最後に見たのは愛しい人の泣き顔で
ホンマなら笑った顔が見たかった
せやけどそんなん贅沢やんな?
最後に見れたのが名前で良かった
名前が俺の為に流してくれる涙は贅沢過ぎる程の幸せ
そうやろ?
「ん……、」
眼が覚めると何処か邸の様な風景が広がってた。
俺、死んだんちゃうん?それとも死んだらこんな処に来るん?
此処が地獄なんか天国なんか、もっと別の世界なんか分からんまま身体を起こした。
もう息苦しさも無くて、何処か痛むなんて事も無くて、訳が分からず周りを見回すと、
『漸くお目覚めか?』
「!」
『元気そうやなぁ白石ぃ?』
書斎机に足を組んで座るのはオサムちゃん。
何でオサムちゃんが此処に居るん…?まさか俺、また死神に…?
『惜しい!ちょっとちゃうな』
「、」
『せやなぁ強いて言うなら白石は幽霊みたいなもんや』
「幽、霊?」
『人間でもない、死神でもない、中途半端な存在』
「な、んで…?」
確かに消えた筈やのに何でそんなモノになったんか、頭が追い付かへん。
何があったっちゅうんや…?
『今ならお前の事殺してやれるんやけど、話、聞くか?』
「…聞く、」
『ほなちょっと失礼、』
「!」
訳が分からへんまま話を続けるオサムちゃんに疑問符を並べて怪訝を向けると、手が額に触れて同時に何かの映像が流れ込んできた。
あれは、俺が消える時の……
『くらのすけ、嫌だ、お願い…死なないで…!』
名前は俺を抱えてずっと首を振ってた。
ごめんな、それしか浮かばへん。
『名前ちゃん?』
『、誰…?』
『オサムちゃんや、宜しくなぁ?』
『よ、宜しくしてる場合じゃないんで…!』
『せやな、急がなあかんもんな?名前ちゃん、白石の事助けたい?』
『、え?』
『助けたいなら、手貸してあげてもええねんで?』
オサムちゃん……?
何の話してんねん…助けるって、どういう事や…
『蔵ノ介が、助かるの…?』
『名前ちゃんが助けたいなら、助かるで?』
『お願い!!蔵ノ介を助けて!お願い、お願い!』
『ええよー?せやけど交換条件があんねん。それでもええの?』
『何でもする!蔵ノ介が助かるなら、何でもする、から…!』
「……………」
『経緯はこんなとこやな、分かったか?』
つまり名前がオサムちゃんに頼んで俺は助かった、そこまではええ。問題は……
「交換条件て何やねん!?」
『…白石、死神の栄養が何か知っとるか?』
「…栄養?」
『人間は何かを食べて飲んで、それを栄養にして生きとる。植物やって水を要するし動物やって草や肉食って生きてんねん』
オサムちゃんが言わんとしとる事が何なのか、気付きたくないけど分かった。
死神は人間を狩る。それ以外何をせんでも生きてる。それは…
「…人間の命やって、言いたいん…?」
『無論、』
ほな俺は名前の命を貰て助かったっちゅう事なん…?
俺が助けたのに、俺が名前を殺して助かったん…?
「、そんな事俺は望んでへん!!名前を返せっ!俺は消えてええねん、消えてええから名前を……」
名前を助けて……
『…白石、話は最後まで聞き』
「、」
『名前ちゃん、居るんやろ?こっちおいで』
「っ!!」
怖ず怖ずとドアから顔を出す名前の姿にこれまでに無い安堵が溢れて涙もが頬を流れた。
名前が生きてる、
俺の前に名前が居る、
また名前と一緒に過ごせる、
「名前!!」
そう思て名前を呼んだ。
せやけど名前は、
『 』
視点が合わず何も喋らへん
「名前…?」
『 』
「オサムちゃん、どういう、事やねん……」
『名前ちゃんの命そのものを貰たら白石は死神に戻れた、せやけどそれやったら白石は納得せえへんやろ?』
「当たり前や!何で俺がそないな事、」
『…せやからな、一部貰たんや』
「一部…?一部て、まさか、」
『名前ちゃんの視力と声紋、それを白石の栄養として貰た』
「……………」
それは、もう名前が喋れへんっちゅう事なん?
何も見えへんっちゅう事なん?
俺の名前を呼んでくれへんし、俺の姿を映してくれへんの?
『白石…今のまま過ごすなら、お前は誰にも見えへんし死ぬ事も出来ひん。それが嫌なら今此処でお前を殺したる』
オサムちゃんがそう言うと、声にならへんでも名前の口唇が動いた。なんや…?何を伝えようとしてるん…?
“く”
“ら”
“の”
“す”
“け”
「――――っ、……」
例え声が出えへんでも名前は俺を呼んでくれる
“す”
“き”
例え眼が見えへんでも手を伸ばしてくれる
「名前っ!!俺が、分かるん…?」
“ず”
“っ”
“と”
“い”
“っ”
“し”
“ょ”
「…せや、な…これからは、ずっと一緒に居ろ、な…?」
幽霊でも死神でも名前が俺を必要としてくれるなら
『ほな白石、此処に残るんやな?』
「当然、やろ?俺が名前ん事守ったらんでどないすんねん…」
『ん、分かった』
結局、
あの日も今も俺は名前に救われた
それの恩を一生懸けて、彼女を愛する事で返していくから
もしも名前が死んでしもても生まれ変わるまでずっと待ってる
例えそれが人間としてやなくても、
動物でも植物でも何でもええ
俺はずっと隣で名前の名前を呼んで
名前に好きやと伝えるから
せやから、
「名前、俺と幸せになって下さい」
彼女は確かに俺を観て微笑んだ
僕は一生、君の名前を呼び続ける
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