14.
貴方が好きです
本当に大好きです
ベタ14. スペシャルラヴ
お風呂に入って寝てしまえば直ぐに朝が来て白石君に会える。
ほんの少し我慢すれば良いだけ、そう思って小さく小さくなっていく白石君を見届けて見つめて、大人しく家に戻る……
訳がない。
だって、究極に高まったテンションと熱いハートのせいで言うことを聞いてくれない足は白石君の背中を勝手に追うし。
そのまま足音を消して適度な距離まで近付いては電柱やら車の影に隠れてストーカー根性丸出しだったり?(あああ、癖になりそう)
「歩く姿も美し過ぎる……」
絶対に聞こえないだろう、小さく呟いたら益々白石君から離れたくなくなった。
白石君…何で貴方は白石君なの…
俄然乙女思考で尾行して、白石君を舐める様に見てはハァハァと息が上がりそうになる。白石君の魅力に完全虜だ、どうしよう…頭の中ではさっきのチュウ(をしそうな距離)のシーンがエンドレスで繰り返されて、ドキドキし過ぎて心臓が痛い。
これが恋煩い?愛くるしいってこと?
マイワールドに入り込んだアタシはヨロヨロと地面にしゃがみ込んで、ジュリエット気分で白石君目がけて右手を伸ばした、その瞬間、
「……………」
背中を向けてた筈の白石君はニッコリ顔を見せながらアタシの手を握ってくる。
や、やばいんじゃないでしょうか。
ストーカーしてたのバレバレってやつですか!
『名前ちゃん、何処まで付いて来る気なん?』
白石君の家までです
なんて言えない。
「あ、ああああの、」
『こんなとこに座ったら服が汚れてしまうで?歩いて疲れた?』
優しい…。
ストーカーなアタシをそっと起こしてくれる白石君は出逢った時と同じく、王子そのものじゃん…(ロミオ…!)
『ちょっと散歩でもしよか』
「、良いの?」
『夜遅くまで女の子連れ回すのは気が引けるけど、俺は名前ちゃんと一緒に居れる時間が増えて嬉しいで?』
「白石君…」
『行こか?』
「うん…」
ゆっくり歩いて歩幅を合わせてくれる白石君がどんなに愛しいことか。アタシ本気で世界一幸せ者な気がする。(勿論アタシだからこその展開ですけどね)
白石君と並んで歩く、それだけで煌びやかな世界に一変するけど、そういえば大事なことを話してない。
「し、白石君?」
『うん?』
「あのね、タイミング逃して話しそびれたことがあるんけど、聞いてくれる…?」
『もしかして昨日電話で言うてたやつ?』
「そう、それなんだけど…」
『名前ちゃんの話しなら何でも聞くで』
「……………」
きゅんきゅんときめく胸を押さえながら、アタシは1回深呼吸をして口を開く。
「今日の朝、光君に会ったのは知ってるよね、」
『うん』
「本当は昨日の帰りも会ったんだけど…」
『財前に?』
「うん…」
『そか、』
うーん、愁眉して唸るもんだからやっぱり言うべきじゃなかったかなって心配と後悔が渦巻く。
それでも白石君は『それで?』って、ちゃんと聞いてくれるから怖ず怖ずとしながらも続けた。(だけどあんな事をいざ口にするのは…は、恥ずかしくない…!?)
「昨日は光君がね、アタシの口唇触って、な、舐めた、から、ちょっとドキドキ、した…」
『……うん?』
「そ、それで!それで今日は、朝迎えに来たって言って、アタシのカロリーメイト食べたから、また、ドキドキしちゃって…」
『……………』
眉を寄せて黙り込む白石君を見ると初めて怖い、だなんて。
嫉妬してくれてる…?嫉妬だったら嬉しいけど、墓穴掘ってたらどうしたらいいの………!
『……で、』
「、え?」
『それで、名前ちゃんは財前が気になるっちゅうこと?』
一歩ずつ進めてた足はピッタリ止まって、身体ごと真っ直ぐアタシを見てくるから。だからもう、アタシは自分の気持ちをちゃんと言わなきゃって。今言わなきゃ後悔しそうだって。
「ひ、光君にドキドキしたけど…」
『けど?』
「アタシが1番ドキドキするのは白石君、だから…出逢ってからずっと、白石君が良いって思ってた…」
『……………』
「だ、だからね、光君にドキドキしたことは、疾しい気がして嫌で、白石君にちゃんと話しておきたくて…」
普段、白石君と話す時より何倍も何倍も緊張して震えて。上手く言えないけど、ちゃんと伝わって欲しい。
「アタシは、白石君が好き、です…」
よく言った、よくやった、自分自身を褒め称えてあげたい。頭の片隅でそんな余裕持った自分が居るけど、本当の本当は白石君が口を開く迄のこの時間が苦しい。
今まで散々調子に乗ってたけどフラれるかもしれない。誰が見ても相思相愛でしょ、って偉そうに思ってたけどエゴなだけかもしれない。実際、アタシと白石君は出逢ってからまだ、たった2日しか経ってないもん…
好きを吐き出した途端、艱苦が襲って泣きたくなった。
『……名前ちゃん』
「は、はい…」
『俺等、知り合って間もないやん?』
「うん……」
やっぱり、そこを突っ込むんだ。
ついさっきまでハイテンションだったアタシはもう居ない。白石君の顔が見れなくて俯いて、地面のコンクリートを恨むように睨み付ける。
『まだ2日しか経ってへんけど…』
「……………」
何て言われるの?
覚悟を決めたみたいに歯を食い縛って拳を作ると、
『逢うた瞬間、特別、感じひんかった?』
好きか、好きじゃないか、返って来る答えは2つに1つだと思ったのに、特別って?
「特別…?」
『うん。俺は名前ちゃんを初めて見た時、他の子とは違うなぁて思たんや』
「…それって、」
『俺はこの子を好きになるんやって、そう思った』
「…………」
『名前ちゃん。俺は名前ちゃんが好きや』
調子に乗って、だけど不安になって。身勝手な妄想ばっかりしてたもんだから白石君の言葉が痛いくらい心臓に突き刺さった。
感動して、感激して、嬉しくて、幸せで。
これが言葉にならない感慨無量な思いなんだって実感してるとアタシの両手を包んで『時間なんやどうでもええんちゃうかな?』愛を耳打ちされる。
「あ、アタシ、」
『うん?』
「白石君がアタシに優しいから舞い上がってて、」
『間違うてへんよ?』
「さっきも、キスさせるのかなって恥ずかしい勘違いして、」
『ハハッ、そうやったん?』
「でも、告白してフラれたらどうしようって哀しくなって、」
『うん…』
「だから、本当に、嬉しい…」
泣きたいくらい嬉しいのに、嬉し過ぎて涙が出てこない。
何ていうか、身体中が幸せを感じて神経を鈍らせてる気がする。
『2人の想いが報われたことやし、彼氏彼女っぽい事しよか』
「え?」
『名前ちゃんの期待に答えたいんは男として当然やろ?』
優しく優しく最っっ高に笑った白石君の口唇がアタシのと重なってキスがプレゼントだなんて…!
憂愁に笑う白石君の顔だけでもヤバイのに、口唇からのスペシャルラヴのお陰でまたしても逆上せる運命だったアタシは『名前ちゃん!?』って白石君の声が遠退く中、念願のキスを噛み締めた。(ついにアタシも大人の階段昇ったのよ…!)
眼が覚めたら、光君にメールを送るね。白石君じゃなきゃ嫌なんだって。
アタシがメールを打ってるその横で白石君が、嬉しそうなのに嫉妬した姿が浮かんだから、その時はアタシからもスペシャルラヴをあげたいなぁなんて。(やっだアタシってば大胆!)
(白石君!このまま結婚して下さい!)
(そういうのは俺に言わせてや?)
END.
(20090711)
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