熱の条件 | ナノ






「うん、いいよありがとう。…あ、でも加藤は外部な上にノーマルな人間だったよね?白河先輩と桜が一緒にいる所を見て、結構衝撃受けたんじゃないかな?」

加藤幸典は、このメンバーで唯一のストレートな人間だ。他校には交際して一年になる彼女がいる。
薬指には、彼女とペアなのだろう、シルバーの指輪がはめられているし、この学校独特の「男の匂い」がしない。美人で巨乳で少しギャルっぽい。そんな女の子が如何にも好きだ。という香りしか彼からはしない。
エグザイルにいそうな男らしい風貌は、ゲイ受けが良さそうにも見えるが、そういうジャンルからもズレているし、正真正銘のノーマルだ。

そんな人間からの視点は気になるもの。
質問をされた加藤は自分の硬そうな額を撫でて、少し考える素振りをした。

「んー……そうだな。まあ、確かにカップルっつーのには見えなかったわ。どっちかっつーと、何かカツアゲされてるヒョロガリって印象だった。食堂で見てたんだけど、派手でデカい男の横に常にいて、暗い顔して飯食ってるヒョロヒョロで小さい男が、デカい男に気を使ってたまに作り笑いしながら、ほかの囲んでる奴らの話を黙って聞くっつーか…そんな感じだった。だから最初はイジメられてんのかと思ったわ。でも、付き合ってるって聞いて「へー」みたいな」

桜介を可愛いや美人とは言わず「ヒョロガリ」と言ったところが彼らしい。

「うん、そーやな。そんな感じやったなぁ」

そんな加藤の発言に口を出したのは、三年生の日藤祐三。今の時代居るのかと思うような毬栗頭で、目付きは鋭く、銀縁の眼鏡をかけている。そして太っていて、ズボンにでっぷりと腹が乗っている。
顎もたぷたぷだし、もう少し太ったら首がなくなりそうだ。
だが、その鋭い目の奥には聡明さが垣間見える。
兵庫出身の日藤は、そこまでキツくない関西弁で、ゆったりと話し始める。

「僕と西やんと小松山くんは、恵くんのファンやから、ずっと恵くんを見とったんよ。その頃は鷹めぐのカップリングがキてたから、その二人のファンの人らとコミュニティチャットとかしてて、めっちゃ盛り上がってたん。あ、今は完ッ全にアキめぐ派やで?まあ、そんで」
「うんうん!すんごい鷹めぐはやったんだけど、俺は断然アキめぐ派になったなぁ!何かアキめぐはほのぼのするんだよね!」

日藤に続き、小松山一博は元気に発言した。瞳が大きく、元気そうにキラキラしている。同い年だが、二つくらい下に見えた。今はアキめぐだと鷹めぐだのどうでもいい、と言うように日藤が視線を飛ばしているが、本人は気にしていない。天然なのだろうか。

鷹めぐというのは、鷹臣×恵。アキめぐはアキラ×恵という意味だろう。
太って伸びた頬を揺らしながら、日藤は続ける。

「せやから、恵くんの変化とかめっちゃ詳しいんよ。…おっと、なんかごめんな、彼氏さん前にして詳しいとか言うて」
「あ、いえ、大丈夫です。寧ろ凄く有り難いです。…あの、桜の変化というのは?」
「それがな、そこの加藤くんが言うように、白河先輩の横でくっらい顔しとったまるでイジメられっこみたいな恵くん…ややこしいから、ブルー恵くんって言うな?」

西山誠から「センスなーい」とヤジが飛んだ。日藤は「うっさいわ」と照れながら続ける。

「当時は気になんなかったんやけど、今思うと、確かに暗かったわ。おとなしい子やから、彼氏とおってもおとなしいんかなって思ってた程度やったなー。今思い返すと、変やったなーって感じ。
んで、そのブルー恵くんでいる時期が、恵くんが白河先輩と同室になった中一の頃から、中三なったくらいまでと、高一から先輩が卒業するまでなんよ」
「え、四年間ずっとではないんですか?」
「それがちゃうねんなー」

そこで日藤は一つ息をつき、アキラが用意した350mlのペットボトル飲料水を飲む。

何だ?どういうことだ?
ブルー恵…つまりは、鷹臣の横で苦しんでいた桜介の姿には、ムラがあったという事なのだろうか。
中学三年生から、高校一年生までの約一年間は、苦しんでいなかったというのか?
何故、間が空くんだ…

桜介はずっと四年間、苦しんできたのでは無かったのだろうか?

「それはどういうことなんですか?」
「それが意味わかんないの。当時はすっごい萌えたから気にしなかったんだけど、今思うとおかしいかも。ブルー恵?はは、やっぱセンス無いねこの呼び方。それと全然違う時期があったんだって。なんていうの?デレ期?」
「ああ、うん…」

日藤の代わりに話始めた西山誠の言葉に、納得するように首を縦に振ったのは鐐平だ。
アキラはその頷きに疑問を抱いたが、今は西山の話を聞くことにする。

「俺、こういうの話すの下手だから、時系列に話してくね」

日藤とは違い、細くてスタイリッシュな西山は、両腕を組んで右手の人差し指をくるくると動かす。彼が話す時の癖らしい。

「覚えてる範囲だけど、白河先輩って当時、学校一の美人、西條先輩と付き合ってたの。西條先輩は白河先輩の三つ上だから、俺らの四つ上ね。三島くんからしたら五つ上。すんごいラブラブで、人前でキスとかしちゃうバカっぷるだったんだけど、恵くんが入ってきてから白河先輩はころっと恵くんに乗り換えたの。あんなにラブラブだった恋人あっさり捨ててね。
自分の権力使って恵くんを同室にして、交際スタート。そんなだから、勿論西條先輩は怒るし、西條先輩の親衛隊からは白河先輩も恵くんも嫌がらせをされてたの。そりゃそうだよね、だって先月まで小学生だった子に恋人とられたんだよ?怒りもするでしょ」