05.
名前の髪が比べようもないくらい俺より全然短くなって、それでも変わらず笑ってくれた後。俺も、短刀を握り締めた。
「あー腹減ったー」
『あ、平助君、遅かった―――ね……?』
『お、おい、平助…?』
「何だよ名前も左之さんも皆揃って変な顔してさぁ!早く飯食おうぜ飯!」
『いや、だって、平助君…』
『お前、その頭…』
「あー髪?長いの飽きたし切った。それだけじゃん」
名前と話をしてから、熱くて重くなった瞼を冷やす為に顔を洗ってると、必然的に結い上げた頭のてっぺんから流れてくる髪の毛。サラサラと頬を掠める髪を尻目に、俺は名前より短く切る事を決めたんだ。
今度は、名前を守れますようにって。
「首がスースーするけど個人的にはすっきりして前よりいけてんじゃねえかなって思ってんだけど」
『そういう問題かよ…』
『まあ良いんじゃない?平助の髪って人一倍長くて鬱陶しかったし僕はそっちのが良いと思うけど』
「総司は一言多いんだよ!」
『そ、そうだな、髪を切ったお陰か藤堂君の顔付きも些か変わった様に見受けられる』
「さすが近藤さん!分かってんなぁ!」
『兎に角、今は飯にしようではないか!せっかく温かいのに冷めてしまうぞ!』
「賛成ー!」
『…………………』
左之さんや新八っつあんは化け物見たみたいな顔してたけど、近藤さんや土方さんはきっと察してくれたんだと思う。意外だったけど総司もそうだ。余計な事が追加されてはいたけど俺の不甲斐なさっつうか、これからの事を理解してくれたんだ。
ただ、当の本人は眉を下げたまま、米を口に運んでたけど。
「んーっ!食った食った!今日の当番名前だったんだろ?やっぱ美味いよなぁ!ご馳走様」
『う、うん…』
「…………………」
広間から出て、縁側に座れば名前は今も俺と眼を合わさず俯いたまま。名前は別にそんな顔する必要ねえんだけど…それが良いとこなんだよなぁ、優しいっていう。
でもずっとそんな顔されてんのは嫌だし。への字に曲がった口を上へ上げてやる為に俺は名前の頬っぺたをぷにっと引っ張った。
『っ、へ、へいふへふん…!?』
「あっははっ!名前まじで変な顔ー!」
『ちょ、いたい、なにふんほ!』
「何言ってんのか分っかんねえ!」
『いいはへんに…離してよねもう!!』
「おっ、と」
名前にとっては不意な事で、頬っぺたを思い切り引っ張られて爆笑されるとか拗ねたくもなるんだろう。俺の手を払い除けて頬っぺたを擦りながら怪訝な顔を向けてくる。
それすら愛嬌がある様に見えて、本っ当冗談じゃなく惚れてんだなって。
『もー…いきなり何するの…』
「悪い悪い、だってさ、名前が病んでる顔してるから止めさせたかったし」
『そ、それは…』
「俺の髪、そんなに変?」
『へ、変じゃ、ないけど…』
「じゃあ格好良いの一言でもくれたら良いのに」
『いや、だからそういう問題じゃなくて、』
「言っとくけど俺は名前の為に切ったんじゃねえから」
『え…?』
「そう思ってんなら自意識過剰ってやつだな」
怪訝だった顔が瞠若に変わって、それを合図に俺はゆっくり口を開いた。
俺が髪を切ったのは自分の為。俺がもっと強くなって、新選組の人間としても要訣な一員と見て欲しいし、それより当然名前を守りたかったから。願掛け、って言えば女々しい気もするけど何処かで知らしめたかったんだ、見えるところで。
だからそれは名前の為じゃない。俺が名前にとって頼れる男になる為、自分の為なんだから。
『平助君……』
「俺さぁ、それなりに強いんじゃねえかって思ってた分、本当はすげえショックだったんだよな」
『………………』
「だから強くなる。もっと強くなって、誰にも引けを取らないようになってみせるから…もし、その時が来たら…」
『、』
「俺だけを、頼ってくれねえかな……」
まだ弱い自分じゃ威風堂々に言い切る事は出来ねえけど…今にも消えそうな小さい声に、『結局アタシの為じゃんか』って笑った名前は太陽を背負ってた。
(20110406)
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