honest love | ナノ


 


 08.



反応してしまう耳も身体も全部、
無くなれば良いのに


honest love
series.8 過度、反応


ほな行こか、部長の声で片付けられた部屋を後にすればそれからは暫く誰も声を出さへんかった。車の走る音、擦れ違い様の他人の会話、微々たるもんやのに自分の歩く足音さえ鮮明に聞こえて。いつもでは絶対にあり得へんこの異様な空気が不快指数を高めた。


『あ、光君!』

「ん」

『後ろの人が名前さんと、白石さん…?』

『――、初めまして、宜しくな?』

『こ、こんにちは…』

『こんにちは、初めまして。里菜です』


待ち合わせ場所へ行くと携帯を見ながらも直ぐにこっちに気付いたらしいあの女が居った。
本人はともかく部長はあの人の面影を辿ってることに気付いたみたいで眉を下げたまま笑ってた。そこまでまんまソックリっちゅう訳でもないけど…やっぱり似てんねん。そして本人であるあの人は、地面とあの女とを交互に見て哀感を募らせてる様な、そんな顔やった。


「………………」

『光君?行こ?』

「、」

『遊園地で良かったやんな?』

「……ん」


腕を引っ張られるまで気付かへんかった。隣で何を喋ってたかも分からへん。俺の神経は、あの人に向いてる。


『なぁ光君、』

「ん」

『白石さんてめっちゃ男前やんか』

「タイプなん?」

『どっちか言われたら格好良いけど、うちは光君のが格好良いと思うし…』

「………………」


普通はここで喜ぶとこなんやろうか。自分を褒めて貰って愛されて、幸せに思うとこなんやろう。
せやけどあかん。普通に「で?」って言うてしまいそうやった。部長の顔立ちが良いのは昔から知ってるし、俺が良いって言われても…。


『せやけどな、名前さんて…案外普通やったんや』

「、普通?」

『うん。光君が今も忘れられへんて言うくらいやしとびきり美人かとびきり可愛いか、めっちゃお嬢様で品があるとか!何か凄い人想像してたから』


は?この阿呆何言うてんねん。
素直な気持ちがそれ。

とびきり美人もとびきり可愛いも全部、そこら中探したらなんぼでも居るやろ。皆が皆やなくても単に顔が良いだけの女なら幾らでも居る。けど、そうやない。そんなくだらん理由であの人を好きになった訳ちゃう。そんな事で旦那持ちの女なんか、好きに、ならへん。


『光君…?』

「煙草吸いたい」

『え、煙草吸う人やった?』

「たまにな」

『どっかで休憩する?』

「ええわ我慢するし」

『そっか、ちょっと見てみたいなぁ光君の喫煙姿』

「……ぶっ」

『へ、何で笑うん!?』

「あー何でも無い」


苛々する、とまでは言わんでもずっと感じた不快指数はどんどん上がってって。遊園地行くどころやなくて途中で投げてしまいそうやんな、そう思ってると前から聞こえて来たあの人の声に吹いた。

(アタシ遊園地って高校生以来なんだけどね、前にバンジーやったら飛んだ瞬間、頭に鳥の糞が落ち来て最悪だったんだよ)

流石に無いやろ。そんな貴重な体験出来るんあの人くらいやって。


「………………」


面白可笑しくそうは思っても、無意識に反応する身体もあの女にも、溜息しか出て来おへんかった。
何で上手くいかへんねん。



(20100312)


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