熱の条件 | ナノ






「三島くんは中野島をどうしたいんだ?」
「綺麗に言うと、桜から離せればいいよ」
『綺麗に言うと、か…』

桜介と鷹臣が付き合っていなかったということは、それは四天王も知っているということだ。
鷹臣が居た頃から桜介に片思いをしていたのなら、その期間は我慢をしていたのだろう。そして鷹臣は今はこの学校にはいない。もう我慢の必要はない。
しかも直人は四天王の内の一人なので、鷹臣を裏切り、桜介を口説く事は可能だろうし、桜介はアキラのことを言わないだろうから、桜介に恋人がいることは知らない。
今がチャンス、とアプローチを仕掛けてくるだろう。

もし仕掛けてきたら、厄介かもしれない。
そう、仕掛ける気があるのなら…

「中野島は、何か恵くんにしてきたのか?直接アプローチしたり、頻繁に連絡をとっていたり…秘めたままの想いにしよう。という態度ではなかったと言うことなのか?」
「連絡のやりとりは特にしていないな。桜のメールボックスには中野島の名前は無かったし、ラインのやり取りもない。ただ、籠原の帰宅が遅くなった日、中野島が部屋にきて桜に夕飯を作った」
「それは手料理か?わざわざ?」
「そう、わざわざ。食堂があるのに使用せず、街のスーパーまで下りて食材を買って、桜の部屋で生姜焼きを作ってた」
「あの中野島がね…」
「それで判ったんだよ。コイツは桜のことが好きだって」

苦々しくそういうと、拳を作った。
アキラからしたら、堂々と交際出来ないから、そんな直人の存在が邪魔で邪魔で仕方がないように見える。
桜介から離すと言うより、直人を潰したいのかもしれない。
白河につく四天王の人間が、桜介に恋心を抱くのが心底不愉快なのだろう。

だが、そんな事、簡単に潰せるじゃないか。

「中野島が本当に恵くんを好きなのなら、その証拠を白河先輩に出せばいいだけだろう。そしたら中野島には簡単に制裁が下って、恵くんから離れる。困ることなんて何もないぞ」

そうすればいいだけ。
アキラならすぐ思い付くようなことだ。
大将の子分が大将の敵になろうとしているのだから、大将に告げ口をすればいいだけ。

しかし、アキラの反応は悪い。

「どうやってそれやんの?」
「「どうやって」?密室で二人きりでいる所を盗撮でもしてデータを送ればいい」
「桜を囮に使うのか?それは絶対駄目だ!却下」
「……そうか。ではこれならどうだ?恵くんに頼んで、中野島を四天王から外すように白河先輩に頼むんだ。恵くん本人が、中野島に口説かれて困っていると言えば、即、制裁。だろ?」
「白河を頼るということは、白河に好意を寄せていると示してるようなもんだろ。させたくない。っつーか、桜を使いたくないんだよ。桜に知られずに潰すんだ」
『あっさりと潰す宣言か』

綺麗に言った意味はあるのかとツッコミを入れたかったが、それは我慢した。
あれもダメこれもダメと言われると流石に困る。

「じゃあどうするんだ?星にでも願うというのか?」
「へえ、それいいね。晴れた日の夜、一番星を見つけて何回でも願うんだ。10回でも、100回でも願い続けて、桜との恋愛を幸せなものへと導いてもらう」

嫌味を言ったら、ロマンチックな応答をされてしまった。
アキラがそんな少女漫画チックな事を言うと、馬鹿にしているように見えて仕方がない。まあ、実際馬鹿にしているのだろうが。

むっとすると、ごめんごめんと謝られ、「俺の考えではね、」と続いた。

「官僚は知ってると思うけど、去年の十一月に、中野島と白鳥は交際を始めたんだよ。白鳥からアピってさ。…何で中野島がOK出したのか解るだろ?」
「…冬弥が恵くんに似ていたからだろう」
「正解!白河がいるからな、桜とは付き合えない。だから中野島は白鳥と付き合って、桜を諦めようと思ったんじゃないかな。憶測だけど。
でも、その交際はすぐ終わってしまった。なんでだと思うよ?」
「冬弥と恵くんはタイプが真逆だからだろう」
「正解!」

アキラは正解と言うときにいちいち人差し指を立ててみせた。
その仕草も人を馬鹿にしているようで、鐐平は呆れた顔を見せる。

「白鳥は男慣れしている感じだし、桜っぽい淑やかさがない。性格もキツかったりする?」
「僕以外にはそうかもね」
「やっぱそっか。まあ、そういうとこも桜とは違うからね。だから白鳥をふったんだよ。「やっぱり違う」って。
それでポイントなのは、その二人の交際は秘密だった。中野島のファンにはバレたらしいけど、大っぴらにはなってない。お互いのイニシャルのストラップをつけていたりしたらしいけど、白鳥はスマホじゃなくてペンケースにつけていたみたいだし、お揃いのものとはバレにくかったようだよ。まー、それがきっかけで、中野島ファンにはバレたけどな。
そんで、何故、秘密にする必要があるのか考えてみた」

自分の犬の過去の恋愛話には興味はないが、このネタを使って今度虐めてやろう。無表情の下でそんな事を考えながら、アキラの話を聞く。