恋は盲目
そうは言ってみても別世界だって気になるじゃない?
女の子って都合良く出来た生き物だから
platonic love
charm.1-1 家出した彼女
「謙ちゃん謙ちゃん謙也ー!」
『なんやー?』
「アタシお腹痛くなる予定だから部活行かない」
『は?』
「ってことで蔵の事、宜しくね!」
『ちょ、ちょお待て、まさかお前また…』
勢い良く教室を出ると後ろから『アカンて!帰って来て名前ー!!』なんて謙也の叫び声。
うーん、今日は部活する気分じゃないんだよね、ごめん謙ちゃん!
校門を出て直ぐにあるバス停には丁度良くバスが停まってて、それに乗れば目的地まで一直線。
ユラユラ揺られながら携帯を開いて“お腹痛いけど愛してる!”って、大好きでならない蔵にメールを送った。そこで携帯の電源はオフ。
確実に近付いていく目的地にドキドキワクワクして窓の外を見ていた。
「あ。」
途端、眼に入ってきたモノに嬉しくなって、タイミング良く停車したバスを早足で降りる。
軽く走って、さっき眼にした場所まで戻ればアタシは大きく大きく手を振った。
「あっ、かっ、やー!!!」
『、名前ちゃん!?』
「うん!名前ちゃんでーす!!」
くるんくるん頭を風になびかせながら駆け寄って来る赤也に飛び付くと、赤也もぎゅうっと抱き締めてくれて超幸せ。
『来るなら来るって言ってくれれば良かったのに』
「ビックリさせたかったのー!」
『本っ当、相変わらず可愛いっスね』
「やだ当たり前じゃん!」
『さすが名前ちゃん!謙遜しないとこがらしいスよ』
「でしょう?」
アタシが笑えば歯を見せてニコニコしてくれる赤也は可愛くて好き。
目的地だった立海も赤也が目当てだったと言っても過言じゃない。
『今日“旦那”は?』
「うーん?部活してるんじゃない?」
『あーあ、また怒られるんじゃないスか?』
「どうでしょう?」
旦那というのは勿論蔵の事で、アタシがこうして四天から家出して旅に出ると決まって鬼の様な電話が掛かってくる。
それが毎度お馴染みになった今では皆も蔵の事を“旦那”だとか“ママ母”だとか好き放題。
「それよりさ、赤也何してたの?」
『あー、買い出し行って来いって幸村部長に言われて』
「ゆっきー元気!?絶対元気だよね!」
『まあ、相変わらずっすね』
「だよねー!!」
病弱だなんて嘘でしょ、と言わんばかりに黒々した精市を思い出すと面白くって、更にこき使われる赤也がもっと面白くって、それだけで大爆笑。
『んな笑いごとじゃないっスよ!!』
「だってウケるもん!」
『なーにがウケるんじゃ?』
「!」
終始赤也にベッタリなアタシの肩に手が置かれて、振り向けば銀髪。
『こんなとこで何しとんじゃ』
「仁王ちゃんっ!!」
『やっと俺の女になる気になったんか?』
「うーん、どうしよっかなぁ」
途端赤也から離れて仁王ちゃんに身体を向けると大きな手で頭を撫でてくれる。
目的の立海、第2の理由が仁王ちゃん。
『仁王先輩!名前ちゃんは俺に会いに来たんスから!』
『そんなまさか、なぁ?』
「えー!選べないっ!2人共大好きだもん!」
『“赤也がいい”って言って下さいよー!』
「仁王ちゃんも好きだもん」
『そう言っとることやし、赤也はコレ。幸村から追加じゃ』
『げ!!ミネラルウォーター5本とか鬼…!』
「流石は精市!情けがないよね」
さぁさぁ、盛り上がって来たところで立海に行きましょうか!そんな気分のアタシに『スミマセン』と丁寧な声。
「あ、柳生!いつから居たの!?久しぶりだね、元気ー?」
『初めから居ましたよ。名前さんほどじゃありませんが至って元気です』
「紳士だもんね」
『紳士は関係ないと思いますけどどうぞ』
「え?」
『呼んでますよ』
当たり前の様に差し出されたのはアタシのじゃなく柳生の携帯。
首を傾げながら画面を見ると“白石蔵ノ介”の文字が表示されてて一気に背筋が凍り付く。
「や、やだ、出たくない」
『なら、そう伝えましょうか?』
「それも困る!」
『だったら早く出てあげて下さい』
果てしなく鳴り続ける携帯に顔を歪ませてもコールが止まる気配は微塵にもない。
アタシが携帯の電源を切ってる今、取り次いでくれるのはジェントルマンな柳生しか居ないと踏んでのことなんだろう。何で立海に行った事までバレたのかは分からないけど、そんな事より、きっと般若な形相をしてる筈の相手と話したいなんて思う訳がない。
息を呑んで渋々通話ボタンを押して、どうか愛しのダーリンが怒ってませんようにと祈るだけだった。
「も、もしもし?」
《名前ちゃん。今何処に居るんや?》
声はいつも通り優しい。でもね、蔵がアタシをちゃん付けする時ほど怖いものはない。9割の確率で怒ってる時ばっかだから。
「えーと、歩道?」
《今すぐ帰って来なさい》
「まだブン太にも会ってないし真田とか精市にだって、」
《ええから帰って来なさい》
「や、やだ!無理!」
《…何回言うたら分かるん?》
怖い。普通に怖い。
もしかしたら怒ってる蔵は精市以上に怖いかもしれない。
「分かった、帰る!帰る、から…」
《ん、ええ子やな?》
「帰るけど!迎えに来てくれなきゃ帰らないから!じゃあバイバイ!」
言いたい事だけ言って切ると赤也の顔が青ざめてて、仁王ちゃんは『何も知りません』って顔してて、柳生は眼鏡が光ってた。
うん。きっとね、皆を巻き込んでお説教に違いないんだ。
----------------------------
連載というよりシリーズ的な感じです。
(200905)
←