熱の条件 | ナノ







「ごめん桜。いきなり失礼なことを言ってしまった」
「いえ、いいんです。そう言われても仕方ありません。だって、ちゃんと客観的に見たら、自分勝手だなって思いますから」

気にしないで下さい。桜介はそう苦笑し、ゆっくりと溜め息をついた。

「勝手に僕を産んで、芸能界に入ってしまって…父親のことも誰なのか判らない状態で、僕との関係を必死に隠す…勝手だと思います。せめて父の写真だけでも残してくれたら良かったのに、それすらありませんから。
でも、僕は母が大好きなんです。これでもかと愛情を貰いました。離れていましたが、それでもちゃんと愛されていると解りました。だから母が、僕が卒業したら会見を開き発表してくれると言った時は、僕のためにすごく頑張ってくれたんだなって思ったんです。母は今三十七ですが、その活躍は二十代の頃から変わらず第一線にいます。そんな母が初めてスキャンダルを出すんです。相当なリスクなのに…もう仕事が無くなるかもしれないのに…だから、僕は…」

言葉が止まった。
腕の中にいる桜介の肩が、硬くなった気がした。

「桜…?」

優しく髪をすき、どうしたんだと顔を覗き込むと、桜介は目を真っ赤にして震えている。

「僕はっ、ずっと、白河先輩とのことを、ずっと、ひっ、ひっく、我慢、して…っ、友、達も、できな、くて、ぅっ、いつも、先輩がいて…今だって、自由じゃな…っうぅ」

ぼたりと大粒の涙が落ちて、洋服にシミを作っていく。喉を詰まらせてしゃくり上げ、耐えるようにギュッとシワの寄った眉間が痛々しい。
桜介は、まだ十二歳の頃からずっと耐えてきたんだ。
いや、生まれた時から耐えてきた。あまり帰ってこない母親を待つ日々。母親を母親だと大声で呼べない日々。家にだってまともに友達を呼べない。決まっていた進学先を強制的に変えられ、その先で鷹臣に縛られている。

『何でだよ』

何で…まだ、高校二年生なのに、何で彼がこんな辛い思いをしなければならないんだ。
悔しい。すごく悔しい…今すぐにでも桜介を攫ってこんな辛いことから解放してやりたい。

「大丈夫…大丈夫だから…俺が、桜を自由にするよ…愛してる…」
「ぼくも、アキラくんが好きです…大好きっ…こんな学校で、アキラくんだけが僕の光なんですっ、んっうっ、アキラくんがいなきゃ、ぼくは…」

桜介の体重がゆっくりとアキラの体に重なっていき、縋るように肩口へと額が擦られた。
しゃくり上げる細い肩を抱いて、何度も愛してると囁き、頭を撫でる。愛しい人が泣いているのが悲しくて、胸が張り裂けそうで、それを和らげるようにギュッと彼の体を抱いた。

「本を読むことしか、楽しみなくて…っ、白河先輩が卒業してから、いつも、帰って一人でいて、そんな日の中、アキラくんが現れて…ん、アキラくんは、僕の生活にはじめて、彩りをくれたんです…嘘だらけのぼくの人生で、アキラくんだけが本物なんです。アキラくんっ、アキラくん…」

強くアキラの体を押し、泣きながら桜介がアキラの上に乗る。そのまま宝石のような美しい涙をぽたぽたと落とし、口付けをしてきた。
震える薄い唇が寒そうで、アキラはあたためるように啄んでそれに応える。鼻の横を通り、少ししょっぱい涙で濡らした唇を唇で拭ってやり、濡れないようにと柔らかい髪を優しく掻き上げ、背中を撫でる。
この華奢な体はアキラのものだ。誰がなんと言おうと、彼は絶対に自分のものだ。自分が守る。守ってみせる。

「さくら…」

白い頬を撫でて大きな瞳を見つめると、桜介は悲しそうに笑んでゆっくりとアキラの胸に手を這わせた。

***

随分と日が伸びたせいか、まだ外は明るい。日が傾いているのは判るけれど、夕焼けはまだまだ先かもしれない。
そうだ、こんなに暑いんだから、もう夏みたいなものだろう。吐く息が熱を持っているし、汗で前髪がびっしょりと濡れている。曲げている膝裏に汗が溜まっているし、脱いだのにまだシャツが纏わりついているような不快感がある。
目に汗が入り、それを煩わしそうに腕で拭った。クーラーをつけているのにこの熱気は、きっと自分と、下にいる桜介のせいだろう。

「ふぇ、あんっ、あっ、ああっ、おなか、へん…!」
「うん、うん…っ」

脚を開いて仰向けに横たわる桜介の腰や脚を掴んで、美味しそうに熟れた後孔へといきり勃った己のそれを突っ込んで、どれくらい経っただろうか。もう既に二回は出したはずだ。だから、確か…一時間は経っているだろう。

『暑い…』

桜介に求められるがまま、アキラは躰をまさぐり、久しぶりに触れる愛しい人の体温に溺れた。
生理的な泣き顔や、羞恥しているが触れられて喜んでいる表情や、美しい肌がさっと赤く染まる様を目に焼き付けるように眺めて、視姦して、桜介をぐずぐずに溶かした。
特に久しぶりに挿入ったココは凄くて、アキラを離してくれる気配がまるでない。