dear. | ナノ


 


 32.



彼女に会うたら伝えたい事がある。
闇雲に伝えたかったあの時とは違う、言葉は同じやとしても。


dear.
bet.32 例えば、君へ


財前が渡してくれた紙を握り締めて走ると、過るのは俺の前で笑ってくれてた彼女やった。

最初はただニコニコしてるだけで何も知らへんかった。気が強いところも、それでも照れ性やってことも。
ほんまはそれが作られたもので隠された素顔に戸惑いもあったけど、知れば知るほどに放っておかれへんくて、俺が彼女の傍に居らなあかんて変な使命感と義務感を抱いてた。今思えば傍に居るらなあかんとかそんな偉そうなもんやなくて、単に俺が隣に居りたかった、それだけのこと。

彼女に触れて、彼女と繋がって、そうすればもう彼女の事を知った気になってた。18年も生きてその中で彼女を見て来たのはほんの僅かやのにそんな思い違いまで起こして、知らなあかんかった1番の事を知らへんかった。


彼女が煙草を吸うてた理由、多分それは早く大人になりたかったから。ただの背伸びやなくて、普通で居れる間に大人を感じたかったんや。

あの時の“電話したくない、声聞くと逢いたくなる”この台詞も“蔵と居るとずっとこんな時間が続く気がする”この台詞やって自分が愛されてる証で、この先の不安を表した彼女なりのSOSやったんかもしれへん。

“蔵、顔に、虫……!!”

ごめんな、気付いてやれへんかって。自分の哀愁にいっぱいで何も見えてなくて。


「ほんまに、ごめん…!」


  □ □ □


落ち着いたら学校おいで、診察が終わった別れ際、オサムちゃんはそう言った。
今まで何ともなかった身体は最近になって手足の震えが酷くて、ベッドに寝転んでも机に向いて座っててもご飯を食べてる時だって、自分が何をしてるのか何がしたいのか分かんなくなるくらい呆然としちゃう事も増えて、だからこそ学校にも退学届けを出したって言うのに。本当、何言っちゃってんだか。

そりゃ病院に通って薬を貰ったら症状も緩和するけど量を増やせば今度は幻覚症状だとかどっちが良いのか分かんないし。心配してわざわざ病院に付いて来てくれたことも嬉しいけど、そういうの余計しんどい。周りが憂愁な顔してアタシを見るの、嫌いなんだよ。

溜息を吐いたって何か変わる訳でも無い現実に項垂れてグッと息を飲み込むと、漸く見えて来た家の前に見慣れた人影があった。


「………くら、」

『名前ちゃん、話しがあんねん』


アタシが別れるって、迷惑だって言ったって何で来るの?
もう逢いたくないのに。蔵の顔、見たくないのに。


「話しなんか、する事ないって言ってるじゃんか…」

『ううん、あるやろ?俺に言うてへん事あるやんな?』

「、」

『俺が、名前ちゃんの病気の事聞いて、嫌いになるって言うと思った?』

「―――――」


何で、そんな事知ってるの…
1番、知られたくなかった人が何で…、


『ごめん』

「え、」

『独りで、頑張ってたんやんな…?』


“もう弱いとこも隠さんで良えから”
その一言が聞こえると途端、瞼が熱くなって視界が滲んだ。

逢いたくないなんて嘘、本当は逢いたかった。偶然逢えた時だって何処かで幸せを思ってた。
別れた後直ぐは何度かメールも電話もあったけど、きっと時間が経てば蔵もアタシを忘れるんだって、携帯が音も出さなくなるのが怖かった。

電話もくれないの?
メールもしてくれないの?
これから迎える誕生日も、クリスマスも、蔵は居ないの?
そんなの、嫌だって。


「…分かってよ、アタシ、蔵に変な姿見せるの嫌、なんだよ…」

『うん』

「好きになりたくなかったの、逢いたくなかったの、」


1度好きを覚えたら、愛される事を知ったら依存してしまうって分かってたから。


『…うん』

「哀しいのも辛いのも、寂しいのも嫌だ…だから、蔵には出逢いたくなかった」


お父さんだってお母さんだって友達だって皆ね、病気の事を知ってる人達はアタシを見る度に眼を逸らしたくなる顔してて、アタシが何をしようと好きにすれば良いって言ってた。
それは可哀想だって思う優しさだったのかもしれないけど、本当は駄目な事は駄目だって叱って欲しかったし、今までは自分が不幸だなんて思ってなかった。だから、普通に笑ってて欲しかった。お兄ちゃんに向ける時と同じ、変な事して呆れられたり馬鹿言って笑われたり、怒られたり、そんな生活がしたかったんだ。

でもね、何も知らなかったからって言えばそれまでだけど蔵はちゃんとアタシを叱ってくれたよね。特別仲が良かった訳じゃないのに、赤の他人の身体を心配して、アタシを怒ってくれた。
初めはビックリして、まさかそんな事であんな風に言われると思ってなくてどう返して良いのか分からなかったけど、どんな悪態付いたとしても蔵は呆れながら怒って笑って、アタシが望んでた世界をくれたんだよ。
それが、幸せだった。
だから、離れたくなくて、だけど、離れたかった。


『名前ちゃんが幾らそう言うても俺は変わらへんよ』

「変わらへん、って、」

『名前ちゃんに逢うてから、別れるって言われてからもずっと頭から消えへんねん。寝ても覚めても浮かんでくるのは名前ちゃんの事だけや』

「…………」

『それって好き以外、何かあるかな?』

「……でも、」

『名前ちゃんが哀しい時は傍に居る。名前ちゃんが楽しい時も傍に居る。どんな時も一緒に居らせて欲しいねん』


俺と付き合うてくれませんか。

アタシの頬っぺたに蔵の手が触れて、本当は取り戻したくて堪らなかった体温が此処にあるんだって思うと視界を滲ませてたモノが外へ溢れ出した。

今はまだちゃんと喋れそうにないからもう少し待ってね。
涙が止まったら伝えるから、酷い事してごめんねって、好きだよって。それと、アタシを好きになってくれて有難うってコト。


例えば、君が居るだけで私は笑いが溢れるんだ。


愛してるを、君へ



END.

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完結です。
なんだか最後グダグダ過ぎて上手く文章も言葉も浮かばなくて訳の分からなく終わらせてしまった感満載です。ごめんなさい。
多分予定ではもっと引っ張って泣けるものを目指すと同時に光についてももう少し入れたかったんだと思いますが自分でも良く分からなくなってきました。
もうもう中途半端過ぎてごめんなさい!

最後に中断しましたメールを付けますので良かったらお付き合い下さい。

蔵からメール(空メすると届きます)

(20100810)


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