01.
人って恋する為に生まれて
恋愛する為に生きてるの
aty
vol.1 first step
4月、新学年になったと同時にアタシの転校が決まって田舎の学校から大阪の学校に通うことになった。
だけど去年も一昨年も出席日数ギリギリしか行ってなかったアタシとしては何処の学校だろうが関係無くて、高校最後の1年間も適当に学校行って卒業さえ出来ればそれで良いかなって、転校初日の今日もベッドの中に潜り込んでおやすみモードだったのに。
『こらこら、起きる時間やで名前ちゃーん?』
「!?」
『いつまで寝る気や?女の子が5分で支度とかそういう冗談は要らへんからな?』
枕に顔を埋めた瞬間聞こえて来た声に背筋が凍って、聞き慣れたとは言えど此処に居る筈が無い人物に厭な汗が一筋。
「く、蔵…何で此処に居る、の…」
『何でて、此処は大阪やで?』
「そうかもしんないけど何でアタシの部屋に居る訳!?あり得ないじゃん!」
『登校拒否な誰かさん迎えに来たったんや、今日から同級生やねんからなぁ?』
「ううう嘘!?」
『四天宝寺高校、俺の通ってる学校やで』
「っ!」
そんなの聞いてない。
従兄弟の蔵ノ介が居る学校だって知ってたら四天宝寺に転校なんてしなかったのに…パパとママ嵌めたなあの野郎!
『聞いたで?全然学校行ってへんのやって?俺には電話でちゃんと通ってる言うてたくせに、叔母さんと叔父さん困らせたらあかんやろ』
「く、蔵には関係無いもん!」
『大有りや。叔母さんが今日から宜しく言うてんねんから』
「ママの裏切り者…!」
蔵と言えば親戚中シスコンで有名で、そこで留まってくれればいいものの何でかアタシにまで過保護で口煩くてママより母親みたいで。
転校前も2日に1回は電話が掛かってきて『学校行ったん?』『変な男と遊んでへん?』とかそればっかり。着信拒否した日なんかは鬼の様な数のメールと家電で説教されて堪ったもんじゃない。
唯一家が遠いのが救いだったのに今日から同じ学校だなんて無事に生きていける気がしないったら。
『裏切りはどっちや。名前が叔母さん裏切ってんねんで?ちゃんと学校卒業して大学なり就職なり自立して欲しいって思てんの分からへんの?義務教育が終わった言うたって高校入った以上学校通うんは常識や!』
「あーもう!お説教はいいから!」
『ほなウダウダしとらんと学校行くで』
「いーやーだ!アタシ忙しいから蔵1人で行ってテニス部の何とか君とBLしてればいいじゃん!」
『ハァ、人ん事勝手に男色にするん止めてって何遍言うたら分かるんや…ええから行くで!』
「やだやだやだ!アタシは今から寝てお昼に起きて同人誌読んで人様のサイトでBL小説と夢小説読むんだもん!」
アタシは根っからのヲタクで、学校で将来役にも立たない勉強する暇があれば萌補給していたいそんな女の子なのだ。
だから蔵がわざわざ迎えに来てくれた事も良い迷惑で布団を頭まで被るのに、勢い良く引き剥がされた布団から見えたのは最高級にニッコリ笑顔な蔵ノ介。
そ、その顔は非常に怖いんですけど…?
『名前ちゃん?』
「は、はい、」
『ええ加減にせんとホンマに怒るで?』
「ごご、ごめんなさ…!」
『ほな行くやんな学校?』
「い、行きます!蔵と一緒ならアタシ頑張る!」
『うん、ええ子やな』
ああ…蔵に勝てる能力が欲しい…
初っぱなからこんな調子だと本当に毎日学校行かされそうで困る。大体何でアタシが蔵に宥められてんの?もう全てが可笑しい。
『ほら、一緒に準備したるから』
「じゃあ髪の毛アイロン当ててくれる?」
『ええよ、温めてる間、外出とくからその間に制服着替え?』
「うん」
『言うとくけど寝たらあかんで!2分経ったら入るからな!』
「わ、分かったから!」
流石は抜かり無い男、瞬時に巡ったアタシの思考回路が通々じゃんか。この際部屋に鍵があれば蔵も入ってこれないのに…いや、蔵なら窓から入ってくるかドア打ち壊すかヘアピンで鍵開けそう。……やっぱり大人しくしとくのが一番なのかな…つらい。
ハァ、溜息混じりで学校へ向かうアタシなんか知りませんって顔で手を引っ張られて、意気揚々としてる蔵を見れば逃げ場は無いんだ、とか。益々溜息が色濃くなりそうって思った時、後ろから声が聞こえた。
『部長ー朝からイチャイチャして彼女ですー?』
その声に振り返るとアタシの呼吸器官は停止した気がした。
『お、財前おはよう。残念ながら彼女ちゃうねんけどなぁ』
『は、ちゃうんです?』
「……………」
『昨日話したやろ?従姉妹の名前や、仲良うしたって』
『はぁ、宜しく』
「……………」
『名前?挨拶くらいせなあかんで』
「……………」
『何や固まってますけど』
『ああ、多分緊張してんねん堪忍な財前』
『俺はええスけど』
「………き、」
『え?』
「好き……!超好き!!」
『は?』
『名前!?な、何言うてんねん!』
格好良い、格好良い、格好良い、
頭はそればっかり浮かんで三次元も捨てたもんじゃないって学校に行くのが楽しみになった朝。
(20090527)
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