「オサムちゃんて彼女居るの?」
『あんまり宜しく無い質問やなぁ?』
夏休み、炎天下の中で始まった部活にげっそりしながらオサムちゃんが座るベンチに腰を下ろした。
これでもかってくらい日焼け止めを塗りたくって首からタオルを掛けて帽子を被ったアタシは何処ぞの農家のオバチャンみたいで、オサムちゃんと並んでたら尚更農業を営む熟年夫婦に見えるんだろう。
ジリジリと刺激してくる暑さを前にすれば見掛けがどうのなんて言ってらんないし、どうにか暑くて怠い気分を紛らわせるようにオサムちゃんに声を掛けたのに、当人は暑さが増したみたく苦笑した。
「宜しくないっていうのはどっちの意味でー?」
『寂しい1人もんに厭な暑さだけ残すなっちゅう意味』
「そっか、居ないんだ」
これだけ気温が高くて暑いのに彼氏だの彼女だの居たら居たでもっと暑いんだろうけど。
だけど夏だからこそ彼氏が欲しいっていうのもある。勿論冬に比べればイベントは少ないけどさ、花火大会だってあるし海にも行きたいしバーベキューとかしたい。(2人でバーベキューは無いか)
「オサムちゃん、彼氏欲しいね」
『オサムちゃんの場合は彼女やけどな』
「うん、じゃあ彼女欲しいね」
『正論やけど名前には居るやん』
「え」
『いっつもいっつも鬱陶しい愛をくれる彼氏が居るやろー?はー羨ましいなぁ!』
「あれは彼氏とは言わないんですよ」
『ほな何や?』
「ストーカー…否、勘違い男…若しくは妄想男?」
『ハッハッ!全部やな!』
高々に爆笑するオサムちゃんだけどアタシにとっては笑い事じゃない。この世に何で“思い込み”っていう言葉が存在するのか、多分それは白石蔵ノ介の為だけに創られた言葉なんだと思う。
「分かってんならオサムちゃんも何とかしてよー…」
『うん?また俺の話してるん?』
「げ、出た…!」
『おー白石、皆アップは終わったんか?』
『終わったで、俺に掛かればおちゃのこ歳々やな』
『そら助かるわー』
『まぁそんな事はどうでもええねん。それよりや、名前?』
「な、何…」
夏なのに無駄な爽やかさを纏った蔵は無駄なくらいニッコリ笑って、2人掛けベンチに無駄に座って来て、更には無意味にアタシの帽子のツバを持ち上げて覗き込んでくる。
無駄が嫌いな筈なのに何でこうも無駄が多い訳?
『分かるで、』
「え?」
『名前が俺ん事を誰かに話したい気持ちは分かるんや、そらもう痛いほどに』
「あ、あの…」
『やって俺イケメンやし優しいし頭ええし運動出来るし。こんな完璧な男捕まえて自分の彼氏やーて自慢出来るんは幸せな話やねんもんな!』
また始まった。
確かに蔵ノ介という男は容姿も申し分無いし秀才だし運動も出来るけど…出来るけども。
『ハハハッ、名前も鼻が高いなぁ!』
「……………」
アタシは彼女になった記憶も無けりゃなるつもるも毛頭無い。
大概あり得ないけど百歩譲ってナルシストなのは良いとしても(実際整ってる訳だし)この勘違いっぷりったら信じらんない…!
毎度のことながらオサムちゃんは愉快に笑ってるだけだし、光は鬱陶しそうにしながら関わりたくないって逃げるし、謙也は可哀想やって言ってくれるくせに助けてくんないし。
『どないしたんや、そんな浮かん顔して』
「別にー…」
もう何言ったって駄目だって分かってる、だから言う事が無いんだって気付いて下さい。
『あ、分かったで』
「え、本当に?」
『うん。名前の考える事くらいお見通しや』
漸く!やっと気付いてくれたんだね、アタシは今日から世界が変わるんじゃないかって超期待した。
「流石蔵!もう早く気付いてよね」
『せやな。悪かった…せやけど大丈夫や』
「……大丈、夫?」
『うん。名前はとびきり美人って訳ちゃうから、俺みたいなええ男捕まえて気が引けるかもしれへんけどな、俺は名前が可愛いと思てるから』
「は?」
『良くも悪くもない普通ランクやけど俺からすれば十分可愛い子やから心配要らへんで!』
「………んな、」
『うん?』
「ふざけんな!この馬鹿男っっ!!」
何て浅はかだったのアタシ…。
華麗に右ストレートが決まったっと思うと避けれた上に『堪忍、愛に痛みは付き物やけど反射神経のが勝ってしもたわ』なんて言われたからムカつくのが割増して部活登校拒否したいと切実に願った。
オサムちゃん、どうかアタシを退部させて下さい。
(っていうかアタシの事好きなくせに扱い酷くない?)
(20090725)
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