01.
(す、好きです)
初対面で顔を合わせて5秒、アタシが無意識にそう口にしてから早くも半年になる。あれは高校2年の冬、文化祭の時だった。
クラスの喫茶店で売り子をしてるといつもより3割増しで眉間のシワが濃くなってた宮地君が視界に入って来て、どうしたのかなぁなんて思った矢先、宮地君に良く似た、だけど明らかアタシ達より大人なのに宮地君よりあどけなく笑う柔らかい眼が映って。その瞬間、あの人以外の景色が色褪せて見えた。
あの人を見付けて5秒、あの人を見つめて5秒、それがアタシにはどうしようも永い時間にも思えて、気が付いた時には公衆面前で好きだなんて言ってしまってた。
(―――俺も、好きになりたいな)
一瞬だけ瞠若を見せた後、アタシの目線に合わせてニッコリしてくれたあの笑顔、半年経った今でも忘れる事なんか出来ない。
『名前ちゃーん』
「、」
『ボーッとしてどしたの?俺の顔、何か付いてる?』
「え、あ、うん、相変わらず格好良いなと思って…」
全寮制で田舎の学校、それだけで時間が上手く取れないアタシに合わせて鷹介君は大学が早く終わる時いつも星月学園まで会いに来てくれる。そして学校の近所をのんびりと散歩して、時には一緒にご飯を食べて。毎日じゃなくてもそれがこの半年でアタシの日常になってた。
土日祝日、お休みの日に会える時は勿論アタシが街の方へ出て行くけど平日である今日だって、迎え行くからの一言のメールを添えて鷹介君が来てくれた。
アタシが授業を終えて門に行けば既に到着してた鷹介君は笑いながら手を振ってて、家に帰った訳でも無いのにおかえりって言ってくれる。頭を撫でてくれる。
アタシは最高に贅沢な女の子だなって、思わずにはいられなかった。
『格好良いって褒めてくれるのは嬉しいけど、相変わらずっていつの事?』
「え?」
『今と、いつの俺を比較して言ってるの?』
「えーと、そりゃ初めて会った時からですけど…」
『本当ー?』
「あ、当たり前じゃんか!でなきゃあんな初対面て告白しません!一目惚れなんかしないもん!」
『あはははっ!そりゃそうだなー、ビックリしたけど俺も嬉しかったし。あとあの時の龍の顔は忘れらんないかな』
鷹介君もあの日の事は鮮明に覚えてるみたいで、何かあれば尽く宮地君がとんでもなく素っ頓狂な、開いた口が塞がらないって顔してたのを思い出しては喉で笑う。そりゃアタシも宮地君があそこまで顔を歪めるのは初めて見たし『この男だけは止めておけ!本当に!絶対に!』なんて叫ばれてどうしようかと思ったけど。(哉太と錫也も目が点になって持ってたお皿やらグラスやら落として割った訳だし)
「でも、ね」
『うーん?』
「何でアタシと付き合ってくれる気になったの?好きになりたいって鷹介君が言ってくれた時はときめいて浮かれて舞い上がって何も考えられなかったけど…帰り際、付き合おうって言って貰えるとは思わなかった」
『それはまた今更な話しだねー?でもどうしてそう思ったの?』
どうしてって言われても。
だって、そうじゃん?大学生から見れば高校生なんてガキだろうし、しかも会って5秒で告白するような奴だよ?本当の本当に顔しか見てないって言ってる様なもんだよ?
アタシだったら間違い無くお断りだ。
だけど鷹介君はその後アタシの手を引っ張って構内を回ってずっと笑ってくれてた。手を離さないでスターロードも一緒に歩いてくれた。たった2時間くらいしか過ごしてないのに『真面目に、付き合って下さい』って言ってくれた。
アタシからすれば願ってもないし幸せで感激だったけど、客観的に改めて考えれば…自分が言うのもアレだけどちょっとどうかしてると思う。
『あはは!言うねー!』
「だ、だって、」
『でも、俺は本気でそう思ったから言っただけ』
「え?」
『あの時、手繋いで離したくないって思ったんだよ』
「鷹介く、」
『名前ちゃんの事何も知らないくせに近付けたって絆されたから』
「―――――」
結局それで今、逢う度に惚れさせられてるから間違って無かったよ
今日も繋がれた手にぎゅっと力を込められれば、アタシだって幻想だと言われる一目惚れからの恋すら本物になって酔わされる。
(っていうかさ、俺知ってたんだよね)
(え?何を?)
(龍の部屋にあった弓道部の写真見て、名前ちゃんに逢いに行ったって事)
(は、本当に!?)
(だから近付けたって言うより前に近付きたかったんだ…って言ったら信じる?)
(え、ちょ、冗談なの?本当なのどっち!?)
(んー、秘密)
(20120914)
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