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 k17.5



関ケ原での戦い、予期してた通り西軍は財前を始め何名かの寝返りによって総崩れになった。
数時間に渡る戦は徐々に体力を奪って赤色が自分へと散る度に精神も犯されて、もう、最期は情けなくも安易に徳川の虜とされた。

せやけど後悔は無い。
俺は自分の意志で動いて、自分の想いを大切な人に伝えたから。それ以上望む事なんや……、ひとつだけ我儘を言えるなら、彼女が自分の居るべき世界に戻った時、笑って暮らせますように。それだけやった。

でも、何でやか彼女は惨めに捕縛される俺の前に居て、酷く顔を歪めてる。


『勝手に最後にしないでよ…』


可笑しいなぁ…?笑ってって、ちゃんと最後に約束した筈やったのに。


  □


彼女を初めて見た時、この世には天女という存在がほんまにあったんやって、ただ見惚れてた。
長い髪を揺らしながら空から舞い降りて、無垢な瞳を向けてくれる。突然過ぎて驚いたけど、疑うどころか、そこに生きてた蕾まで花弁を見せてくれる様な気がした。


『アタシが蔵の罪を背負う』


実際、俺は一回りも二回りも離れてる彼女に対して恋をしたのは一目惚れやったけど、決め手はこの一言やったんちゃうかな。言葉をただ口にするのは簡単な事やけど彼女の眼は建前やなく嘘でもなく真実しか映さへん。その瞳で俺の為に涙を落としてくれた事、あれは凍てついた心を溶かしてくれる様な暖かさとか、鍵の無い牢屋の心をこじ開けてくれる様な包容力を見せてくれて。

忠誠忠義を誓ったのは秀吉様だけやと思ってたし、それとはまた少し違うけど、彼女の為なら命を捧げていい、寧ろ捧げたいと思った。


『蔵は勝手だよ、アタシの事置いていくくせに』


何を言われても彼女の言葉はいつも温もりしか無くて。どんな一言でも全てが俺の為に、俺を想ってくれてるからこその情愛やったんや。
なぁ、知ってた?俺はな、名前ちゃんが声を出す度に愛を伝えて貰ってるんやって自惚れてたこと。ずっと、幸せやったんやで。血に濡れた汚い自分でも、愛されるんやって。笑顔をくれる人が居るんやって。

せやから、好きって言葉だけは受け取らへんかった。
俺が、名前ちゃんには釣り合わへん汚れた人間やったから。綺麗、過ぎて、触れる事も怖かったんや。生きる時代も違う、過ちの数も違う、俺には眩し過ぎて。
ほんまは好きやって聞いてみたかった。好きって伝えて好きって返って来たり、俺が幸せにするから、そう言える様なそんな仲になりたかった。冗談言うて笑い合って、隣り合わせでずっと、一緒に生きたかった。

せやけどな…?もし一度でもそれを聞いてしもたら止められへんて思ったんや。彼女の為に生きて彼女の為に果てると誓った事も投げてしまいそうやったから。
愛してたから、聞きたくなかった。愛してたから、身を滅ぼす事を選んだ。愛してたから、踏み込む事を畏れた。

全部、全部、彼女が笑ってくれますようにって、祈る為に。


『くら、』


せやのに何で、名前ちゃんは泣いてるん?
最後の最後、逢えて嬉しかったのに、心底幸せやって思えたのに、何で、笑ってへんの?

俺のなんかの為に泣かんで。少しでも俺を想ってくれるなら笑って。君を前にすれば縛れた身体も、落とされる首も、何も怖くないのに。俺だけが幸せやって笑うなんか、望んで無いんやで?


愛してる、

愛してるから、笑顔を見せて下さい




「………、ん」


気が付くと身体は激しい痛みを訴えながら見慣れない真っ白な天井が視界に広がった。天井に付いてるのは、何や……?厭に、眩しい。
これがあの世の世界なら景色も痛みを感じるのも摩訶不思議なこと極まり無いねんけど。せやけどそんな事より彼女は、もう、笑ってくれてるんやろうか。それだけが不安で心配で仕方なかったのに、不意に感じたの左手から伝う温もり。
この温度は、まさか、


『蔵…?』

「……………」

『やっと、眼覚めたんだ…』


彼女、の筈が無いのに。
確かに左手からは愛しく想ってた、あの暖かさ。


『ずっと待ってたんだよアタシ』

「名前、ちゃん……?」

『えっとね、此処は病院って言ってアタシが住んでる世界なんだけど…だけど説明なんか後にさせてね』

「、」


蔵、大好きだよ

ずっと聞きたかった言葉、ずっと見たかった笑顔、ずっと想い続けてきた大切な人。
激痛が走る身体なんかお構い無しに、俺は彼女を抱き締めて女々しくも視界を滲ませた。

人に強制させといて自分は笑わないなんて可笑しいよ、なんて怒る彼女に、俺からも伝えたい。


「名前ちゃん、愛してる」


今までも、これからも、それだけは変わらない想いを。



END.

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リクエストのあった続編を書いてみましたが、本当にオマケ程度にしか続きが無いっていう最低な落ちです。
蔵視点で回想を交えながらもう少し日常を入れたかったのに何で……!(´`)
申し訳ありません、もし受け付けられないと思いましたらもう一度頑張ってみますので申し付け下さい。一先ずはこれをオマケ続編として宜しくお願いします…!(><)

(20100513)


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