君が咲いて僕も、咲いた。 | ナノ


 


 16.


がむしゃらにボールに食らいついても届かなくて、不様に追いかける自分が馬鹿に思えた。
でもその馬鹿さ加減が心地いい事、今迄は気付かないフリをしてただけかもしれない。


16.意地と葛藤と馬鹿 (月島)



超ーーーっ!ダサい!
その瞬間、恍惚で鼻の下を伸ばした顔は人生終わったと言わんばかりの絶望に変わる。満足そうに菅原さんは笑って、気の毒そうに澤村さんと東峰さんは目を伏せた。真っ黒な微笑みを前に庇う事も抗う事も出来なかったんだろう。


「フッ」

『馬鹿、何笑ってんだよ月島』

「影山こそ馬鹿なの?」


あれを見て何で笑えるんだよ、そう言いたそうに顔を歪めるけど、あれを見て何で笑わずに居られるの?そっちの方が僕にとっては不思議でしかない。
西谷さんが受けたダメージ、他人の不幸は蜜の味って言うでしょ。これを愉快と言わず何て言うんだよ。


『今日はもう解散するぞ!お前等さっさと片付けて帰ってしっかり食え!寝ろ!』


そんな中、お決まりの台詞と共に今日は終わりと烏養コーチから告げられ体育館はあっという間に閑散とした。
ご機嫌に帰ってくあのヒトを見送れば、片付けたばかりのネットをもう一度出す。


「はぁ、面倒くさ、」


そのまま置いておけば楽だったのに、またコートを作るなんて馬鹿げてる。外はもう暗闇で、試合疲れも取れてない。たかだか部活で居残り練習をする日がくるなんて僕に限って夢にも思ってなかった。

でも、
“クロ、強かったでしょ?”
普通に言い切るあのヒトが怪訝にしか思えなくて。
“そんな簡単に取れるも思うなよ、ボールもアイツも”
今のままじゃいけないんだと思い知らされた。
負ける時は負けるし、勝つ時は勝つ、所詮は部活動なんだからそれでいいと思ってた癖に屈辱が脳を支配してどうしようもない劣等感が渦巻く。


「……、はあ、はあっ、」


ひとりでボールを上げてひとりでボールを打つ。相手をイメージしながら何度も打ち込んだけど、あの眼をイメージすればするほど上手くいかない。音駒セッターのあの眼と、トサカ頭のあの眼。完敗の景色ばっかり過って、意識すると頭が上手く回らず抜ける気がしなかった。


「……くそ、」

『、つっきー?』

「、」


イメージですら勝てない相手に、散らばったボールを集めようとした時、体育館入口から顔を覗かせたのは山口だった。
帰った筈なのに何で居るんだよ。


『自主練、してたの?』

「……ちょっと動き足りなかっただけ」

『ひとりでずっと?』

「他に誰か居るように見える?山口こそ何してんの。とっとと帰りなよ」

『俺は忘れ物して…………、つっきー』

「?」

『俺もやる!ちょっと待ってて着替えてくるから!』

「え、何で……て、もう居ないし」


誰にも知られたくなかったのに。
自分の弱い所を認めてるみたいで、弱味を握られたみたいに思う。山口の顔にはそんな事書いてなかったのに、そう思ってしまうのはやっぱり僕が人一倍捻れてる所為なのか。
でもまあ。バレたからには丁度いい、アタッカーになって貰えばひとりの練習よりどれだけ効率良いか。


『つっきー、お待たせ!』

「別に待ってないけど」

『いいからいいから!俺じゃ役不足なのは分かってるけど、ブロックの練習付き合う!』

「…………うん」


僕が求めてるモノは理解ってる、そんな風に笑った。いつも後ろをついてくるだけの奴みたいになってたけど、愛想の悪い僕に文句も言わず今もこうして付き合ってくれる。
僕は他人なんてどうでもいい、自分の世話さえしてればいい、なんて視界を狭めていたけど。山口が打つボールを手に当てながら、良い奴なんだなって、思えた。


『ハアハア、つっきー、ちょっと、休憩……』

「…………いいよもう」

『え、』

「十分だから。助かった、って、思ってる」

『つっきー……』


ありがとう、その言葉を言うにはハードル高い。
あのヒトだったら素直に言えるんだろうけど僕には到底無理だ。


『つっきー!またやろう!』

「ーーーー」


それでも、山口にはちゃんと伝わったらしく。
あのヒトと同じ顔して笑う。あのヒトと言い、西谷さんと言い山口と言い、真っ直ぐ過ぎる視線は眩し過ぎてむず痒い。


『あ、やべ、家に連絡入れるの忘れてた……!飯片付けたとか言ってる……』

「そんな事言いながら準備してくれてるもんでしょ」

『そうかもしれないけどさぁ……うちの親、小言始まったら煩いんだよー』

「何となく想像出来るけど……、」


さっさと片付けを済ませたなら帰って直ぐ寝よう、鞄を背負って何気なく携帯を開くと、
“つっきー練習してるの?”
あのヒトからメッセージがあった。


「……山口、まさかあのヒトに自主練の事言った?」

『え!!えっと、俺が!俺が自主練するって、言った、んだけど…………ごめん』

「はぁ……いいけど」


付き合って貰っておいて山口に文句を言う気は無いけど。一番知られたくなかった相手に知られたとなると気が重い。皆に言う様に『えらい!』『頑張ったね』『格好良い』なんて言われても、結果に満足出来てない僕は嬉しくも無い。そんな言葉に騙されるほど馬鹿でも単純でも無い。

だから“何の事?”知らんぷりをした。強がりだって言われたとしても認めたくない。だけどデリカシーの無いあのヒトは“忠に聞いたんだから分かってます”なんて。ヒトの痛いとこに平気で踏み込んで来て、勘弁して欲しい。そんなこっちの事情なんてお構い無しにヅケヅケと返信を繰り返す。

(分かってるならわざわざ聞かないでしょ、普通)

(だってつっきーが慣れない事してるんだもん、普通確認したくもなるじゃん?)

(ただの気まぐれですから)

(それならいいけど。つっきーは馬鹿だね)

は?急に何を言い出すのか。
不意の一言に指が止まって眉間にシワが出来る。

(クタクタになるまで試合したのに、その後でも練習なんて馬鹿だもん)

(だから早く帰って休んで。明日からつっきーが休みーなんて言ったら許さない)

(馬鹿)


「…………………………」

『、つっきー?怒ってる……?』

「は、ハハハッ!」

『え、つっきー?』

「馬鹿なヒトに馬鹿って言われたら笑うしかないでしょ」

『、ど、どういう事?』

「何でもない」

『ちょ、つっきー?!』


えらいだの格好良いだの、想像してた言葉はソレなのに、返って来た言葉は想像を軽く超えて真逆のメッセージ。
悪口と嫌味たんまり詰められてるのに声を上げて笑ってしまったのは、あのヒトが僕をちゃんと見ていてくれたから。“馬鹿”この一言が今は何より嬉しかった。

(前に言ったでしょ、馬鹿はお互い様だって)



(20180307)



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