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 15. 君と広がった (1/2)



そんな事ない、そんな筈が無い、そんな訳が無い。ただ否定的やった俺は名前が肯定した言葉に愕然として声が出えへん以上に酸素を求めることすら忘れてたと思う。
そんなん考える冷静さも欠けてた、のが正しいけど。せやけど子供って?俺等まだ、高校生やろ…?何の話しや…?


『アタシはね、中学生の時はもっと活発で、寧ろ無神経に何でも口にする様な子だったんだよ』

「……………」

『付き合ってる人も居たし、子供なりに一生懸命恋愛してた』

『…その人の、子供、っちゅうこと?』

『うん』


正直、名前が喋ってるのも白石が自己解析してるのも理解出来ひんくて、ついていけへん。


『時間が経てば必然と分かるよね、妊娠してる事くらい。アタシは嬉しかった。嬉しかったけど、でも怖かった』

『うん……』

『生みたいって思っても彼氏は堕ろせの一点張りだし親だって堕ろすお金なら出すからって…』


次第に涙を溜めていく名前はソレを堪える様に拳をぎゅっと握って、桜の根が張る地面を睨むみたく見つめながら続けた。

それでも自分は生んで育てたかったこと。せやけど誰の賛同も無い中1人で育てられる自信が無かったこと。
もう成人して、仕事してて貯金も十分にあるなら話しは違う。当時自分はまだ中学生やったから。義務教育も終えてない、仕事なんかした事もない、働き口もない、自分がまだ親に世話をして貰ってるその環境のまま子供を生んだとしても…自分は頑張れたとして、子供が可哀想やって。


『…探せばきっと、同じ境遇で頑張ってる人だって居ると思う。だけどアタシには無理だった、そんな根性、無かった。子供がアタシに笑ってくれるなんて思えなかった』

『そ、か』

『だから結局堕ろして、それで親も安心してくれたけど、』

『けど?』

『彼氏はもう付き合えないって』
『、』

『自分の子供殺す様な女と付き合える訳無いだろって』


その瞬間、大きな粒が地面へ落ちて土の色を変えた。


『彼氏の言う事が間違ってないから何も言えなくて、次の日同じクラスの友達からも最低だとか信じられないとか言われて、仕舞いには彼氏は自分に何も相談なんかしないまま勝手に堕ろしたんだって皆に…』


それをキッカケにボロボロ溢れて来る涙は太陽に照らされてキラキラ光りを跳ね返す。今、もし雨が降ってたなら酷く光る涙も隠したんやろうか。


『アタシ悔しかった、自分に力が無かったことも中学生だったってことも…!アタシが大人だったらあの子は死ななくて良かったかもしれない、アタシが全部、悪かったんだよ、だからもう恋愛なんかしないって―――』

「、……………」


何も言えへんまま名前の眼から零れる涙を追ってると隣にあった影は無くなって、白石は名前の顔を隠す様に腕の中へと収めて。


『…もう、良えから』

『良くない、アタシには恋愛する資格も無いし友達だって、』

『名前ちゃんは、周りに流されるだけやなかったやろ?』

『え、』

『ちゃんと自分で考えて、自分なりに子供を守ったんや』


俺は駄目なんやって思った。
ああ、白石との差はこれなんやなって。

別に名前の事を軽蔑した訳やなくて引いた訳やない。当然ビックリはしたし、同じ歳の女の子がこんなにも苦しんでたとか驚きの連続やった。俺が中学生ん時なんか今とそんな変わらへんけど顔を合わせれば誰もが友達、そういう感覚でヘラヘラ笑ってたから。
名前だけが哀しい思いをして自分を責めてた事がどれだけ艱苦やったか想像も出来ひん。俺には事が大き過ぎて、ひとつひとつ整理していくのがいっぱいやったんや。


『偉かったな?』


白石には何を言われても受け入れられる覚悟があった。俺やって持ち合わせてた筈やったけど、足りひんかったんかな。ううん、そうやない。

多分、名前を理解してやるのも好きになるのも、白石より遅かったから。それだけや。


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