lark | ナノ


 


 06.



ま、ええすわ
そう思った理由って。


lark
incident.6 へらっと笑った


面倒臭い面倒臭い、そう思えば思うほど時間が経つのは早いもんで。授業なんや瞬く間に終わった放課後、教室を出た瞬間ドアの向こうには厭にニッコリ笑うあの人が待ち受けてた。


『光、学校お疲れさま!』

「はあ…」

『じゃあ行こうかデートに!タイミング良く部活もお休みになった訳だし!』

「タイミング良すぎやろ…何やしたんちゃいます?」

『何か何をするの!冗談言ってないで早く行こうよデートに』

「名前先輩はデートかもしれへんけど俺はデートちゃいますわ」

『光もアタシとデートだよ!』

「勝手に言うとって下さい…」

『勝手に言ってます!』


へらっと屈託なく笑う顔は完璧に塗りたくられた化粧も崩してしまいそうなくらい満面やったけど、それを見せられると反論の言葉も消え失せる。せやから多分ずっと調子狂わされんねん。
見た目通り利益になれへん興味無い男には無愛想なら頷けるのに寧ろ人に慣れてる野良猫やっちゅう話しや。そら感じ悪いよりはええんやけど……何か、この人と一緒やと違和感があんねん。


『えっとねー、そこのカフェで待ち合わせしてるんだけど…』

「こっからパッと見て帰ったらあかんのです?」

『それじゃ顔しか分かんないじゃん!大事なのは中身でしょうが!』

「先輩みたいな人からそんな言葉が出て来るとは」

『え、何か言った?』

「何も無いすわ」

『そうなの?あ、居たよ居た!丈くーん!』

「、」

『待ったかなぁ?これでも学校終わって直ぐに来たんだよ、急に時間早めちゃってごめんね』

『良いさそれくらい、早く君に会いたかったんだから光栄だよ』

「………………」

『それなら良かった!こちら財前光君、アタシの親友だよ!で、こちら爺式加丈君!(じいしきか じょう)』


これはまた個性の塊が来た。ジャケットの胸ポケットに薔薇が刺さってんねんけど突っ込むのは後々面倒臭そうやし見いひんかった事にしとこ。
にしても顔はまあ普通やけどこんな男でほんまにええんやろか。あの人のセンスを激しく疑いたくなる。


『宜しくしてくれよ善哉君?』

「はあ、どーも」

『ちょっとちょっと光ー!!そこは“財前です”って突っ込まなきゃ!』

「いやもう何か(どうでも)ええかなって」

『良くない良くない!名前は大事なんだから!それに丈君もちゃんと覚えてね!』

「アイムソーリーヒゲソーリー。ちょっとしたジョークのつもりだったんだけどね、名前で遊ぶものじゃないって事かな」

『あはは!もう丈君ってばー!』


正直、っちゅうか言う迄も無くついていけへんタイプの男の登場に俺は今すぐ帰ってやりたかったけど、それでもあの人はさっきと同じく屈託無い顔で笑ってるんやった。誰にでも向けられるそれを見れば、あの違和感の正体に気付くの容易な事で。
あの顔、好きなんやなって、漸く自覚した。それだけでも此処に来た甲斐があったっちゅう訳かな。


(20110120)


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