05.
先走った口、
アイツの顔すら見れずにいた。
1秒でも、
timeless.5 道路に映る影
謙也と並んで帰る道。
月明かりに照らされて、伸びた影が道路に2つ並んでるのを見ると無意識に口元が緩んだ。
「謙也ー、お腹空いた」
『口開けばそれやん』
「もうご飯の時間だから仕方ないじゃん!っていうかアタシがいつも食べる事しか考えてないみたいな言い方は止めてくれない?」
『ちゃうん?』
「ちゃうちゃうちゃう!アタシだって女の子なんだからね…もっとこう乙女な事を考えたりするんだよ、寧ろそればっかり?」
『………………』
「ちょっと何なのその顔」
ここぞとばかりに眼を細めて怪訝を向けて。本当信じらんない。
謙也だって顔だけは良いんだから、モテない理由がそこにある事くらい理解すれば?
まあ、モテられて困るのはアタシなんですけど…。ほらこういうところとか超乙女じゃないですか。
『しゃーないな…これやるわ』
「え?」
『俺の非常食やねんから要らんとか言うなや?』
「……ポッキー」
『嫌いな奴なんか居らへんやろ?』
「ポッキーが非常食って…やっぱり謙也は格好良いじゃなくて可愛いだよね」
『な、なんやと!?おおお俺の何処が格好良いとちゃうっちゅうねん…!』
「そうやって吃っちゃうとことかー?」
『っ、うっさいわ……!』
こんな何でもない会話すら楽しくて仕方ないのはそれだけ謙也が好きな証拠。やっぱりいつかは告白とかしたいけど…流石にそれは緊張するよね。万が一にでもフラれたりしたら立ち直れないし。どう顔を合わせば良いかも分かんない。
………あああ、だめだめ。せっかく一緒に帰ってるんだからそんな思考は止めて明るく楽しく行かなきゃ!勿体ないじゃんね!
そう思ってさりげなく話題転換。
「さっきね、オサムちゃんと話してたんだけどさ、」
『オサムちゃん…?』
「そうそう。何かいつもと違ってたっていうか…寂しそうに見えたから気になってたんだけど…」
『…………………』
「でもね、本気で心配したら人肌が恋しいんだとか言っちゃって!ちょっとウケたけど、オサムちゃんがそんな事言うのも珍しいよね。あれ、珍しくないかな、いつも冗談ばっかだから訳分かんなくなってきた」
『……………………』
「謙也?」
別に報告するって訳じゃないけど…それでも気になった事とか、何でも無い事とか。兎に角思い付いたなら謙也には何でも話しをしておきたかった言ったのに。
『…………すればええやん』
「え?ごめん何て言った?」
『せやから!そんなにオサムちゃんが気になるんならオサムちゃんと付き合うたらええやろ!』
「ちょ、謙也…何言ってるの?」
『どうせオサムちゃんは名前が好きなんやし、大歓迎で彼氏んなってくれるんとちゃう?』
「謙也、」
『お似合いやと思うで。っちゅうかもう家目の前やろ。ほな』
「、……」
何で、そんな事言うの?
唐突過ぎた言葉はアタシの心臓と身体を止めた気がして、謙也を引き止める事も名前を呼ぶ事も出来ずにいた。
謙也の、ばかやろう。
(20110426)
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