君を知った、今日 | ナノ


 


 06.



『今から国の状況を教えたるからちゃんと聞いときや!』


此処は日本で言う戦国に値する場所なんだから身構えちゃったけど、俺に任しとき、そんなノリで謙也が仁王立ちして言うもんだから厭な緊張が解けていく。
ただ、自分達の事だって言っても謙也が物知りなんじゃないかって感じがして変な気分だけど。……って言ったらやっぱり怒るのかな。


『さっき迄の話しで此処は魏、そこの一番上に居るのが白石っちゅうんは分かったと思うけど、今は領地争いで戦が頻繁にあんねん』

「領地争い?」

『せや。自分等の領地広げて、自分等が一番の存在やって知らしめるっちゅうかな。今は俺等の魏と呉を中心に他にもゴタゴタやってんねんけど…』

「そっ、か…」

『せ、せやけどな、悪い事ばっかりちゃうねんで!』

「え?」

『最初は白石を中心に従兄弟の俺と財前しか居てへんかってんけど、戦していく内にオサムちゃんも増えた。やっぱり仲間が増えるって嬉しいやんか』

「………………」


謙也の顔を見ればそれが本当の気持ちだって事くらい一目瞭然で。どんな理由や経緯があったのかは知らないけど、こっちの世界はこっちの世界で皆繋がってたんだって、思える。


『白石みたいに、せやけど白石とは違う思想を持った男が他にも居る限り戦は終わらへんけど、白石の作る時代が早よ来たら思うねん』

「それはそうかもしれないけど…皆が皆、自分が上に立ちたいとかそういう気持ちじゃないの?」

『んー。最終的なとこはそうかもしれへんけど根本がちゃうもんな』

「根本って?」

『例えば呉やと自分等の国が平和に暮らせる様に家族を守る為に闘う。国は持ってへんけど、劉備っちゅう男は民の為に、困ってる人間が居らへんなるのが夢やって言うてる』

「……じゃあ、蔵は?」

『何を犠牲にしても自分が上に登る為や』


どういう、事?
他の人は誰かの為に闘ってるんだよね?なのに蔵は違うの…?自分だけの為?
そんなの、アタシが知ってる蔵とは想像出来ない。


『まあ、それでも白石には白石の考え方がある訳やし、俺等は納得した上で白石に着いてってるんやからそこは理解したって!』

「そんな事言われても…」

『理解しろって言われて困るのも分かるけど、名前の国は戦も何も無い国なんやろ?俺にはそっちんが理解出来ひんのやで?そやから“そういうもんや”って思ったって!』

「……分かった」


アタシの世界の蔵とこっちの世界の蔵とは違う。やっぱりそう割り切るしかないのかな?
だけど同じ顔、同じ名前と言い、謙也を見てると全くの赤の他人とは思えないのに…


『兎に角こっちは戦真っ只中っちゅうことで、そっちはどうなん?』

「え、」

『名前はどんな時代に居ったんや?』

「ど、どんな時代…平和って言えば良いのかな?」

『阿呆か!もっと具体的な事聞いてんねん!』


何か謙也に常識的な事を突っ込まれると複雑なんですけど。
四天宝寺の中では常識人って言えばそうかもしんないけど謙也は…ヘタレだし…


「えっと、朝起きて、学校行って、部活して、家に帰って、家族とご飯…?」

『学校?部活って何や?』

「それ聞くの?面倒臭…」

『俺やって簡潔やけど説明したやろ!それくらい教えてくれたってええやんか!冷たい女やな!』

「は、冷たいって何!学校くらいニュアンスで理解してよね、勉強する所だよ勉強する所!部活は自分が好きな事に打ち込むの!運動とか音楽とか、趣味を堪能するようなもんだよ馬鹿!アタシの世界の謙也は馬鹿力のひとつ覚えみたいにスピードスピード、スピードスターなんて言いながら楽しくテニスしてますよ!」

『――――――』


―――っと。
謙也の呆然とした顔見て我に返った。こっちの謙也があんまり変わんないからいつもの調子で勢い任せに言い過ぎた…?
馬鹿とか言っちゃって、お前なんか死んでしまえとか言われたらシャレになんない…!


「ご、ごめ、」

『せやんな!』

「え、」

『名前の世界にも“俺”が居るんやんな!』

「あ、ま、まあ……」

『あー、何や不思議やのにめっちゃ面白いやん!俺ってどんな奴になってるん?格好良え?』

「、基本的に今此処に居る謙也と何ら変わんないんだけど…」

『へ?何で?』

「何でって言われても」

『格好良ええんやろ?』

「だから顔同じだってば」

『…性格は』

「同じだって」

『体格とか髪型とか』

「全部同じったら同じ!変わんないから!じゃなきゃさっき謙也見た時に分かる訳ないじゃん!」

『せ、せやな…』


なんなのもう。怒らせたかと思えば変な期待ばっか膨らませちゃって。
格好良くなってる事が前提ってどうなの本当に!
…だけどまあ、


「アタシは謙也が変わらなくて良かったって思ってるよ?」

『、』

「安心出来たし嬉しい」

『っ!そ、そか!それならそれでええか!今の俺が変わってるっちゅう方が違和感ありまくりやもんな!』

「そうそう」


良い意味でのこの単純さが憎めない。
謙也とならこの世界でも上手くやって行けそう、かな。


(20110609)

※三國は魏、呉、蜀の3つですが蜀という国が出来たのはもう少し後の話しみたいです。


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