君愛 | ナノ


 


 01.



もし流れ星を見付けたら、神社で神頼みをすれば。
それだけで願いが叶うんだったなら俺は何だってする。

あの人の心を下さいって。


君を好きになった僕を
愛して下さい

captive.1 好きの理由


初恋、と言えば嘘になるけど初恋と言っても良いくらいこんなに誰かを好きだって思うのは初めてだった。テニスだけを1番に考えて生きて来た自分、もしもっともっと昔からあの人を知っていたならテニスが1番じゃなくテニスも恋愛も1番、下手したらあの人が1番の生活だっかもしれない。

高校生になって恋という単語にどれだけ振り回されたか。自分が自分じゃないみたいで違和感が否めなかったけど、今はもうそれも解けてあの人を追い掛けるこの生活が楽しいって思ってる。馬鹿みたいに笑って、忠誠を誓うみたいに擦り寄って頷いて。
あの人が隣に居ればそれだけで世界は虹色に変わるんだって、本気で思ってた。


『グッモーニン!今日もアタシの可愛さはカラスが真っ白になるくらいに絶好調でーす!』


ちょうど朝練が終わって部室で着替えている時、一見とんでも無い言葉を口走ってる様なだけどこれも普段と変わらない。マネージャーのくせに仕事してくれるのは滅多な事だし自称じゃなく可愛さを認めてんのは誰でもない俺。特別美人な訳じゃない、ちょっと濃い目の化粧して短いスカート履いて何処にでも居る様な女子高生。だけど顔だって性格だって俺から見ればピカイチで、先輩達だってなんだかんだ言いながら可愛がってるのが良く分かる。何でだろうな、雰囲気?


「名前先輩、今日も可愛いっス!」

『駄目だね赤也、美しいと言って美しいって』

「めちゃくちゃ美しくて眩しいっスよー!」

『宜しい!赤也のそういう素直なとこが好きだよーっ』


良く出来ましたとでも言う様に俺の頭をワシャワシャ撫でながらご満悦といった顔を見せられると、こっちだってそれだけで嬉しくなる。春風が舞い込んで来たみたいに、蘭麝に包まれたみたいに、すっと俺の中へ入って来るあの人は良くも悪くも俺を掻き乱して離さない。
あーもう、好きなのも頭撫でたいのも俺だって同じなんですけど。

ただ、何が違うと言えば、


『名前、赤也と戯れてないで遅刻したんだ。言う事があるだろ?』

『えーっと?ゆっきーも好きだよ?』

『それは分かってる。だけどそうじゃないよ』

『遅れた理由?それはねー赤也がアタシに飴買って来いって言うから』

「え?!俺言ってないっスよ!」

『可愛い可愛い赤也が、皆に飴あげたいんだって可愛い事言うからアタシが代わりにコンビニに走ったって訳』


名前先輩の言う“好き”とか“可愛い”とか、それは俺が言う“好き”とは全くの別物ってこと。


『そうか…じゃあ赤也が悪いね、赤也は休み時間返上して部室掃除でもしようか』

「何でそうなるんスか幸村部長!俺は何も言ってませんて!」

『だって名前が言ってるんだよ、嘘吐いてるとでも言いたいのか?』

「それは…」

『ゆっきーは物分かりが良いから大好きだよ!』

『はははっ、名前に好かれるのは喜んで良いのか悪いのか分からないな』

『どう考えても喜ぶとこじゃんか』

「ふ、2人だけで盛り上がらないで下さいよ!俺も混ぜて下さいって!名前先輩が好きなのは俺ですよね!」

『アタシ皆好きー』

『今日は部活終わったら赤也の失恋パーティーにしようか』

「な、何でそうなるんスか…!」


あの人の好きは広くて浅い皆への言葉だから。
飴という単語に反応して飛び付く丸井先輩にだって甘えて身体を預けてみたり、肩に手を乗せて含み笑いする仁王先輩にだって変わらない笑顔を返したり。
こっちは毎日毎日ムカついて我慢してんのに全然分かってない。

ねえ、早く俺だけのもんになって下さいよ。


(20100525)


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