熱の条件 | ナノ






−いきなり、色々してしまってごめんね。でも、とても嬉しかった。ずっと君のことが好きだったんだ。だから今でも信じられない。夢みたいだよ。

−それは、僕も同じです。凄い事をしてしまいましたが、僕も嬉しかったです。とても恥ずかしかったんですが、アキラくんと沢山抱き締めあえて幸せでした。こうしてメールも出来て、僕も信じられないし夢みたいだと思っています。

−夢みたいだけど、夢ではないんだね。また、準備室で会いたいよ。次はいやらしい事はせずに、沢山桜と会話がしたいな。
ああいった事は、桜が初めてなんだ。男性に触れたのも、男性に欲情したのも初めてだよ。大事にしたいと思っていたのに、我慢出来なかった。それくらい魅力的だったんだ。
ごめんね、節操のない男だね。もうああいう事はしないようにするよ

−謝らないでください。僕はすごく嬉しかったんです。ビックリしたし、恥ずかしかったけど、アキラくんと仲良くなれて幸せです。
だから気にしないで下さい。

−そう言ってもらえて嬉しいよ。次はゆっくり過ごそうね。沢山会話しよう

−はい、僕もアキラくんと沢山お話したいです。

そこまでやり取りをして、桜介はスマートフォンを抱き締めるように大切に持ち、ベッドへと倒れ込んだ。
火照った頬はいつまでも熱くて、体もじんじんする。
重ねられた唇や、抱き締められた背中、撫でられた頭や額、頬にまだアキラの感触が残っていて、まるですぐそばにアキラがいるみたいだ。
同室の嗣彦より早く帰宅して、すぐシャワーを浴びたのにその感覚は消えずにいつまでも残っていて、甘く皮膚の上を這っていく。

『アソコに触られたのだって、忘れられないよ…』

その感覚は、勿論股の間にだってある。
温かくて、ぬるぬると柔らかい感触と、言いようのない羞恥と混ざった快感の波。
思い出しただけで瞳は潤み、心臓がドキドキと高鳴った。

現実のアキラは、想像していたよりも格好良く、優しく、そして何処か強引だった。
香りだって男らしいセクシーな香りだったし、抱き締められた時の力強さだって想像よりも強かった。
紳士的で優しいアキラとは違う、少し強引でサディスティックな匂いを放つ姿は、桜介を更にときめかせた。
強めに求められて、胸の奥がキュンキュンとしっぱなしだった。

「はあ…」

そして二人の間で出来た秘密の約束事が、更に桜介を甘くときめかせている。
アキラが作ってくれた二人だけのあの部屋は勿論のこと、お互いの呼び方だ。
二人きりの時には、桜介はアキラを「アキラくん」、アキラは桜介を「サクラ」と呼ぶことになった。
人前では絶対にその呼び名では呼ばない。だが、あの部屋で二人きりになった時にはアキラは桜と甘く呼んでくれることになった。

『嬉しい…本当の恋人同士みたい…』

恋人同士にだけ許されたルール。メールを読み返し、アキラの顔を思い浮かべる度に、桜介は甘く吐息した。
嬉しさでこのまま死んでしまいそうだ。

『しかも、プレゼントまで貰っちゃったし…大切にしなきゃ』

首を動かし、リビングへのドアの方を見つめる。
その横には勉強机があり、机の上で鎮座している小さなテディベアが。

首輪には、幸福を呼ぶと言われているパワーストーンが揺れていて、蛍光灯の光を浴びて紫色をキラリと反射させている。
チャロアイトという石らしいが、桜介はパワーストーンに詳しくなく、意味は分かっていない。
「知り合いにオーダーメイドで作ってもらったんだ。こういう、パワーストーンとか嫌いじゃなければ、受け取ってほしいな」
そう差し出されたのを喜んで受け取っただけだ。テディベアが好きなわけでもないし、パワーストーンに興味があるわけでもない。ただ、アキラからのプレゼントが凄く嬉しかったし、アキラからのものなら何でも喜んで受け取るだろう。

『今度、僕からもお返しをしなくちゃ。何がいいんだろう…アキラくんが好きなもの…』

もっとアキラに好かれたい。もっとアキラを知りたい。もっとアキラに何かしてあげたい。
そんな気持ちになったのはいつ振りだろうか。
朝日を浴びて輝く朝露のように、澄明で清々しい晴れやかな気持ちになる。
アキラのことを考えれば考える程嬉しくなるし、幸せになる。ずっと一緒にいたいし、沢山愛したいし愛されたい。

『これが、恋愛なのかな』

恋を知らない少年は、再びほう、と吐息した。
ほんのりと色付く頬を撫で、この幸福感に包まれた気分を、ゆっくりと味わう。
この気持ちが恋愛なのだ。今までの四年間は、全く別のものなのだ、と。

「アキラくん…」

−ピンポーン

その時、玄関のチャイム音が、夢のような時間から桜介を引き摺り降ろした。