藤堂長編 | ナノ


 


 04.




池田屋から引き上げた俺達は傷の手当てから始まりそれぞれ報告という名目の会議を済ませた。こっちに被害が無かったかと言われたらそうじゃねえけど、結果を言えば新選組として最善だったって事になる。
だけど、名前の顔を見れば土方さんも近藤さんも、皆が皆驚いて瞠若してた。当の本人はヘラヘラ笑ってたけど。



「……名前、入っても良いか?」



それから数刻後、既に大半の隊士は寝てるだろうって時間になった時、俺はアイツの部屋を訪ねた。勿論眠れなかったって理由もあるし、だけどそれ以上に、謝りたかったんだ。



「もう、寝てんのか?」



返事が無い相手に悪いとは思いながらもゆっくりと襖を開けて。布団の中で丸まって瞼を落とした姿に少しだけ安堵した。



「名前…今日は、本当に、ごめん」



本当は起きてる時にちゃんと言いたかったんだ。だけど眼を合わせるにも合わせられる根性が無かったからさ、眠っててくれて、良かったのかもって…
そんな時に伝えたってただの自己満足でしかない無意味な事だって分かってんのに。



「俺、最低だよな。笑って帰るって約束も破っちまったし、お前がくれた帯もさ、大事にするって決めた途端汚しちまった。土方さん達と話しが終わってから直ぐに洗ったんだけど赤いの、落ちねえんだ…」



自分のかも他人のかも分からない血の色に染まった帯。それが申し訳なくて、自分が非力だった証拠にさえ思えて。
めちゃくちゃ、悔しい。



「だけどそれより悔しいのは、名前を、守れ無かった事なんだよ…」



天霧だとかいう奴に勝てなくて、自暴自棄みたいになってて、名前が居るってのにそっちにばっか気を取られてた。守りたいって自分で誓ってたくせに俺が馬鹿だから、アイツを傷付けた。
怪我って怪我は無くて外傷は無いけどそれだから良かったって問題じゃない。アイツの大事なもの、俺の所為で無くしちまったんだ。



「お前はさ、芸者じゃねえんだから髪くらい気にしないなんて言ってたけどさ…俺と同じくらい長かったじゃん…あれだけ伸ばすのにどれだけ時間掛かったと思ってたんだよ…女にとって髪の毛ってのは男が思ってるより大事なもんだろ!笑って無いで責めてくれよ!怖かったって、俺が悪いんだって、俺の所為だって咎めてくれよ…!」



嫌だけど、許さないって言われた方が楽だった気がする。平気平気って笑ってるの見てる方がつらい。無理してんの分かってるからそっちのが嫌なんだよ…

触れるのも許されない気がしたけど、全然俺より短くなった肩に付くくらいの髪へ指を伸ばして触れるとまた一粒滴が落ちた。



「く、……」

『……泣かないで』



するとさっきまで瞼を落としてた筈の名前が俺の手に自分の手を重ねながらこっちを映してた。



「名前、」

『アタシはね、自分の髪が無くなるより、平助君が無事な方が嬉しいんだよ』

「、」

『だから、平助君が気にする必要無い。アタシは落ち込むどころか喜んでるんだし…あ、そうそう、平助君を守れた勲章だーって自慢したいくらい!それとも髪が短くなったアタシは不細工だとか?』

「こ、こんな時に何言ってんだよ…!」

『じゃあ良いじゃん?早く泣き止まないと皆に言い付けて笑い話にするからね』

「、馬鹿名前…」



起き上がって顔を覗いてくる名前は普段通りで、そのお陰で余計に泣けた。
哀感だけど喜悦、哀しいけど嬉しいんだからしゃーねえじゃん。笑い話にされたって、俺は器用に笑えねえんだから。




(20101217)







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