12.
愛してる
それだけじゃ駄目な日常なんて要らないのに
pulsation.12 できちゃいました!
春は目前、梅の花が白く色付いて欠片を地に付ければアタシの高校生活も残り僅かなんだと知らされた。
『ゆき、まだ決まってへんの?』
「……何が?」
もうとっくに夏は過ぎてると言うのに引退の二文字を見せないアタシ達3年はいつも通り部室でテーブルを囲んでいた。
光の横で枝毛を探してたアタシに降って来た蔵の言葉の意味は分かりやすいものだったけど知らんぷりで毛先を眺めるアタシ。
『何が、やないやろ?まだ就職先決まってへんの?』
「よ、余計なお世話だもん…」
『ちゃうねん、心配してるんやで?』
ハァ、溜息吐く蔵の顔は心配してると言うより唖然としてて、隣でウォークマンをピコピコ触る光は相変わらず。どっちかって言うと彼氏が心配する側だと思うんですけどどうなの?
否、蔵みたいにありがた迷惑な心配掛けられるのも面倒臭いんだけど。
「その話はいいから。別の話しようよ」
『良くないやろ?せやから俺等と一緒に大学行けば良かったんや』
「推薦組の人達に言われたくないんですけどー」
何度かあった進路相談。
周りが『あそこの大学に行く』『あの大学しか行きたくない』なんて進路を決めていく中、アタシは何だか大学に行く気にはなれなかった。別に行きたい学校も無いし入りたい学科も無いし勉強だって好きじゃないし。
それならいっそのこと両親に無駄なお金を使わせるより就職しようかなって。万が一にも正社員になれなくても派遣でもいいし、パートだったりアルバイトでもいい。少し家にお金を入れて自分の事は自分で出来ればいいかなって、就職先も希望がある訳じゃないけど自分なりに考えてた。
只問題なのは学校に来る求人が工場作業だとか現場工事だとか明らかに男の子向きなものばかりだったってこと。
『財前も何か言うたり?お前はまだ1年あるけど彼女の事なんやから一緒に考えたらんと』
『…あー、』
「光、考えてくれるの?」
それまで表情を変えなかった光は蔵を映した後、視線をウォークマンに戻した。
……うん?そこはアタシを見てくれるとこじゃないの?
『考えるって言うたって俺が決める事ちゃうし』
「な、」
『財前!そらそうやけどもっと言い方あるやろ…』
余計過ぎる世話焼きも嫌だとは言ったけど何なのこの一言は?
すっっごいムカつくんですけど?
彼氏としてどうなの?ねぇ彼氏ってもっと彼女の事考えないの?っていうか興味ありません、みたいな……
度外視的な光に愕然したアタシは自然と眉が寄っていく。
『せやけどホンマの事やし』
『そ、そうやけどな、財前はゆきと同じ学校行きたいとか思わへんの?』
『別にー、俺ハード系の専門行きたいんで一緒には無理やて思っとったし』
『へー!財前はもう決めてんねや!』
『謙也、要らん事言わんでええねん!』
何よそれ、
何なのよそれ。
自分はやりたい事があって進路も決まってるから勝手にしろって?1人で悩んでろって?
進路が決められないからって馬鹿にしてるの?
『ゆき…?』
「………………」
『何膨れてんねん。そらいつでも自由に出来ひんのは考えもんやで?』
「!!」
『ざざざ財前!なな何やってんねん…!?』
公衆面前なんて気にしない、日常的ないつものラヴラヴっぷりは今のアタシにとって嫌悪感でしかなくて。
光のキスと胸を鷲掴みされたことによって、アタシの頭の中はプツリと音を鳴らした。
「止めてよどすけべ!!」
『、どすけべ?』
「アタシは光にとってチチが揉めたら良い存在なの!?」
『はぁ?』
『ゆき、落ち着きて、』
「落ち着いてらんないよ!!アタシが進路決められないのはどすけべ光のせいなんだからっ!!」
『人のせいにするとかあり得へんわ』
「だってアタシ、光がすけべだから、変態だから…!」
『自分でも愛や言うてた癖に何やねん今更』
「アタシは、アタシね!赤ちゃん出来たんだもんっっ!!」
『…………え?』
「光の赤ちゃん居るんだから!」
見事な迄の暴走っぷりにアタシ自身自分を褒め称えたくなった。
光は勿論、目を点にして口を開けたままの皆の顔はいつもだったら爆笑もんだけど今は部室から逃げるだけで精一杯だった馬鹿なアタシ。
(20090326)
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