熱の条件 | ナノ






「ごめんなさい。僕、そういう味が濃いものが好きなんです。いつもは先輩に体に良いものを食べなさいって言われているので、野菜中心だったり、薄味の栄養バランスが取れた食事ばかりで…それはそれで美味しいんですけど、僕はラーメンとか、ハンバーガーとか、カップ焼そばとか、そういうジャンキーなものが好きなんです」

鷹臣に食事を管理されていたのが、今度は嗣彦に管理されている。嗣彦の方が徹底していて、スナック菓子すら許して貰えない状態だ。
そんなだから、久しぶりに味が濃いものが食べたくなった。
食が細そう、とか、野菜しか食べられなさそう、なんて見た目をしているが、実は結構馬鹿舌で、お菓子やジャンクフードやインスタント食品が大好きだったりする。

「そんな、謝らなくていいよ。でも、本当意外だね。俺は桜はそういう料理は嫌いだと思っていたからさ。俺もハンバーガーは好きだよ。鳳学園にいた頃は、よくマックで新作を食べていたからね。ハンバーガーだったら何個でも入るよ」
「アキラくんもですか?僕もマックは大好きです。特に照り焼き味が好きで、たまに頼んで買わせてもらってました。貧乏舌だってよくからかわれたんですけど、何でも美味しいって思えるから、僕はそれでいいと思います」
「それは俺もそう思うよ。何でも美味しいって思えることは素敵だよね。グルメぶって、安い料理は不味い、なんて言ってる奴よりよっぽどいいよ。それに、何でも美味しそうに食べる人と食事をしたいし」

そう微笑み、何故か頭をぽんぽんと撫でてくる。
おそらく、桜介がいる事が余程嬉しいのだろう。これでもかと始終ニコニコとしてて、今まで見たことがないくらい、嬉しそうに笑んでくれている。
今なら何を言っても喜んでくれそうな雰囲気に、桜介は内心はにかみ、照れ笑いを浮かべた。

「桜のそう言った面を知れるのは凄く嬉しいな。もっと色々教えてほしい。食事をしながらでも何か聞かせてね」
「僕も、アキラくんのことがもっと知りたいです!」
「うん、勿論俺も話すよ。じゃあ準備しようか。あとは麺を茹でるだけなんだ」

桜は待っててね。そう言ってアキラは立ち上がり、カウンターの向こう側へと引っ込む。以前は桜介の部屋で直人が生姜焼きを作ってくれた。美味しかったし有難かったが、やっぱりアキラが台所に立ってる姿の方が嬉しいしキュンキュンする。
待っててねと言われたが、桜介も立ち上がり、カウンターの向こう側へ行って手伝った。手伝うと言っても、丼に粉末スープを入れたくらいだが。

「チャーシューとメンマは下のセブンの。サラダは食堂からテイクアウトしたものだし、俺がちゃんと料理らしいことしたのはこの切ったネギと茹でた麺くらい。それなのに子供の頃に初めてホットケーキを作った時くらい、今は緊張しているよ。大した事してないのにね。料理はあまりしないんだ。一人の時だと食事に関してはあまり関心がなくてさ」
「そうなんですか?意外です。アキラくんは何でも出来る人ってイメージがありましたから」
「何でもかい?それは流石にないよ。苦手なことだらけだよ」
「でも、スポーツも出来るし…僕とは大違いですよ」
「そんなことないよ。同じだよ」

そうアキラは笑むと、少し屈んで唇にチュッとキスをしてきた。突然のことで驚いていると、「したくなっちゃった」とはにかむ。その笑顔があまりに格好良くて、リラックスしていたのに心臓は再びドキドキと高鳴った。

『かっこいい…かっこいいよう。ううー、何で僕ラーメンなんて言ったんだろう?緊張して絶対上手に食べられない』

ここまで作っておいて今更後悔し出す。アキラの前で上手く麺は啜れなさそうだし、スープが飛び散ったら、なんて考えたら恥ずかしくて食べられない。

「出来上がったし、早速食べようか」

ラーメンが入った丼を持ち、アキラは颯爽とテーブルへと行ってしまった。


結局ちゃんと完食はしたが、味は全く楽しめなかった。と言うか、緊張し過ぎてちゃんと味わえなかったのだ。
せっかくアキラが作ってくれたのに、汚く見えないように、とそればかりを気にしてしまって、ちびちびと馬鹿みたいに少ない量を少しずつ食べた。
そんな桜介を見て気を使ってくれたのだろう。アキラも途中から食べるペースを遅くしてくれた気がする。
綺麗な指で美しく箸を握り、上品だが男らしく美味しそうに食べる姿を見て、こんな品が良い高校生がいるのかと驚いた。
食事マナーは嗣彦も鷹臣も、直人だってちゃんとしていたが、それとは違う。彼らには"美味しそう"という様子があまり見られなかった。美味しそうにガッツクところなんて見たことがなかったし、本当に上品だ。
アキラは適度にガッツクし、だからといって汚くないし丁度いい。その丁度良さか気持ち良くて見蕩れてしまった。

今は桜介の右側に座り、二人して壁に背中を寄りかからせてクイズ番組を見ている。
アキラはクイズが好きなようで、時折解答を口にしているが、桜介は楽しめていない。アキラが近くにいて、ずっと意識してしまっているからだ。

「これは何だろう?桜、毎月二十二日はショートケーキの日です。なぜ、二十二日がショートケーキの日なのでしょう?だって。えーなんでだろうね」
「えっと、二が並んでいることに、意味があるのでしょうか?」
「どうだろう?ショートケーキの日なんて初めて聞いたよ」

そう言って身を乗り出す彼の腕が、桜介の腕に触れる。暖かい皮膚が直接触れ合って、思わず肩をびくりと奮わせてしまった。

「っ…」
「……」

それが、合図になったのかもしれない。
テレビを見ていたアキラは何かに気付いたようにこちらを振り向くと、再び唇を重ねてきたのだ。

今度は、軽いものではなくて、もっと深いもの…

「んっ、ぁき、く…んん」

下唇を軽く噛まれ、薄く開くと、すぐに舌が入ってくる。桜介の小さい舌に絡むようにれるれると舐められ、唾液が溢れた。

『また、凄いキスされてる…どうしよう…どうしよう…』

彼の大きな手が両頬を挟み、離さないように固定され、その少し強引な感じにときめいてしまう。口の中いっぱいに舐められ、吸われ、逃げようとすると押さえつけられ、桜介はこれでもかと感じてしまった。
躰がカーっと熱くなり、背中に汗が浮く。

「ふ、んぅ、あきらく…んっ、んっ、」
「ン…」

遠慮がちにシャツを掴み、必死に応えようと自分も舌を動かした。だが、すぐにその動きはアキラの舌によって翻弄されて拙い動きへと変わる。
気持ち良過ぎて、くったりとしてしまいただただ差し出すことしか出来ないのだ。

『すごい、今日いっぱいキスしてる…』

フレンチキスだけで、沢山した。目が合う度にチュッとされたように思う。それくらい、沢山キスをしたのに、こんな深いものまで再びされてしまっては、躰についた火を消すことが出来なくなってしまうではないか。

『恥ずかしい…勃っちゃう…』

熱くなった躰は、下腹部を更に熱くさせた。
それはアキラも同様で、唇が離れて、彼の胸にこてんと額をくっつけて息を整えている時に視界に入り分かった。
スエットを押し上げている欲望の象徴は力強く布を突っ張らせている。

「桜……今日、泊まれるんだろ?泊まってほしい…」
「……で、でも、着替えとか、歯ブラシとか…」
「両方共あるから…お願い」
「あっ、ぁ…」

背中にアキラの腕がまわり、いやらしく摩りながら引き寄せられる。
耳にぴたりと唇を付けてあの声で懇願され、桜介は奮えることしか出来ない。自然と瞳が潤み、いやいやと首を横に振ると、もう一度お願いと囁かれた。

「この部屋に入ってから、桜がずっと俺のことを意識していたのには気付いていたんだ。キスをする度に顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに俯く姿とか、可愛かった…そんな姿を見て、我慢なんて出来るわけがないだろう?君が欲しいんだ…凄く…」
「ゃ…ぃゃ…ぼく…」

甘い囁きは、耳から入り込み桜介の下半身をじわじわと刺激する。完全に勃起したのが判り、羞恥から上手く言葉が紡げない。
でも、縋るように彼のシャツを掴むと、伝わったようで「シャワー浴びてくるね」と返ってきた。