熱の条件 | ナノ






リビングへ戻り、黎治郎が座っているソファへと直人も腰を下ろす。
まだ黎治郎はグラスに手をつけていなかったので、お前のウーロン茶だと言ってすすめた。

「知ってる。一組でも話題になってる」
「へえ…僕と恵くんだと、やっぱ目立つんだ」

何だか少し頬が熱い。
話題になっている…自分と、桜介が。少し前だったら絶対有り得なかった事だ。
直人は、出会った頃から恵桜介が気になっていたから。
既に鷹臣の横にいた桜介に一目惚れをしていた。桜介の美しさに魅せられ、鷹臣にバレないようにずっと目で追う日々を過ごしていた。
既に桜介は鷹臣のものだったので、もう直人には縁がないものと諦めていたのだ。

そんな彼と自分が話題になっている。桜介と鷹臣ではなく、桜介と直人が…

先ほどまで一緒に居た桜介の言葉を思い出し、直人はポーカーフェイスのまま、嬉しさに吐息する。

すると、その吐息を見てなのか、黎治郎が突拍子もないことを口にしたのだ。

「良かったな。マサ、桜介くん好きだろ」
「!?」

一瞬、心の声が口から出たのかと驚いた。
しかしそうではない。絶対口にはしていない。

−好きだろ
言葉が、ぐわんと頭を殴った。

表情をあまり変えない直人だが、こればかりは目を見開いてしまう。
彼は今、何と言った?

「は?黎治郎…何言ってんだよ…」

語尾が震える。
これではもうバレバレじゃないか。

「違うのか?マサを見てたらそうだと思ったんだが」
「ウソ…僕、そんなに顔に出てる?」
「ん。俺しか判らないと思う」
「そ、そう…」

思わず、口角がひくりと痙攣した。
だって、直人は自分の気持ちを誰にも知られずに過ごしてきたつもりだったからだ。
いくら桜介が違うと言っても、彼は尊敬する鷹臣のもの。鷹臣が愛する人物を、自分が愛してはいけない。そう言い聞かせて過ごし、今だって色々我慢している。
絶対にバレてはならないと注意もしているのだ。こういうのには敏感な嗣彦だって気付いていないから、自分と桜介との園芸を許可した。
それなのに、黎治郎は気付いていたのだ…

「マジで…」

脱力するしかない。
ずるずると背もたれを滑り、だらしなくソファに横になる。不貞腐れたように唇を尖らせ、ため息を吐いた。

「大丈夫。鷹臣さんには言わない」
「うん。そうして」

黎治郎に背を向け、腕で顔を隠す。自分の中で処理し切れず、勝手に顔が赤くなっていく。

「桜介くんの、何処が好き?」
「……黎治郎、今日はよくしゃべるね」
「興味がある」
「…そう」
「………」
「………」

恋バナに発展するのだろうか。そんな質問をされるとは思ってもみなかった。
沈黙が続く分だけ、彼が聞きたがっているのが伝わり、直人は仕方無く口を開く。

「見た目と、性格だよ。うるさくないでしょ、彼」
「俺も煩くない」
「黎治郎は寡黙なだけじゃん。僕は、大人しくてお淑やかで優しい人がいいの。恵くんは、そういう人じゃん」
「白鳥冬弥は違ったのか?」
「げっ。白鳥の時も気付いてたの?……違ったよ。見た目は恵くんっぽかったけど、あの子は籠原さんタイプだったし」
「桜介くんみたいな人は、ほかにもいる」
「いるけど…恵くんがいいんだよ。……うわ、はずっ。何言わせんの」
「何で桜介くんがいいんだ?」
「えー?…分かんないよ。もうずっと片想いしてたから麻痺してよくわかんなくなってる」

随分と質問してくるな。普段は「ん」しか言わないくせに。
そう思いながら、黎治郎を見ると、彼の瞳は濁りが無く、澄んでいて美しかった。

『あー…』

そうだった。
今一瞬忘れていた。