どうしようどうしようどうしよう。
アタシの頭は可笑しいんだ、きっと暑さにやられたんだ。帽子のてっぺんは焦げちゃってるんじゃないかってくらい熱持ってるし、滴る汗は顔も身体も半端ないし、暑さで気が変になったんだ。
じゃないと、アタシがあの白石蔵ノ介にドキドキするとか。
あり得なくない?
『名前先輩』
「ははははい!何ですか財前君!」
気負いして振り返ったアタシを見て、光はいつもより3倍くらい冷たい眼でアタシを映した。
『嫌や嫌や言うても部長が好きなんスねー』
「は、なな何言ってんの…!」
『部長相手にきゃーきゃー叫んでから、顔赤過ぎ』
「嘘…!!」
あ、アタシ、そんなに顔に出してた?
だってあんなにチューチューされたら誰だってドキドキするし意識しちゃうし顔だって赤くもなる。だけど相手が相手なばっかりに素直に認めてたくないのに、況してや周りにバレるとか嫌なのに。
『まーっかっかですわ』
「あ、暑いから逆上せただけ、だし」
『へー?ほなタオル除けてみて下さいや』
「え、」
『そのババ臭いタオルの下、何隠しとるんか教えて下さい』
にやーって、新しい玩具を見付けたみたいに面白そうに笑う光を見れば何を隠してるかなんてバレてるんだろう。
ずっと首に巻き付けたまんまだったから絶対見られてないって思ってたのにいつバレた訳?光って絶対、ぜーったい厭らしい。っていうか変態だ変態。(さすがに蔵以上とは言わないけど)
「……何で分かったの?」
『部長の満足そうな顔とー、先輩が柄にもなくもじもじしとるせい』
「が、柄にもなくって、アタシも一応乙女だからね!」
『うわ初耳スわー』
「ひっどい!!だってお腹とか背中とか擽ったいし恥ずかしいもん…!」
『お腹とか背中?』
「あ」
『ふーん?』
光が気付いたのは首だったのに墓穴掘った。
案の定、にやーって笑った顔は益々拍車掛かって眼が細くなる。この時の光は多分、光ファンの子が見たら感激して卒倒するくらいレアだと思う。だけどアタシにはそんなレア要らない。
『それで?身体攻められたら心も落ちたって?』
「落ちた、っていうか…」
『あーはっきり言うて下さい面倒なんで。名前先輩が照れたとことか要らんし』
「だから何でそんな失礼なの…」
『そんなんええんで早よ』
何が何でも早く認めさせたい様子な光に溜息吐きたくなったけど。
「…意識、しちゃったけど…好きかどうかは…」
『はぁ?』
「落ちたってことになるのかな…?」
曖昧な感情を誰かに聞いて貰って相談したいとも思ったり。
今の今まで変態で妄想男なんか鬱陶しいって思ってたのに、蔵の口唇が身体に触れた瞬間、動悸は凄いし蔵で頭いっぱいになっちゃったんだもん。自分の気持ちなのに、ついていけない。
『俺に聞くことちゃうやろ』
「そうかもしれないけど…」
『ハァ…意識したなら異性やって感じた証拠なんちゃいます?』
「そ、か…」
何で俺が助言なんか、って究極に面倒臭そうな溜息を吐き出されたけど、ちゃんと答えてくれた光にアタシもちょっと納得してみたり。
確かに意識したんなら異性だと思った訳だし。やっぱり好きってことなのかな。だけどそれ、すっごい単純だし、アタシ欲求不満だったみたいに見えて何か嫌だ。
いいや、蔵はアタシのこと好きならしいし、もう1回良く考えよう。なんて思うと、
『とりあえず見せて下さい』
「、は?」
『部長がどんだけ激しかったんか見せて下さいって』
「ちょ、ちょっと、光…?アタシ、別に最後までやった訳じゃない、からね…?」
『分かってますて』
「ひひひかるっ!!分かってんなら服捲らないで…!やだやだ恥ずかしいから!」
『減るもんちゃうしー』
何処のセクハラ親父なんだか痕が付いたアタシの身体に興味深々な光。突っ込みたくなるけどジャージの裾を引っ張るのに必死で、やっぱり変態だった光を退けることが最優先な訳で。
「も、もう止めてってば!」
『あ。』
「ぎゃっ、」
そんな攻防線を続けてるとパッと離された手の反動で思わずよろけちゃう。
何なの一体?転んだらどうしてくれんのって、間抜けな声を出した光に眼を向けると、
『……………』
驚く訳でもなく、怒る訳でもなく、冷笑する訳でもない、素の顔をした蔵が居た。
「あ、あの、蔵、」
『………』
「、ちょっと蔵!?」
『部長が何も言わへんとか、明日嵐なんちゃいます?』
「……………」
ふいっと、顔と身体を後ろ向けて歩いていく蔵を見たら心臓がチクチクした。首に感じたチクチクより、ずっと痛い。
何これ、アタシってシカトされたの?
(やだ、切ないかもしんない)
(20090818)
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