07.
『何か怪しいな』
「何が?どうして?何の事?」
朝だと言えばいつまでも僕の部屋に彼女を置いておけない。名残惜しいけど、廊下に誰も居ない事を確認したら彼女を寮まで送って、急いでシャワーを浴びて食堂へ。
まだ彼女の姿は見えないけど、見知った2人のテーブルへ行けばキョトン顔と仏頂面で出迎えられた。
『その返しが益々怪しいっつーの!』
「何を根拠に言ってるの?哉太より怪しい人が居たらそれこそビックリするんだけど」
『なんだと!?』
『あはは。疑うって訳じゃないけど今日はやけに機嫌良いよな羊は。この時間は大抵お腹空いてひもじい顔してるのに』
「お腹空いてる事に代わりはないよ。だからウダウダ言ってないで朝食を食べさせてよね」
やっぱり彼女が絡むと僕は顔に出さずにはいられないらしい。まあ、例の件を除いたら2人に話しをしてあげても良いんだけど…だからって打ち明けたら、彼女が僕の部屋に泊まった事とか怒りそうだし。哉太が怒るのは今に始まった事じゃないけど錫也が怒るのだけは避けたいとこだよね。お弁当無くなりそうだし、意外と後まで引きそうだし、何て言ったって笑ってない笑顔は怖いし。
たっぷりチョコレートクリームを塗られたトーストを噛りながらそんな事を考えてると、あっちもあっちで浮かれ足でテーブルに向かって来る彼女が居た。
『おっはよー!今日も好きだよ皆ー!』
「おはよう名前、僕だって大好きだよ」
『、何朝から馬鹿言ってんだ!名前も機嫌良過ぎじゃねえの!』
『確かに…ちょっと変だな、元々変わってる事を抜きにしたとしても…』
『錫也。どういう意味なの…!』
『変って言うとそういえば…昨日晩ご飯の時2人共居なかったよな?』
一瞬肩が跳ねそうになった。
流石は錫也って言うべきなのかな。哉太とは違って痛いとこを突いてくる。
「昨日なら僕は両親から電話があって食堂に行きそびれたんだ。中々電話を切らせてくれないから仕方なく部屋でレトルトのご飯を食べたよ。それが何か?」
『あ、アタシも!昨日部活で疲れちゃって部屋に帰ったら直ぐに寝てたんだよね!気付いたら朝になってるしビックリだよー!お腹も空いたし!それが何か?』
『…………………』
『…………………』
『錫也』
『…だな。まあ2人がそう言うならそうなんだろうし?俺は何も言わないけど?それでも疎外感は否めないよなぁ哉太ー?』
『そうだよなぁ錫也ー?』
「はいはい。納得したならそれで良いでしょう?早く食べないと2人の分も僕が食べちゃうからね、いただきます」
『羊!てめえ…俺の飯食ってんじゃねえよ!』
「うーん。やっぱり僕は白飯より錫也のお握りが良いなぁ」
『無視すんな!!』
『……何か羊君てアタシより哉太の事の方が好きな気がしてきた』
「え!?」
『それは俺も同感だ』
「ちょ、ちょっと2人して何言ってるの!笑えない冗談止めてよ!比較にもならない上に哉太のがって…!トーストが不味くなる!」
『それはこっちの台詞だ!!』
彼女と2人ならどんな話しだって出来るのに。4人揃えば結局いつも通り。
それでも、今日だって退屈しそうにないって思えるのは4人で居る事も心地良い証拠。こっそり彼女と眼を合わせて笑ったのも秘密だけれど。
(20110422)
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