりベッドに倒される。柔らかい枕が頭を受け止める。
桜介に覆い被さり、額や耳たぶにちゅっちゅっとキスをする彼の表情は見えない。

「俺だって、凄く興奮しているよ。桜と同じさ。だから全然はしたなくなんてないんだよ。それにそんな姿ですら可愛くて綺麗だ。すべてが美しいよ。何をしても、何を言っても、どんな状態でも桜の美しさは変わらない。ビョルンアンドレセンが、どの角度からでもどんな状況からでも美を保ったままカメラに映ったのと同じさ。君も、何も変わらず美しいままだよ。
だから安心して……安心して俺に身を任せてほしい」
「はい…」
「絶対に痛くしない。桜の嫌がることはしない。君が気持いいことだけをする。愛してるよ…」

頬に口付けられ、そのままスライドし、唇が重なる。
熱烈な愛の言葉に、それだけで絶頂してしまいそうだ。むせ返るほどくらくらとした甘い言葉に体が支配されて動けない。このまま、アキラの好きなようにされたい。

口付けられながら、大きな手が躰に触れてくる。
シャツの上から皮膚のやわらかさを確かめるようにゆっくりとなぞられ、ぞくぞくした。

「んん、ふ…」

肩に触れられ、二の腕を軽く揉まれただけなのに、声が出てしまう。そのまま手は肘まで降りて、また上り、桜介の薄い胸にたどり着いた。

「ぁふ、ふ、うっ…」

肉を集めるようにゆっくりと揉まれ、掌が敏感な部分を掠める。薄目を開けて顔を見るが、ライトの逆光でわからなかった。
その時、まだ部屋が明るいままなことに気付き、内心焦る。

『まさか、このままシないよね?』