俺とアイツ | ナノ


 


 01.



「…お前何やってんの?」


放課後の部活中、フェンス越しに居た女に声を掛けるなんて俺も結構な物好きだと思う。
だけど何人も居る応援席の女の中でコイツを選んだのは理由があった。


『ひっ……!む、向日先輩…!』

「嫌な反応すんのな」


まずひとつ。
数週間前から毎日此処に居て、小綺麗にしてる中1人ごつい眼鏡を覚えてたから。


『ごごご、ごめんなさ…!』

「で、それ何?」

『こ、これは…』


もうひとつ。
この女の行動がどうしても気になったから。地べたにしゃがみこんで必死にノートに何かを書いてる姿はテニスコートには似つかわしくない。


「何?」

『これは、ですね…あの、えっと、』

「言えねーの?じゃあ、」

『ああ!返して下さい!!』

「んーと、何々“侑士先輩が欠伸した”何だコレ…」

『きゃああ!朗読しないで下さい!』


罰が悪そうに言葉を詰まらせるコイツに痺れを切らせてノートを奪いとると、メモ書きにされた文章は“侑士先輩”“侑士先輩”そればっかり。
侑士の行動が書き殴られてた。


『もうもう、返して下さい!』

「……お前さ、」

『な、何ですか…』

「ストーカーってやつ?」

『!』


侑士を逐一チェックしてる辺りそれ以外考えられないだろ?
それもご丁寧にメモまで取って、こんな近くで…あれだあれ、本物の馬鹿だ。


『ストーカーなんて酷いです…』

「いやいやストーカーだろ」

『あ、アタシはストーカーみたいに家まで押し掛けたり変な手紙送ったり後を付け回したりしてません…!』

「じゃあ何だよコレは」

『そ、それは、侑士先輩が今日どんな感じだったか、観察日記を…』

「完全に黒、ストーカーじゃん」

『違います!アタシはあくまで部活中の先輩しか見てないですもん!』


俺からすれば十分ストーカー行為なんだけど断固として認めない。
なるほどな、こういう奴がエスカレートして警察沙汰になるってか。自覚症状が無いのも考えもん。
だけど涙目で違う違う繰り返すのを見るのも何だかなーって。何で俺が罪悪感、感じなきゃいけねーんだって話。


「おいストーカー」

『ストーカーじゃないですってば!』

「悪い悪い、ストーカーはいつからやってんの?」

『ストーカーじゃなくて観察日記は2週間くらい前から…』

「意外と短いな」

『だって顔だけで惚れたんじゃないですもん…』

「え?何かエピソードあんの?」


ただのミーハーかと思えばそうでもないみたいで。
侑士の何倍厚みがあるんだろう眼鏡の位置を直すアイツの言葉を待った。


『侑士先輩が、教科書拾ってくれたんです』

「は?」

『移動教室の時に忘れた教科書をアタシの教室まで届けてくれて…普通他人の教科書なんて見付けても放っておくじゃないですか、だけど侑士先輩はちゃんと届けてくれたんで…』

「あー、結構ベタだな期待したのに」

『何言ってるんですか!十分素敵じゃないですか!』

「惚れたきっかけもお前の眼鏡もベタ過ぎ」

『眼鏡は関係ないと思うんですけど…』


ストーカーは遠慮したいけど、もしかして俺のファンかなって期待もあったのに。
まぁこんなもんか、飛び跳ねて立ち上がると何かが手に触れてカシャンと音がした。


『あっ、眼鏡が…』

「悪い、手が当たっちまった!ほら眼鏡―――」

『有難うございます』

「……………」

『アタシかなりの近眼で眼鏡無いと何も見えなくて…、向日先輩?』

「、」


時が止まったみたく固まった俺に眼鏡を掛け直して覗くアイツを見てやっと意識が戻った感覚。
参った、眼鏡取ると可愛いとかベタも大概にしろってやつ。眼鏡掛けてたって漫画みたいに顔が見えない訳じゃないのにこうも雰囲気って変わるもん?


『大丈夫ですか?』

「、うんうん何でもない」

『そうですか…あの、黙っててもらえますか…?』

「え?何を?」

『侑士先輩にアタシの事言わないで下さいね…』

「馬鹿か」

『、』

「言わねーよ」


つか、誰が言うもんか。
かなり珍しく俺が声を掛けたのも、それがお前だったのも、そういう縁があったって事で、


「それより眼鏡っ子、名前は?2年?」

『はい、名前、です…』

「よっしゃ覚えた!」

『、先輩?』

「名前、明日も来いよ」

『――――』


見かけから名前を気に入る、そんなのタチ悪いしアイツは侑士が好きだし前途多難だけど仕方ないじゃん。
名前を見てみたいって思ったんだから。そういうのも有りっしょ?


(意外と優しいんですね…!)(喧嘩売ってんのか)(ち、違います!嬉しかっただけです!)(……も1回言ってみそ?)(えと、嬉しかった、だけです…?)(疑問系にすんな)




(20090624)


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