05. oneday/4月14日
「ふっふふーん」
『うん?偉いご機嫌やな?』
放課後、部活へ行こうと教室を出ると直ぐに出くわした蔵は微笑ましい、そんな顔してアタシの頭をポンポンと叩いた。
機嫌が良いも何もさぁ!立て続けにあれやこれや起こると幸せじゃない方が可笑しいってば。嫌いじゃないけど特別好きな訳の無い掃除をさ、ユウ君と一緒にしてさ、小春ちゃんの事以外は自己中極まりないのにさ、あのユウ君がアタシを手伝ってくれて…
もうもう部室が2人のマイホームに見えたって話し!
『ハハハッ、緩んでんで顔』
「え、それって不細工ってこと?」
『名前はどんな顔してても可愛えよ』
「それなら嬉しいけど」
今なら蔵の声でもユウ君の『可愛い』に脳内変換出来る。だけどユウ君に可愛いって言われたら一生分のハッピー使い果たしそうじゃんね…いやだからこそ良いんだけど!
『はいそこ鬱陶しい』
「むぐっ」
『、ユウジ?なんやねん鬱陶しいて』
『とにかく見てるだけで暑苦しいっちゅうかウザイねんて』
妄想じゃなくって現実でそんな事が起こる日なんていつか来るんだろうか、夢幻に思ってると辿り着いた部室前には既にユウ君が居てアタシと蔵をかぎ分けるみたく押し退けられる。加減の無い力に、掴まれたアタシの頬っぺたは良い音を出して潰れるけど蔵の方は大したこともなくて。
普通逆なんじゃないの?そうは思っても鬱陶しいの言葉のが引っ掛かった。
「ユウ君…鬱陶しいって…」
『その顔もウザイな』
「ええ…酷い…!」
『こら!女の子にそんな事言わんの!』
やっぱりユウ君相手じゃ可愛いの“か”の字も期待出来ないかもしんない。地味にショックを受けてるアタシを余所に、ハッと何かを思い出した様な眼をした蔵は途端眉を寄せてお説教モードの顔付きへと化した。
『そういえばユウジ』
『なんやねん』
『昨日の事やけど』
『はぁ?それは今朝納得したやろ山田ん家に行ったって』
『あれから小耳に挟んだんや』
『、は?』
『頼まれたのは名前1人でユウジは関係無いってな』
『、』
今度はユウ君がハッと眼を見開いて視線を流す。幾ら普段がなぁなぁで過ごしてるとは言ったって、部活に出てると出てないでは違いは明確で、蔵の細かい性格を考えればこうなるのも仕方ない。況してや朝練では頼まれて渋々山田君の家へ行ったんだって言ってた訳だし…。
可哀想だけどアタシもフォロー出来ないねごめん。
『ちゃんと説明して貰おかユウジ?』
『、せやけど俺悪いと思って昼休み掃除したんやで!それでチャラや』
『掃除?』
『せや。なぁ名前?』
「あ、うん」
ここで小春ちゃんと自分のロッカーしか磨いてないとは言うべきじゃないよね。アタシはユウ君が好きだもん、助け船を出したいのも当然だしフォローしなきゃだよね。例えば自分が頑張った事をアピール出来ないで横取りされたみたいになってても、少しくらい拗ねたくなっててもアタシが優勢すべきなのはユウ君への好感度だって…!
「く、蔵、ユウ君頑張ってたよ…?」
『……その顔、殆ど名前が済ませたっちゅう事やんな』
「!」
『どうせユウジは小春のロッカーを綺麗にしただけやろ。まさか口裏合わせろとか言われてるん?』
「そそそそんな事ない!全くない!ああああり得ないって!」
何て事言うの白石部長!
蔵が変な事言うからユウ君にすっごい眼で睨まれたじゃんか…!
好感度上がるどころかマイナス行き過ぎだよこれ…
『まあええわ。それは一応認めたる』
『一応ってな。努力した人間に言う台詞ちゃうやろ』
よ、良かった。
とりあえずユウ君の顔が元に戻った。だけど絶対後でユウ君にキレられる自信がある。
『で、ユウジ。何でなん?』
『何がや』
『部活サボった理由や』
『山田ん家行った言うとるやん何遍言わすねん』
『そうやない。そうやなくて何でユウジまで行く必要があったんかって聞いてんねん』
至極突っ込んでくる蔵のお陰でユウ君の眼は不機嫌さを物語って細くなっていく。端から見てるアタシの気持ちも考えて頂きたい。
お説教は十分だから蔵も止めようよ、っていうかお願いだからもう止めて下さい。蔵は良いかもしれないけどアタシがね、アタシが八つ当たりされんだよ…
ハラハラ厭な不安を抱えて何かに縋って祈ってたけど、
『阿呆か、行く理由なんや分かり切っとるやん』
『言うてみなさい』
『1人で男の家に行くとかあり得へん』
………え?今なんて?
都合良く聞こえるアタシの耳はイカレポンチにでもなっちゃったの?
さも当然の如く、そんな事も分からないのかとでも言う様に頭を掻きながら言葉を続けるユウ君に、アタシと蔵は最終的に愕然としていられなかったんだ。
好きやからやけど?
アタシは本当の本当に絶頂期だったんだ!
(ユウジ、もっとシチュエーションとか考えたらどうや…?)(は?白石が言え言うたくせに)(そらそうやけど…あれ、名前?)(ゆゆゆユウ君がアタシを、アタシが山田君に盗られちゃうかもしれないから、ユウ君が心配して嫉妬と戦って、それでアタシを死守して、)(……喜んどるみたいやなユウジ)(俺そこまで言うてへんのやけどほんまウザイなテンションが)
(20100728)
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