今日君と冬を迎える | ナノ


 


 08.



財前に引っ付いた##NAME1##、##NAME1##に引っ付かれてる財前。対照的な顔で対照的な態度やけど2人から感じ取れるのは嬉々とした気持ち。まず1に楽しいが来て、次に嬉しいが来て、最後に好き、みたいな。どっかで聞いた事ある様な三つ言葉やけどソレを思わずには居られへん雰囲気っちゅうか、独特の世界がある。

部室で熱冷ましてる場合ちゃうかったって、漸く気付いた。


今日君と冬を迎える
season.8 所詮は驟雨片雲


『光から離れてあげない』


その一言で俺ん中の何かが弾けた。黒い俺は「財前を伸してまえ」言うとるし白い俺は「##NAME1##の気持ちも考えたら多目に見たらなあかん」言うて葛藤してたけど甘い事言うてたら後悔するんは自分や。このままのうのうとしてたら、いつ財前に持ってかれるかも分からへん。

たまには男気あるところ見せたんねん、意を決して拳を作った。


「財前!」

『何すかそんな暑苦しい顔して』

「やかまし……、まぁええわ。今から俺と試合すんで!」

『丁重にお断りします』

「あほっ!断んなや!」

『面倒臭いし謙也先輩弱いし』


また急に何を言い出したんか、財前だけやなく白石や##NAME1##本人にまで眼を真ん丸くさせられて引け目を感じたけど尚更後には引けへん。俄然ヤル気が無い財前を乗せる為に口唇を噛んで大きく酸素を吸うたら矢の催促が如くもう1つ伝えた。


「お、俺がもし財前に負けたら、」

「……負けたら?」

『##NAME1##と、わ、わわ、別れる!!』


半分しか開いてへんかった財前の眼が途端見張って俺を映す。背中に居った##NAME1##も眉を寄せながらズルズルと財前の背中から滑り落ちていった。


「フーン。大きく出ましたやん」

『……………』

「そこまで言うならやりますわ」


自分に優位な分がある、そんな風に笑う財前はラケットを持つと上機嫌に鼻歌を交えて部室を出て行く。
残された俺もバッグからラケットを取り出すけど隣から『謙也大丈夫なん?』っちゅう憂愁を見せる白石の声。勝手な事言うとらんと朝練始めるでって言わへん辺り俺の本気を察してくれたんや。同時に俺が負ける前提で心配されてんのが癪やけねんけど。

せやけど俺やって今まで遊んでただけちゃうねん。やる時はやる、それをモットーに生きて来たんやからテニスやって昔に比べれば成長してきた。絶対負けられへん。


「ほな財前、行くで」

『いつでもええすわー』


ポンポン、2回ボールをバウンドさせたら試合開始の合図で。視界の左端に映る##NAME1##に祈りを込めてラケットを振り下ろした。

結局試合が始まっても眉を寄せたまま何も言わへんかった##NAME1##やけど何を、思ったんやろ。心の狭い嫉妬に呆れたんか、財前を応援してるとか…浮かぶのはマイナスな事ばっかりやったけど##NAME1##は俺を選んでくれたんや。それがもう過去やとしても一度は俺を選んでくれた、せやから信じるしかないって。


「……………」

『謙也先輩ー、早よして下さいよってー』


せやけど試合は散々やった。
1ゲーム制、タイブレイク有りで始めたけど俺が全力でやってんのに財前は必死な顔なんか見せへんくて。俺がポイントを取ると取り返す、そしてまた俺がポイントを取ると取り返す、敢えてソレを狙って遊んでる様に見えた。

何でやねん。めっちゃ腹立つ。俺とアイツで何でこうも差があんねん。財前が天才やって言われる理由を改めて理解した気がした。


『謙也先輩て直ぐ熱くなるから頭が付いていかへんねん』


後1点、俺がポイントを取れば勝てる。そう思うとボールを放すのも躊躇うくらい緊張して、暫く左手に持ったボールを眺めてたのに痺れを切らした財前が放った言葉にまた血が登った。

うっさいねん阿呆か!
自分の言うた事がどれだけ重かったか今更自覚してんのにそんな時に冷静になれるかっちゅうんじゃ!財前がぬけぬけと平然にしてられる方が可笑しいねん、お前と違てデリケートやねん俺は!


『デリケートやなくてヘタレやーて何回言うたら分かるんです?』

「あ、阿呆!繊細且つナイーブな心に入ってくんなや!」

『は?茄子紺な顔?』

「無理矢理過ぎやわ!」


財前の天才はテニスだけやない。口の悪さも害悪も天下一品や…お陰で俺の心も身体もズタボロやっちゅうねん。
恨めしい思いを消す様に深呼吸をしたら最後の一球になりますよにって打ち込んだ。


『     』


俺が打ったボールを難なく返した財前はラインを大きく超えるドロップショットを打った。

“しゃーないっすわ”

ラケットを構えた瞬間のあの声、確かに俺の耳には聞こえて、財前がわざと負けたのが、ほんまにムカついた。


「財前!なんやねん最後の!」

『何もクソも無いけど』

「あかん!あんなん無しや!もう1回やり直しや!」


コートから出て行こうとする財前の腕を引っ張って、せやけど自分の非力無さと甲斐性の無さに惨めになった。
ムカつく、めっちゃムカつく。財前も、俺も、ほんま腹立つ。遣り切れへん感情の捌け口を探すのに見つからへんくてジャージの裾を目一杯握り締めたのに、


『っていうかさー、謙也と光って何で試合してるの?』


今まで傍観者としてた##NAME1##が漸く口を開いたと思うとこの発言。
う、ん…?俺は自分のけじめと##NAME1##の為に財前と試合してたんやけど?っちゅうか##NAME1##もずっと傍に居ったんやからそれくらい分かるん、ちゃうん…?


『謙也おめでとーって言いたいとこだけど良く分かんなくて』

「わ、分からんて、一部始終見てたやろ…?」

『うーん。だってさ、決めるのアタシじゃん』

「え?」

『誰に何言われたとしても、アタシは謙也と別れないし光からも離れないもんね、分かるー?』

「…………………」


一気に熱が引いて羞恥という別の熱が込み上げた。

せやから真面目に試合する意味無いねん、そう物語ってる財前の眼は冷ややかで、堪え切らず吹き出した白石は口元と腹を押さえてて。なんか、めっちゃ……空回りやんけ。


『アタシ謙也も光も好きなんだって!』


ね?
狙ってるみたく首を傾けて笑顔を見せる##NAME1##に、もうこれで良えわって思う俺は騙されてるんかなって思った。


3人で迎えた冬、去年より暖かい気がする。

(##NAME1##、俺ん事好きなんやろ?)(うん!光好き!)(ほなハッピーエンドっちゅう事で)(は、ちょう待って!ちゃうやろ!相手は俺やろ!)(耳元で大声出すん止めて貰えます?)(そんなんええねん!どうなん##NAME1##、お、俺やんな…?)(……もうどっちでも良くない?)(あ、あかん、財前に似て来た…!)



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完結です。
結局変わらない三角形ということで!本当はまだ完結の予定じゃなかったんですが企画が終わって久しぶりにさぁ書こうと思うとパッと浮かんだのがコレでした。
新しいお話しが書きたい事もあってズルズルと続けるより勢いとノリだけで浮かんだネタを書こうと若干無理矢理終わらせてしまいましたが、ここまでお付き合いして頂きありがとうございました!

少しでも暇潰しとして笑って頂けていれば幸いです^^;

(20100416)


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