honey | ナノ


 


 01.



何年経ったって
今も昔も愛は変わらない


honey
pulsate.1 拾っちゃいました。


『財前君、今日はもう上がって良いよ』

「お疲れす」

『はいお疲れ様、次も宜しくね』


高校を卒業して半年。
第一志望やった情報コンピューター専門学校に推薦入学、学校に通いながら週4日のコンビニでのバイトを終えて家路向かう。

明日は土曜日で学校は休みやしバイトも休み、1日フリーやけど課題が結構あった気がするーとか、面倒な事を浮かべながらポケットから煙草を取り出して火を点けた。もし今部長に会うたりなんかしたら『未成年のくせにあかん!』そんな説教が始まるんやろう。
うわ、それは勘弁。溜息と一緒に肺に入った白い煙を吐き出すと、変な物体が眼に入って思わずむせてしまいそうになる。


「………………」


声を出すのも気後れしてしまいそうな景色とは、俺のアパートの前にあるゴミ置場の横ででかい段ボールに入った人間。
しかもそれが丸々1週間ぶりに会う自分の彼女とは信じたくなかった。


「…何やってんねん」

『、ひかるっ!』

「阿呆なんは知っとるけど本気で頭ぶつけたん?」

『違うもん…』

「ほな何や」

『拾って下さい』

「………………」


阿呆、馬鹿、変人、異人、すっとんきょう、全てがハマるこの女に何を言うたらええか迷うけど、言葉に出す前に顰みを直すが如く深く深く煙草を吸った。

スーッと舌の上を這って入ってくる煙は苦味さえ美味くて幾分脳内をスッキリさせる。眉間にあったシワが取れて冷静になってから再度視線を向けると、段ボールの中で体育座りで俯いた姿が映った。


「ほんま何やねん」

『…………』

「うんとかすんとか言えって」

『すん』

「………帰ろ」

『うう嘘嘘!ごめんてば光!光に見捨てられたらアタシ生きていけない……』


途端、顔を上げたと思えば化粧された眼には涙が溜まってて。


「ハァ…拾ったるから早よ出てき」


呆れ返ってた筈やのに手を伸ばしてしまう俺も大概この人に甘過ぎ。せやけど俺を求めるこの手を邪険に出来る訳ないし、行動はどうあれ俺を待っとったと思えば愛しくて仕方ない。

俺の手をぎゅっと握って段ボールから出てくると腕にしがみついてきて、1週間ぶりの体温を感じた。7日間もよう耐えたなーって染々思う。


「今日泊まるん?」


専門学校に入ってから親に我儘言うて独り暮らしを始めたのは当然この人の為。既に社会人である彼女が自由に出入り出来る様に用意した言うても過言やなかった。


『今日、っていうか、もう此処で一緒に暮らしたい』

「は?」

『仕事辞めた』

「、は?」

『っていうか、クビに、なった…』


部屋に入るなり黒いレザーソファーの上でまた体育座りしたかと思たらどんだけ突発的発言やねん。
今日は会う約束もしてへんかったのに、合鍵で入らんと外で待ってたんはこういう事かって漸く線が繋がった気がした。


『アタシ失業だよ、ニートだよ…』

「まぁ、せやな」

『どうしよ光…』

「慰めて欲しん?」

『……うん』

「りょーかい」


失業の重みと傷みはそれなりに分かるけど、今は下手な言葉を掛けるよりこの人の身体から癒そうとベッドに転がった。


“ゆき、おいで”

(明日俺がフリーやったんは神様のお告げかもしれへん)(笑うなあほ)



(20090816)


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