honest love | ナノ


 


 r/09.



止まらない時間、止まらない感情、
僕が望む光彩熱


honest love
reverse series.9 正三角形


『蔵、』

「うん?」

『光って、あの子の事、本当に好きなのかな…』


遊園地に向かう途中、自分の足元を見つめて呟く様にか細い声を出した名前ちゃんに、小さい風が引いてオレンジ掛かった栗色の髪を揺らした。


「さあ…どうやろなぁ」

『………………』

「…それは嫉妬なん?」

『ち、違、光がちゃんとあの子を好きで付き合ってるならおめでとうとか、頑張ってとか、言いたいし…』

「……………」

『……ごめん、蔵に言うのもこんな感情も可笑しいけど、嫉妬かもしれない…』


パッと顔を上げて俺と眼が合うたら直ぐにまた俯いて。確かに偉容に伝える言葉とはちゃうけど、曖昧でも正直に話してくれたら慰問したくなる。それが逆に甘いって言われるとこかもしれへんけど、頭を撫でてあげたくなるんやからしゃーないやんか。こんな事で我慢したって利も何も生まれへんし。


『、くら?』

「何となく、分かるで」

『え?』

「名前ちゃんが財前ん事特別に想ってるんは痛いくらい分かってるから」

『……………』

「言うて、俺やって財前に同じくらい妬いてんねんけどな」


今日も今までもずっと、付け足してから撫でる手を軽く力入れてポンと叩くと『知ってるけどね』なんて得意気な返事。昔やったらそれだけで真っ赤になって慌てふためいてたのに慣れっちゅうのは怖いもんや。いつの間にこんな逞しくなったんやって。そら露骨な愛を囁いたら別やけど、それだけの時間を俺と2人で、財前と3人で過ごして来たっちゅう証拠。

せやから俺やって…。
財前の進む一歩を応援したい反面、これが良いって思いながら肩を掴んでしまいたくなる。名前ちゃんやないけど、財前の気持ちはあの子に向いてないのが眼に見えるから。


『ね、蔵、蔵、』

「うん?」

『ホラーハウスって得意…?』

「うーん、得意っちゅう事もないけど平気やで?」

『えー…』


此処に着いて2時間は経った。ホラーハウスの前で列を作って、もう気にしてません、そんな顔を向ける名前ちゃんやけど何回後ろを振り返ったと思う?
心ここにあらずな財前と心配で不安で堪らへん名前ちゃん、2人を見てるこっちんが痛くなる。

昨日何でも無い顔して彼女が出来たって言うたけど俺はマグカップが割れた時、一瞬だけ財前が泣きそうな表情を見せたのも見逃さへんかった。どうでも良いって振る舞ってたつもりでもケーキを食べてた時の柔らかい空気も、ポケットが不自然に膨らんで中に何かを隠してた事も全部、知ってんねん。
それでも財前はそっちの道を歩きたいんか?


『あのねアタシ、ホラーハウスって駄目なの、多分』

「多分?」

『最近入った事ないから分かんないけど…』

「イメージ的には全く無理ーっちゅう感じやけど」

『……と、とにかく、中に入ったら手離さないでね…?』


ぎゅうっと音が聞こえてしまいそうなくらい絡められた指に、可愛いのは変わらず健在で頬が緩んで愛しくなる。
せやけど、


「クックッ」

『い、今から笑わないでよ…!』

「ごめんごめん」


“うん”とは言わず笑って流したのは敢えて、やった。


「名前ちゃん、財前等も先に行ったし心の準備はええ?」

『う、うん…』

「ほな行こか」

『うん…』


白くてカラフルな世界を遮断する真っ黒なカーテンを潜ると暗闇が広がって視界を奪われた様な気分やった。怖い、訳やないけどこんな真っ暗で出口まで行けるんやろか。それが心配になると、


『きゃあぁああ!!』


可愛い声が鼓膜を存分に揺さ振る雄叫びに変わって、吹き出してしまいそうんなった。これやから女の子って自分と別の生き物に感じるっちゅうか、愛くるしくなんねんなぁって。
ものの1分程度しか無かったけど、新しい一面を堪能したらソレを合図に俺は絡めた手を離した。


『、やだ、蔵、何処に居るの…?』

「………………」


『いや、きゃあぁぁあっ!!』


意地悪かもしれへんけど声に出さへんように口元へ手を当てて肩を揺らすと、名前ちゃんがバタバタと走って行く足音が届いた。
怖い思いさせて堪忍な、でもこれが最後のチャンスやねんで。彼女の残り香が消えそうになった時、頑張れを声にした。


『、あれ、白石さんだけ、なんですか?』


男1人、寂しくホラーハウスを堪能して出口まで辿り着くとそこには財前の彼女だけ。
それを見ると、手を離して正解やったんか、せやけど間違いやったんか、複雑やけど良かったって思った。


「んー…ちょう付いて来てくれへんかな」

『え、せやけどまだ中に、』

「ええから」


ホラーハウスの前は人集りになってるけど見晴らしは悪くない。そうなれば2人の通る道は一目瞭然で。


『何処に行くんですか?』

「しっ。黙ってて」


ホラーハウスの影になる位置のギリギリで立ち止まって口に人差し指を当てると案の定聞き覚えのある声が聞こえた。

(容疑者とか呼ばれるんもダルいけどまぁええか)

(よ、容疑者?)

(“遊園地に来ていた女性を誘拐”)

(ゆうか……そ、それって、)

(愛やろ?)


『……………』

「そういう事、やな」


財前らしい声を聞いたのはたった1日ぶりやのに物凄く懐かしさがある気がした。らしい、言うてもあんな嬉々な声やと逆にらしくないかもしれへんけど。


「ごめんな?」

『…良いんですか?』

「え?」

『無理矢理、光君に付き合って貰って光君がうちの事を見られへんのは分かってました。せやけど白石さんはそれで良えんです…?奥さんが他の男と一緒とか、うちやったら絶対嫌やし信じられへん…光君やなくて白石さんが謝る意味も理解出来ひん』


彼女の言う事は最もや。普通なら、誰もが抱く感情に違いない。


「多分、俺等は普通ちゃうから」

『、』

「俺の隣に名前ちゃんが居って、名前ちゃんの隣には財前が居る。財前の隣にはまた俺が居るんや。ずっとそうやって生きてきたから」

『……変、ですよ』

「せやなぁ…俺もめっちゃ嫉妬して今やって腹立ってんねんけど」

『せやったら何で、』

「楽しいねん」


3人で過ごす時間も、悪くないんや。

俺が仕事で家を空けて、疲れて帰って来たら財前が居る。ほんま「はぁ?」ってカチンて来るけどそれが普通になってる。それが、俺の帰る場所になってた。
財前が厭な男やって1番に思ってたのは自分やのに、自分が1番財前に甘えて生きて来た事もほんまは自覚あったんや。


『ハァ…』

「、ソレどないするん?」

『光君と対にしたくて買うたピアスやねんけどムカつくんで捨てて帰ります』

「……ありがとう」

『それも意味分からへん』

「ええよ、分からんで」


耳から外したピアスを空に向けて投げ付けた彼女は『やってられへんわ』愚痴を溢して背中を見せた。それを見送ってから、俺も家に帰ろうと思うと、

(ちょっと誘拐されて来ます)

可笑しい日本語でメールが届いたから、2時間後には救出に向かいますと返信を打った。
明日からはまた、苛立ちと嫉妬と、それから楽しい時間が待ってるらしい。


「俺も馬鹿、なんやろなぁ」



END.

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昨日アップした最終話、不完全燃焼でモヤモヤしてたら結局プラス1話書いてしまいました。
蔵視点のオマケ裏話的な感じで、微笑ましいを念頭に書いてみましたが少しでも伝わりましたでしょうか…!
さらなる続編はさておき、今回は今度こそこれで完結します。

最後まで長ったらしく纏まらない文章でしたが本当にお付き合いありがとうございました!

(20100418)


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